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【MMOでボール投げ】目指せ甲子園



 今現在、ゲートイデア・オンラインにて攻略最前線とされる第三の街『トリプレア』、最高級宿の銀の吐息亭にて、ある男が配信サイトで気になる配信者を見つけた。

 展開が冗長になりがちで登録者が伸びずらいサバイバル配信、アーカイブを見れば3回しか配信をしていないのに登録者は1000人手前。

 半ば無意識に視聴すると、どうも初期地点にて、野草を食べながら湖の水を飲んでいるようだった。


「はは…なんつーか、原始人よりひでぇ生活してんなぁ」


 少なくとも彼にとって原始人はマンモスを狩猟し、骨付き肉を食べているイメージであり、その配信者の食事…食事?は余りにも貧相であった。

 見たところ木苺と根っこを齧っているようで配信者自身も渋い顔で湖から手ですくって水を飲んでいる。

 直飲み。その絵面に苦笑が漏れる。

 さすがにそこまでの野生児プレイをしている人間を彼自身も見たことがなかったのだ。


「…街で水筒ぐらいいくらでも買えるのに…もしかして…」


:初見。街に行かないの?


 配信を見る時、アーカイブの方を好んで見る彼がコメントをするのは珍しいことだった。


 そのコメントが目に止まったのか、その配信者は口を開く。


『街〜?…ドワーフって足が遅くって街に行くのにそれなりに時間かかるって言うし?てかもう始めちゃったし今更辞められないって言うか?』


 一瞬、何を言っているのか理解できなかった彼は重ねて質問する。


:なんか始めたの?


『ん?あ、初見って言ってたっけ。あーし、あっち、あの森の奥で畑作ってるの。まだ耕してないんだけどね?』


 そう言うと、『湖まで遠すぎ!てか脱水症状あるなんて知らんかったし!』とプリプリしながら、野草を食べては湖の水を飲んでいる。

 脱水を知らないということは…初心者か。

 そんで、畑?が森の奥にあって、尚且つ今のとこ水分補給は湖でしか出来ない。


「…おもしれぇ、初心者のくせに苦行プレイか?バッカロア湖でドワーフスタートかよ…」


 男は《機人族》の弓使い。

 将来、ガンマンを目指した構成でランキングにものっている猛者だ。

 他の配信者にはない何かを、画面の奥にいるナナイから感じた男は静かに登録ボタンを押した。



◇ ◇ ◇



 今日も今日とて、ナナイは配信を続ける。

 都合4回目の配信でありながら、アーカイブを見た誰かしらが登録したのか、もう895人の登録者を獲得するに至った。


『【MMOでボール投げ】目指せ甲子園』

#ギャル #ドワーフ #サバイバル #バッカロア湖


 そんなナナイは畑から少し離れたバッカロア湖にやってきていた。

 理由は…


「…まさか、最初のデスペナルティから水を一切飲んでいなかったなんて…」


 気づいてもいい気はするが、気づかなかった原因は存在する。

 それはナナイが常食していた【野生の根菜】である。

 水分を豊富に含むこの根菜は微量ながら水分値を回復させ食糧値も回復させる優れもの。 

 ただそれも限界だったらしく、本格的に脱水したため急いで湖にやってきたわけである。


「ていうかゲームのくせになんでこまめに水分補給しなきゃならないの〜?」


 そうボヤきながらもそもそと根菜と木苺を食べている。


「この水洗い食事もな〜…」


 いつもと変わらない野性的な味にはもう愛想が尽きそうだ。


 そして、ナナイは知っている。


「だがそれも終わり…!投石で、動物を狩るぞ!ひと狩りいこうぜ!」


 うろ覚えのネタを出してから石を構える。


「…まあ、石だけじゃ倒せないよね」


:それはそう

:正直鍬で殴った方が速い

:そうなんだけど、近づく前に逃げられると思う

:だからこその【投擲】スキル


 スキルだなんだと言われても、そう簡単に信じないのがナナイ。


「…そりゃ?石だって投げられれば痛いけど…」


 そんな簡単に動物をやれるのか?という疑問。


:これゲームだぜ?

:投擲スキルがただの石投げと同じ威力と思うなかれ

:ベータテストだと……お試し体験版的なバージョンだった時は極めれば動物程度なら一撃だった。


「…ほんと〜?」


:まま、本気で投げて当てる練習しようぜ

:やってみそやってみそ


「…まあ、やってみようかな…」


 ナナイが全力を込めて石を投げる。

 当然のように地面に突き刺さってクレーターのミニチュアバージョンを作り出した。


:ベタ……なんだが、ドワーフ凄いねぇ。筋力補正値高えわ

:あまりの筋力に地面がえぐれてます

:なにをしてんの???


「…ぐぅ、あーしソフトボール投げ苦手って言ったっしょ?」


:言ってたけども

:地面に投げる奴がいるか?


「いるさ!ここにな!」


 次の石を取り出し、もう一度放すタイミングを調整して投げる。

 すると今度は上に飛んで行った。


「どうしたらいい?」


:いや…これは…

:あー…うん

:れ、練習…でどうにかなる?


「ひどい!!」


 あまりの言い草に憤慨するナナイ。

 そんなナナイに一つだけ真面目にアドバイスするコメントがあった。


:まず軽く投げてみて


「…軽く?」


:全力じゃなくて、軽くポイッと


「…こう?」

 

 軽く投げるとなだらかな線を辿って石が正面の木の幹にコツッと当たった。


「…でもこれじゃあさ〜」


:それを何回かやった後に力を込めてく


「…ほー」


 なんかそれっぽい練習法に感心しながら、どう見ても過剰な数ストックされている石礫を投げていく。

 まずは軽い力でぽいぽいと投げる。

 命中率が安定し始めると、力を込めて投げる。

 命中率がまた安定し始めていけば、更に力を込める。

 すると、また外し始めた。


「…この力加減は苦手ぇ〜…当たんないよ」


 いくつか当たりはするものの、命中率は安定しない。

 

:動作をゆっくり目にして


「…?」


 投げる仕草を緩慢にして、手首の先に力を込める。


「よっ!」


 かつんっ

 木の幹の中心にそれなりの力が込められた石礫が命中した。


「なるほど!…それじゃ、これはどう?」


 ナナイは腰を低くし、石礫を頭の上部に構える。

 さながら、その構えは剣を振るう前の予備動作のようだった。


「フッ!」


 腕を振り、礫は放たれた。

 今までと違い、全力が込められた石は真っ直ぐと木の幹の中心に吸い込まれた。


 【スキル取得条件を達成。ポイントを消費しますか?使用Pt.1/残Pt.8】


「よっしゃ!ありがとう!…えーっと、リスナー!」


:お易い御用やで

:せやな

:簡単であった

:↑この中に嘘をついている奴がいる!


「取得所得ー!」


【【投擲】Lv.1を獲得しました。】


「きちゃー!」


:飲み込みはえー!

:スキル取得早すぎん?

:これで、種族スキル以外の構成は【自然物鑑定】【伐採】【投擲】の3つか

:感慨深いな


「それじゃ、早速使ってみよう!」


 先程と同じ構えを取る。

 すると礫に燐光が宿った。


「ひょー!!」


 思わず礫を見るために構えを解くと、燐光も消えてしまった。


「あー!」


:今のがスキルのスタンバイ状態

:ちなみに、【剣術】スキルだと剣が光る


「すげぇ…気を取り直して、投げるよ!」


 構えを取り直すと、礫が光り始める。


「いけッ!」


 石が光の尾を引きながらそれなりの速度で直進し、木の幹に命中。

 めり込んで止まった。


 木片がポロポロと落ちていくのをナナイは震えながら見た。


「…うわ、こわ」


:スキルとドワーフの筋力補正値、あとなけなしの筋力8が合わさると石でも凶器になるのね…

:あれ?ドワーフと投擲の相性良いの?もしかして

:そんな構成聞いたことないし試すやつもおらんやろ…


「もしかして強い?やった」


 とりあえず、戦う力を手に入れたナナイ。


「…食の彩に肉を加えるんだ…!」

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