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サクラバ・ファミリア  作者: 釈 余白
第一章:桜舞う季節に
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5.知らなかった仕組み

 佐倉荘で一人暮らしをするからには稼ぎがないといけない。そんな簡単なことに来てから気が付いた私は、管理人のトラちゃんさんが責任者となっている丹羽農園で働かせてもらうことになっていた。


 だけど二日目から数日は天気が悪く、アルバイトは必要ないからと言われ農園に行く機会はいまだ訪れていない。どうやら丹羽農園はCランク人材の雇用先として指定されているらしく、人手が足りないわけではないようだ。


 アルバイトを雇っているのはオーナー、つまりトラちゃんさんのお父さんの趣味というか慈悲? まあ社会貢献活動の一端らしい。



「へー、トラちゃんさんのお父様って優しくて立派な方なんですね!」


「何言ってるのよ、あんなの偽善よ、偽善。ただの自己満足、いいえ、利権に群がって公金チューチューしてるだけなんだからね?」


「コウキンチューチュー? なんですか、それ?」


「つまりね、ここだけじゃないけど政府が見捨てているとされているF地域だって、やつらが完全に放置しているわけじゃないことくらいは知ってるでしょ?」


「はい、監視ボットも飛んでますし、人工衛星から資源分布? みたいなので武装集団がいないかを常に監視しているとは習いました」


 そう言いながらくるっと周囲を確認すると、少し離れたところにボールみたいな監視ボットが漂っているのが見えた。もしかしたら私たちを監視しているのかもしれない。


 ようやく晴れたこの日、今はトラちゃんさんに連れられて農園に向かっているところだ。そんな私を監視して何になるんだろう。


「ッバーン、パーン」


 意表を突いたオノマトペにびっくりして振り向くと、トラちゃんさんが私の視線の先にあるボットめがけて指をさし、鉄砲で撃つ真似をしながら笑っていた。


「だから、棄民が集まってなにかよからぬことを企ててないかを監視しているわけ。でもあんなボットや衛星のセンサーだけじゃ人の心まではわからない。それに生活に困窮すると人間って言うのは反体制へ傾きやすいわけ」


「そうかもしれません。勉強に行き詰ってストレスがたまりすぎると教師に反抗しがちになるから、そうなる前に弱音を吐いて相談しろって学校で言われてました」


「そうそう、そういうこと。だから極端に貧しい生活にならないよう、農園みたいな単純労働のできる雇用先を抱えてるのよ。うちの農園もその一つってことね」


「つまり運営資金は政府から出ているってことですか? それじゃF地域なんて言っても管理放棄地帯ってわけじゃないんですね。知らなかったなあ」


「まあでも表向きには監視してるだけってことにはしてるわよね。農園とかも直営してるわけじゃないし。ちなみに作っている野菜なんかはどうしてると思う?」


「どうしてるも何も配給やマーケットとかに卸してるんじゃないんですか? 他に使い道があるとも思えないし」


「ノンノンノン、廃棄よ廃棄、といっても実際には捨てないでアタシたちが食べてるんだけどね。人間居住区に住んでる一般市民の口に入るのは工場で作ってるクリーンベジだけなのよ? 肉や魚、調味料だとか食器まで全て完全管理ね」


「そうなんですか!? じゃあ何のためにCランクの人たちを働きに出してるんですか? しかもオーナーにお金まで払って。監視のためだけにしては大げさな気もしますけど……」


「一番は暇にさせておいても仕方がないからでしょ。居住区内ではCランクが就けるような仕事はないし、毎日ボーっとさせておいたら良からぬことを考えたり、Fランク落ちになったりして治安悪化の元になるわ。そうさせないためにも働かせて小銭を与えてガス抜きをさせるわけ」


「でもわざわざF地域でやることあります? 居住区を広げて畑でもなんでも作ればいいのに。通うのも大変じゃないですか」


「さっきも少し触れたけど棄民監視も目的の一つ。だから農園で働いてる間は会話も録音されていて、アタシたちみたいな棄民とどういう会話をしているのかを盗聴してるのよ。もし少しでも怪しい気配があったら連行されるから気をつけなさい?」


「えー、ちょっと待ってくださいよ。それって全然放棄地域で自由なF地域でもなんでもなくないですか? 結局はどこにいても政府からは逃れられないってこと!?」


「そりゃそうでしょ。やつらは人間を完全管理したいんだもの。普段の行動から人口の増減まで全て。もしかしたら体重まで把握してコントロールしてるかもしれないわね」


 そう言われて私は思わずお腹を押さえてしまった。佐倉荘に来てからまだなにもしてなくて、毎日ゴロゴロしながらご飯もおやつもしっかり食べている。どう考えても痩せる要素はない。


「アハハ、冗談よ。そこまで管理してもメリットがないでしょ。いいとこ健康診断で引っかかった後からじゃないの? ちょっと脅かし過ぎたかもしれないけど、反体制デモに誘うだとか、異性を口説くなんて程度ならなんてことないわ」


「もうっ! 脅かさないでくださいよ。でも反体制デモに誘うのも見逃されるんですか? めっちゃくちゃ問題な気がしますけど?」


「デモなんていつでも鎮圧できるからじゃない? ガス抜きになってるなら好きにやらせておいて監視対象を記録してるんでしょ。エスカレートして暴力行使まで行ったら一気に厳罰だしね」


「なんか農園で働くのが怖くなってきました…… やめておこうかなあ。でもそうしたら部屋でゴロゴロしてるだけになっちゃう。そんなんじゃまるでF市民ですよね」


「そうねえ。働くことすら許されてない、ただ活かされてるだけのF市民みたいな生活はおススメしないわね。せっかく自由があるんだもの、働かないまでも趣味的ななにかを見つけるのがいいかもしれないわよ? 今までなにかやってなかったの?」


「私、お花が好きなんです。さすがに家ではできなかったから学校の植物室の係をやってたんですよ? だから水やりとか植え替えの経験もあります!」


「それって農園で働きたい人のアピールに感じるわね。まあ今まで誰も連行されたことなんてないし、あまり考えすぎないことね。監視対象になった人は何人もいるけど、そりゃデモに参加してるとか、C市民を口説いて部屋へ連れ込むなんてことしてれば仕方ないわよ」


「ええっ!? そんな人も働いてるんですか? デモに誘われちゃったらどうしよう…… 私って強く誘われるとあんまり断れない性質なんですよお」


「それじゃ小櫻ちゃんのことを絶対誘わないようにって、アタシからつよーく言ってあげるわよ。あの人にね」


 そう言いながら、トラちゃんさんは少し先にある建物から出てきた姿勢の悪い男性を指差した。



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