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用意された住居は、おとぎ話に出てくるような、細かい装飾彫りが施された白亜の建物だった。美しく剪定された庭木と色とりどりの花。小さいけれど、手入れが行き届いているのだろう、水垢や落ち葉などはなく澄んだ水が流れ出る噴水があった。周りに建物などはない。あるのは広大な緑の芝生と木々だけ。フランスの宮殿の庭のような印象をうけて、口を閉じるのを暫く忘れた。おかげで「祭」と書かれた大きなうちわと法被が躍る狂う脳内がいい感じに停止して、出ていってくれた。
「ほぎゃああ…ヨーロピアン…」
アホ面を晒しているにも関わらずランさんは、私のペースに合わせて先導してくれる。少し前を歩いているからランさんの焦げ付きそうな視線から逃れられて、ほっとする。
「ここは異世界の方が我が国に降り立たられた際に使用される専用邸です。常に清掃は行なっておりますが、もし不便なことなどありましたら何時でもお申し付けください。」
「いや〜そんなこんな至れり尽くせりで、これ以上は皆さんに迷惑かけれないっていうか…」
日本人の端くれとしてはね、やっぱりね。迷惑かけて当然って思えない小心者だからさ。なんて愛想笑いで誤魔化そうとしていたら、ランさんの壁の様な背中が視界を占めていたのに、いきなりイケメンのドアップに。圧が、高気圧が!!
「何を仰いますか…!いえ、良いのです。ええ、わかっておりますとも、まいこ様はアレンティツアの乙女神の化身。汚水に塗れた私共にもその御心を寄せてくださるのですね…!!!」
わ〜藪蛇だ〜。
これこのまま暫くはランさんの暴走モードでは?
「ランさん!!!少しでも困ったことがあれば夜中でも皆さんを叩き起こしちゃいますね!宜しくおねがしますね!皆さんが本当に頼りなんです!さあ!!邸にはいりましょう!!」
「…ええ、ええ!!まいこ様はこんな私にどれほどの悦びを与えてくださるのですか…」
よ〜し、回避ルートに成功だぜっ。
よろこびって、なんか字が違う風に聞こえたけど、スルースキル発動、そしてターンエンド。
いざ、私の楽園(仮)へ!
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白を基調にした洋風の邸内は、ランさんと出会った部屋よりも私の体格に合わせたような造りで溢れていた。
1週間日替わりで部屋を変えれるくらいの部屋数。
メイドさんはいなくて、ランさんの部下の魔道士さんが身の回りの世話をしてくれるらしい…至れり尽くせり。
若いイケメン揃いで、わっしょいわっしょい。
ランさんは、私が来たことを国の上層部へ報告しなくちゃいけないらしく、暫くは会えないんだって。でも、何かあったら何を置いても駆けつけるから、とランさん専用機を貰ってしまった…。
イケメン男子から初めての贈り物に高鳴る鼓動。不整脈じゃないと思いたい。
あ〜いい夢だな!
明日も仕事だなあ、ああ嫌だ。こんなデブスがちやほやされる夢をみるなんて欲求不満なのかなぁ。明日なんか起きるかも。いやだなぁ、そういう時は寝るに限る。でも寝ちゃったらこんなチヤホヤされるのは人生で最後なのかも。ちょっともったいないかな。
なんて色んな意味でドキドキさせられるエキゾチックなランさん(の顔)を思い出しながら、デブ肉を優しく包む込む極上ベッドで横になる。
あ〜いい夢だったなあ。