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使えるものは、全部使う



「はっ、はっ、はっ…ぅっ」


 避けて、避けて、避けて。

 避け続ける。

 頭を狙う両手剣を、屈んで避けて飛び退く。


 アイテムボックスから石礫を複数個取り出し、【投擲】する。


「【投擲】ッ!!」


 光を帯びた幾つもの石礫が、狙いもなしにホブゴブリンに降り注ぐ。


「GUHYAHYA」


 当のホブゴブリンは防御する素振りすら見せず、【投擲】を正面から受ける。

 石礫が命中した箇所をぽりぽりとかいていて、余裕の表情が崩れない。

 その裏付けのように、HPも1ミリ程度しかけずれていない。


「っくう〜!何なのあいつ!絶対勝つ!!」


 とはいえ、石も有効打にならないのは証明された。


「やれることはやる…!…斧はもう1本しか残ってないけどね!」


 残り1本の片手斧を取り出し、構える。


「さっ、来ーい!!」


「GIHYAAA!!」


 ゴブリンとも変わらない、小細工無しの大振り。

 ナナイに匹敵する筋力と敏捷により、凄まじい速度の必殺の一撃となっている。


「うっ、し、しぬ…」


 天性のダンスのセンス、そして持ち前の反射神経。

 それらの才能があっても、限界は近い。

 

「うっ、ふっ…着ぐるみ着ながらっ、ダンスしてる気分ッ」


 土師族の種族の特徴でもある、敏捷補正値の少なさ、そして掠りでもしたら死んでしまうという、日常では感じることのない緊迫感。


 それらが、ゲーム開始当時から感じたことのなかったドワーフの身体特有の“不便さ”をナナイが直接感じてしまう原因となっていた。


 袈裟懸けを後退し避け、突きを身をひねり躱す。

 ホブゴブリンも避けるナナイの姿を面白がっているようだった。


「……今っ!!」


「GI?!」


 突きがもう一度放たれた瞬間、捻ると同時に身体を回転させる。

 

 確実に防御ができないタイミング。

 両手剣と石斧がかち合えば、確実に負け、そして砕かれる。

 

 だからこそ、虚を突く必要があった。


「GYA!!」


 脇腹を切り裂く。

 先程の石礫とは比較にならないほどのダメージを与えることができた。


 とはいえ、与えたダメージは全体の数%程度だ。


「浅い…とかじゃなくて、硬いんだよなぁ」


「GYAAA!!」


「お、怒った?!」


:そりゃ腹切られりゃ誰だって怒る

:怒るよね


 先程まで、痛めつける目的があったのか、定かではないが心理的な余裕が良くわかる攻撃を繰り出して来ていたが、傷を付けられてから怒ったようで、先程よりも隙が多くなっている。


「はは、おざなりだよ!ここ!!」


「GI!!AAAAAA!!」


 今度は上腕を切りつける。

 

 更に怒ったようで、我武者羅に攻撃してくる。

 

 そこで想定外が起こる。

 我武者羅になったことで、太刀筋が読みずらくなった。


「こ、これっ!!」


 思わず、今まで紙一重で躱していたところを飛び退き、剣の間合いから大きく外れた場所まで後退する。


「む、無理でしょ!ミキサーみたいになってるんですけど…?!」


:あんなとこ居たらミンチなるで

:なます切りにされるで

:三枚おろしやろ


「言ってる場合?!」


 石を取り出し、【投擲】。

 石が光りながら眉間に命中し攻撃が止まるも、更に表情を歪めて猛進してくる。


「…また怒らせた?!」


:ようやくわかったか

:逃げながら攻撃しろ


「…くぅ」


 当然の話ながら、有効打が無い。

 石礫は先程当てて見せた通り、ホブゴブリンのご機嫌を損ねる効果しか期待できない。

 片手斧、石斧に関してはダメージは入るものの、有効打としては期待値に欠ける。

 確かに、ダメージの入る石斧で攻撃をし続ければいつかは倒せるのかもしれない。


(…でも、やっぱり…!所詮は石器…!)


 恐らく、いや、確実に倒し切る前に石斧が限界を迎える。

 そして、逃げることは不可能。


 負ければ、当然死ぬ。

 ナナイはプレイヤーだ。死ねば現実時間で5時間程度、ログインできなくなる程度だが…


「きゅ、きゅ」


 ポンチョのフードの中にいるカーバンクルは、きっと違う。

 それは初心者のナナイですら想像がつく。

 よく分からない存在ではあるが、ナナイが初めてゲーム内で仲良くなれた存在だ。


(【大切断】…ホブゴブリンに通用する…?どれぐらいダメージが入る…?賭けてもいい…?でも、斧を失ったら…!)


 今までの経験上、【大切断】に石器は耐えられない。


(……石器、じゃなければ…)


「…【大切断】ッッ!!!」


 ズバッ!!


「GYAAA?!」


 光の宿った石斧がホブゴブリンに大きな傷を負わせる。

 今までとは違い、HPが10%ほど削れた。


「…チッ」


 そして今までの推測通りに石斧は砕けて散った。


:なにやってんだ?!

:バカ!!


「GIHYAHYA!!」


 ホブゴブリンが繰り出した両手剣の縦切りを躱し、回転蹴りを食らわせる。

 ダメージはほとんど入らなかったようで、微動だにしなかったが、ナナイの方が反動で飛び退く。


「……多分、これもすぐに壊れちゃうと思う…でも、使えるものは、全部使う。でしょ?リスナー!」


 空間の歪みに手を入れ、引き出していく。

 それは徐々に姿を表す。


 邪悪なオーラ。


 などは、欠片もなく。

 薄汚く、錆びに所々覆われた剣。


 ゴブリンが使っていた、ボロボロの鉄剣だった。


:斧じゃねえのかよ

:ガッカリだよ

:ファン辞めます


「ひどい!!あれは最終手段だよッ!!」


 剣を構え、叫ぶ。

 定番の展開を外したナナイにリスナーは罵倒を浴びせるが、そのような大博打を打つには経験値が足りなかった。


日間1位になることができました。

皆様のおかげです。ありがとうございます。

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