表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
38/66

38.心身を鍛える

 美味しいご飯を食べた後は湯船にゆっくりと浸かった。

 身も心も解れゆったりとした空気のままもう一眠りと思ったのだが、まだ体力が有り余っており眠れず。

 深夜に鍛錬を行なったばかりだが、再度やるかと外に出てきた。


「ふぅ…」


 時間帯は明け方。空が白み始めている。

 冷たさを含む空気に心が落ち着く。

 気持ちのいい朝だ。


(さて、ランニングと筋トレから始めますか)


 今回は体力を消耗する目的もあるのでその2つが候補に上がった。

 ランニング場所はこの庭しかないが、問題ないでしょう。

 庭と語るようになったが、こじんまりとしたものでは決してない。

 学校のグラウンドよりも広さがあると思っている。

 故に草原くさはらという言葉の方が実はしっくりくるんだ。

 しかし、庭と呼ぶ。特に拘りがあるわけでもないのに。

 位置について、トントントンと右足のつま先で草地を叩く。

 では…


(待てよ…そういえば、柔軟やってない)


 早速その場に座り込み開始だ。

 思いつく限りのストレッチをやろう。

 そういえば、お風呂上がりにも…


(ダメダメだねぇ。反省、反省)


 これでは何かに書いて掲示しておくべきだね。

 合間にやっていこうと決めたものも増えてきたことだしちょうどいい。


(どこに貼ろうか…)


 できればあの家に画鋲を刺したくない。

 紙を使うのも躊躇われる。

 あれだけノートに記しておきながら紙は貴重という考えも残っているんだ。


(あ…黒板)


「お…いけるか…」


 柔軟運動をしながら考え事をしているものだから、そちらへ意識が取られることもあるわけで…

 開脚をしたら想像以上に開き驚きというより感動かな?

 なんだか面白い。


「おぉ…」


 ストレッチとはなかなかに気持ちがいいものだ。

 あちらでもたまにやっていたけれど、心に余裕もなく雑に行なっていた気がする。

 この身で行なった記憶はこの身体に残されていない。

 そんな不思議な感覚がある。

 自分でも訳の分からない話だと思う。


(なんだっけ…そう。黒板かぁ…)


 予備でもあればいいのにと思ったんだ。

 作業部屋にある黒板には手を付けたくない。

 壁から離すことも移動させることも内容を消すこともしたくないんだ。

 あの部屋にあのまま残っていてほしい。


 チョークは出ている分だけでもたくさんある。

 探せば在庫もありそうだ。

 多くを書く予定はなく、1本で事足りるだろう。

 なので、残数を気にしなくていい。

 問題は黒板そのものを用意できるかという点だ。


(黒板なんて作れないしなぁ)


 道路にも描くことはできる。

 そう考えると石の板でもいいのではないだろうか…


(どこに置くんだよ)


 物を増やしたり移動させたりすることはあるだろうが、それによってあの家の雰囲気を崩したくはない。

 厚い石板が直立する家ってなんだよ。


(木の板なら…いやぁ…)


 壁に打ち付けるのは嫌だ。

 移動式黒板やホワイトボードでもあればいいのだけど…

 なんて考えている内に柔軟体操の内容が尽きた。

 というわけで、ランニングだ。

 今度こそ位置についてトントントン。

 直後、走り出す。


(うわぁ…)


 この身体の違和感を久しぶりに実感した気がする。

 目線の高さや着地点が想定と外れすぎているんだ。

 武術の鍛錬の際も普段とは違う動き方をたくさんするけれど、走るとはまた違うんだね。


(ランニングやって良かったぁ)


 知らずに森に入っていたら大惨事だ。

 危ない危ない。

 柔軟の他にランニングと筋トレも日課の鍛錬に加えよう。


(しかし、身体は軽いなぁ)


 体重がではなく、筋肉量や身体の劣化がないだとかが関係しているのだろう。

 あちらの身体と違いすぎて違和感や困惑が多いけれど、違うからこそ気づける良さもある。

 善し悪しありますねぇ。


(あ、石拾いしないと)


「おっ……えー」


 普通に転んだ。

 何かに躓いたわけでもなく、石に気を取られて。

 まだこの身体に慣れていないようだ。


「………」


 両手と両膝を付いて地面を間近に見るのは二度目だ。

 あの日からけっこう進んだと思う。


(良くなってるじゃん?色々とさ)


 地面に手を付くことはあれど当初と比べれば見違えただろう。

 だから、落ち込む必要はない。


「ふっ」


 口角が上がったところでサッと立ち上がった。

 そしてまた駆け出すんだ。

 朝の気持ちのいい空気を吸い込めば爽やかに笑える。


(息苦しくないね。マシになってる、なってる)


 まるっきり外周を走っているわけではないが、いつもの鍛錬よりは森が近い。

 しかし、恐怖は少なく済んでいる。

 気の緩みと言えば悪い言い方だが、余裕を持てるまでになったと言えば聞こえがいい。

 私はこれを成長と呼ぶ。

 なんだか今日は気分が明るい。

 その理由に心当たりはないね。


(塩おむすびにそんな効果が?)


 とは冗談だ。

 冗談を言える余裕があるのはいいことだが、ちょっと走りに集中しようか。


(背筋ね)


 これまた意識が薄かった。

 改めて自分に芯を通す。


(お、鍛えられそう)


 そこを意識しながら走ると何かが違う。

 姿勢や軸を意識しながら走るのはいいことに思う。

 これも自分に染み込ませたいね。


「あ…きっつ…」


 しんどくなってきた。

 長距離走を行なえばそうなるよね。

 初回に一気に走りすぎるのは良くないのかな?

 魔力操作に響いても困るのでここでやめておこう。

 深夜放置した石が散らばる中心辺りをゴール地点とする。


「…っ…あ…ちょ…」


 思わず地面に座り込んでしまった。

 普通に疲れた。息が弾む。

 片膝を立てて小休憩だ。


「ふぅ…」


 間違いなく疲労を感じているもののなんだか爽快感がある。

 気怠い身体に笑える日が来るとはねぇ。


(別に運動好きだったわけじゃないんだけどなぁ…)


 どちらかといえば苦手な方だった。

 自分に変化があったのだろう。

 目に見えない変化とは分かりにくい。

 どうしてランニングや身体を動かすことに楽しさを見出すようになったのやら。


(男だから?それは偏見か。ま、なんでもいっか)


 つらいと思いながらやるより何倍もいい。

 楽しいと思えるのはいいことだ。


「さてと…」


 このままでは長い小休憩となりそうなので切り替え立ち上がった。

 目線が高いが、慣れないとね。


(あ、いいこと思いついた)


 石を入れる袋か箱でも取りに行こうと思ったのだが、石の箱ならば出せるのでそれを使おう。

 重量が増してしまうが筋トレの一環ということで。


(石が出せるのかぁ…)


 それならば余裕ができたとき、あそこに石畳でも敷きたいね。

 石を拾い集めながら視線を向けるのは森の傷跡。

 真っ直ぐ続く道とも呼べぬ直線。


(余裕なんてできることあるのかなぁ)


 心の余裕の話ではなく、時間の話だ。

 やるべきことが多くてねぇ。


(追々考えるとしましょう)


 優先順位というものがあるからね。

 森林破壊をした張本人であることは重々承知しているよ?

 どの口が言ってんだとは思うけれど、譲れないこともある。


「さて…」


 石を集め終えた。それらが入る石箱は裏の鍛冶場へ。

 今後はこの石を投擲練習に使おう。

 崖に向けて投擲すれば集める苦労が減りそうだから次からそうしようかな。


(ロッククライミングってかなり鍛錬になるんじゃない?)


 高い高い崖を見上げながらそんなことを思った。

 しかし、落ちて怪我ならばまだいいが、死では元も子もない。

 安全を確保してから行なおう。

 下に敷くマットみたいな何かの案が思いついたらとかね。


「さてと、やるか」


(筋トレと言えば腹筋かなぁ)


 背筋、腕立て、スクワット。

 確かプランクは体幹トレーニングだったか…


(やるべきだな)


「あ、ちょっと痛い…くっ…」


 この場にも草は敷き詰められているのだが、その下の土は庭より硬いと知った。

 思いついたら即行動な自分に呆れる暇もない。

 腕の下が少々痛いし、このトレーニングがきつい。

 全身プルプルする。


「けど…」


 絶対これは効果がある。

 正確な姿勢でできているのか確認が取れないのは痛手だね。

 せっかくやるならば無駄にしたくないというのに。


「あ…むり…いや…もうちょっと…」


 秒数を数えるのを忘れていた。


(いや、数えない)


 プランクもだが、どの筋トレもランニングも秒数や回数を数えない方がいい気がした。

 限界と思ったその先の更に先をと目指していこう。


(あれだよ?後の予定のことを考えるんだよ?うんうん)


 自分に語り頷きながら筋トレを続ける。

 ダンベル代わりに鍛冶場のハンマーを使ってみたりもした。

 定型通りではないやり方を見つけるのが楽しくなってきた今日この頃。

 しかし、基礎は大事です。あくまで基礎があった上でのそれ。

 そこは言い聞かせないとね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ