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弟38話 シレイス様も形無しだな

「ちょっといいか?」


 暗がりから声が聞こえる。

 接近には気づいていたのか、落ち着いた様子で迎えるハージン。


 周りに並べられたたいまつと焚き火の炎が、声の人物を照らす。

 ジョーだった。


 その光は、かなり広範囲を照らし出している。

 夜の闇と同化し、影にしか見えない村人もいるが、薄闇と炎の対比は独特の空間をうみだしていた。


「さっきはすまなかったな…」

 ハージンに声をかけるジョー。


 村のリーダー選出から少し時間が経っていた。

 何の話か分からない様子のハージンに、自分の首根っこをギュ~っと、つかんでみせるジョー。

 シドを生き返らせてくれと、つかみかかってきた時のことを謝ったのだと理解するハージン。


「仕方ないさ…」

 肩をすくめるハージン。


「もう、いいじゃないの」

 うんざりした様子を見せるのはレナン。


「いや、けじめさ…」

 なおも続けるジョーに、起こる失笑はディエマだ。


「ハハ、ジョーらしいや…」


「さあてと、湿っぽいのは無し無し、そろそろいい頃合いのはずよ」

 立ちあがるレナン。


「そういや、さっきから何作ってるんだ?」

 向かう先にある鍋を見てディエマが問う。


「シチュー」

「お、いいね」

 レナンの答えに舌なめずりするディエマ。

 その様子に、またもうんざりした感じをだすレナン。

 そういえば、パスタをモリモリ食ってなかったか?


 そう時間も経ってない…

 シレイスもやれやれといった様子。


「いいから手伝って。お皿が足りるかわかんないんだから!!足りなかったら、村に戻って取ってきてよ」

「な、何で俺が!!」

 反抗の意を示すディエマだったが、


「さっきのパスタ、お代頂いてもよろしいんですの?」

 この言葉には黙るしか無い。


「ぐっ…金取るの反則!!」

 くやしがるディエマに慌てたような叫びが聞こえる。


うわ~


 シレイスだった。

 見れば炎に包まれた何かを手に、必死で振り回している。


「何やってるんだ?」

聞いたのはジョー。


「お皿が…」

 申し訳なさそうなシレイスの言葉の意味を理解したレナンの悲鳴があがる。


 そう、シチューの皿が燃えていた。

 それも、一つや二つではない…


「あぁあああもうっ!!!信じられない!!」

 憤るレナン。


「そりゃ、そんな炎だらけの手で触ったら、そうなるわな~」


 そう、シレイスは今、全身に炎を纏った神獣イフリートなのだ。

 慌てるレナンをよそに、のんきな声をだすディエマに叱責の声が飛ぶ。


「笑い事じゃないから~!!!絶対に足りないから急いで取ってきて!!」


「わ、わかりました」

 ただ事ではないレナンの剣幕に慌てるディエマ。

 そのディエマの後を追おうとするシレイスに、響きの増した声が飛んだ。


「あんたはいい!!村じゅうの木の皿燃やされたらたまらないよ」

「うぅ…」


「は、大魔導士を目指すシレイス様も形無しだな」

 ニヤつくジョー。咎める目線のレナン。


「俺はそこの草が燃えてないのが不思議だけどな…」

 シュンとするシレイスを見るハージンの視線の先にはシレイスの足がある。

 確かにごうごうと燃ゆる足元から地面の草に炎が移る様子は無い。


「ほんと…燃えてない?皿は触っただけで炎に包まれたというのに…」

 漏れ出るレナンの声


「意識の集中があるか無いかだろうな皿を手に取るためには手先に集中する必要があるからな…」

「おい、ハージン、この姿どうにかなんねえ?」

 何か知ってるかのような的確な説明にワラをもすがるような気持ちでたずねるジョー。


 しかし、予想していた答えが返ってきただけだった。

「いや、どうにかなるなら試してる」


「でもよ、これじゃ飯も食えないって話だぜ…」


 ハッとするシレイス。

 持つと燃えるのだ。口元まで運ぶのさえままならない。


「うわ、俺嫌だぜ?彼女ならともかく、男で、知らねぇ奴が見たら得体の知れん魔人が膝まづいて口開けて上を向いてるところにシチューを流しこむ役なんざまっぴらだっちゅうの~」

しらっと、その場に残っていたディエマが、からかうような声をあげる。


「な、私がいつそんな情けない真似を」

「そうでもしなきゃ食えないだろうが!」

「いや食ってみせる!意識を集中させなければいいんだろ?」


 そう言って、そ~っと残った木の皿を持つシレイス。


 ゴクリッ…


 その場にいる全員の緊張が高まる。

 皿は燃えてない。


(そ~っと…そ~っとだシレイス)

 期待と不安の入り混じるディエマの心の応援…


 ボッ…

 一瞬のうちに炎の塊と化す。


 チリチリ…

 黒ズミとなり落ち行く粉。

 失われた何枚目かの皿…


「な~にしとんのじゃワレ…」

 睨むレナンの前に、今にも卒倒しそうなくらい、くの字に体を反らしながら、


「す、すぐ取ってきま~す」

 か細い声を上げて(きびす)を返し遠ざかる姿は、先ほど水の魔人を圧倒した姿には程遠い。


「ってか、あんたが行ったら皿が無くなるから~」

キッとにらんだ先に、アワアワと様子を見ていたディエマを見つけざま飛ぶような声をあげるレナン。

「いいから早くシレイスのバカを止めてこい!!」


 声に押されるように走り出すディエマ。

 それを見ていたジョーと村人数人も、取りつかれたように走り出した。


 最初の少女のイメージからは想像もつかない激高だ。

 これだけ仕切れるなら、彼女がリーダーでもいいような…


「あれ、ハージン?」

 消えたかのように姿を消したハージンに困惑するレナンだったが、彼はシレイスの横にいた。


「おい、待てって」

 走り出したシレイスと、ほぼ同時くらいに飛び出したハージンだったが、なりふりかまわず、聞く耳持たないシレイスにその声は届かなかった。


「おい、シレイ…!!」

 再び声をかけようとしたハージンだったが、いきなりズシッとした感覚が右手を襲った。

「な……!!!!」

 バランスを崩しそうになりながら、それを確かめる。


「ファリエスの宝剣??」

 立ち止まるハージン。


(我を使え…)

 心に語り掛ける声…

 それは、シレイスをも止める声だった。


                   ~第39話に続く~

この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。

でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。


そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。


僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。

僕の中にあるヒーローそのものです。


絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります


すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

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