プロローグ
プロローグ
歴史に名を残す人物。
経緯は様々あれど、そこに共通するのは努力の量や運の良し悪しだけではない。
——「工夫」だ。
人とは異なる発想をもって、誰もできなかったことを成し遂げる。
それができた者だけが、膨大な歴史の中にその名を刻まれるのだ。
この世界で最も有名な偉人と言えば「大賢者」か「大勇者」だろう。
——その内の一人が今、薄暗い部屋の中でソファに腰掛けていた。
テーブルには二つのグラス。
中には鮮やかな赤い液体が少しだけ注がれており、わずかなアルコール臭を漂わせている。
「……お前に似ておるよ。あの小僧は」
かつて魔族の王を退けた「大勇者」は、向かい側に置かれたグラスへ話しかけた。
テーブルの向こう側にあるソファに、座る者はいない。
「初級魔法程度しか使えん。剣も使えん。それがなぜS組におるのか。……学園内でも様々な議論を巻き起こしておるよ。儂にもあの小僧の強さはいまいちわからぬ。ただ——」
グラスを手に取ると、中の液体で口を湿らせる。
酒精がかすかに鼻を抜けた。
「淡々と。淡々と常識を破りおる。新たな魔法式の開発にとどまらん。まさかあのような魔法があるなどとは思わなんだ。……お前のせいで、常識破りには慣れておったはずなのだがな」
笑いを噛み殺すようにくつくつと声を漏らすと、グラスをテーブルに置く。
「……お前があの小僧を見たら、どんな反応をしたのか。最近はそんなことばかり考える。全く、歳は取りたくないものだ」
そう言い残し、かつての「大勇者」は席を立った。




