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16.行く末

 カイルの問いにマルレーネは少し間を置いて、小さく頷いた。

「そうよ。

 私達の目的は武具の奪還であって、帝国兵を殺す事じゃないわ。

 彼らは皇帝に騙されて操られているだけだもの。

 私達は今まで戦龍の武具を持つ将軍や大隊長を一人ずつ狙い、気絶させて軍から離れた所へさらっていって、武具を奪い返していたわ。

 そうして連れてきた彼らが目覚めるまで、狼や魔獣に襲われない様に近くで隠れて見守って、気が付いたらそのまま彼らが逃げるのを見届けていたのよ。

 でも、目覚めた彼らは武具を奪われている事に気付くと、青ざめて皆、軍へは戻らなかったわ。

 彼らも判っていたのよ。武具を奪われて戻れば、皇帝から睨まれ、下手をすれば命すら奪われかねない事に。

 だから、彼らは自ら行方不明になったのよ」

「そうだったのか」

 やはりマルレーネは命を奪わずに、事を成していたのだ、とカイルは心の中で安堵した。

「そしてあの日、貴方と帝国の話をした後、ムゥが新たな帝国の大隊が近くに来ているのを発見して私は貴方を眠らせ、ムゥとゼスセルと共に赴いた。

 第五大隊の大隊長オーガスタを誘い出して気絶させると、森へとさらっていって戦龍の槍を奪い返して、いつものように目覚めるまで近くで隠れて見ていたわ。

 けれど、目覚めたオーガスタは予測しなかった事をした。

 戦龍の槍を奪われたことに気付き、青ざめて沈黙した後、いきなり持っていた短剣を抜いて、自らの首をかき切って自殺しようとしたのよ」

「!!」

 驚くカイルの前で、その時の光景が蘇ったのだろう。マルレーネは膝の上に乗せた両手を強く握った。

「慌てて私はクーラの力を使って助けようと彼に駆け寄ったのだけれど、槍を手にした私を見て、オーガスタは抱き起そうとした私を突き飛ばして言ったわ。

『お前こそが罪なき人々に血を流させる罪人だ』と。

 言い終えると彼はすぐに死んでしまった。

 それらがショックで、私はそのまま槍だけ手にしてその場を逃げ出したのよ。

 そして血まみれのまま洞窟に戻り、貴方と出くわした」

「あの時の君の姿を見て、オレは後でエドガーから戦龍の武具を奪う者の話を聞いて、君が大隊長殺しをしていたんじゃないかと疑った」

 この言葉にマルレーネは落としていた視線を上げて、悲しげな眼差しでカイルを見た。

「当然ね。私は素性を知られまいと、貴方に何も話さなかったもの」

「オレが追及した時も言わなかったものな。

 でも、オレはすぐに違うと思ったんだ。

 大隊長殺しをするような奴が、顔を見られた状態で俺を逃がしてくれるはずが無い。

 そんな事したら大マヌケだものな」

 カイルは笑みを浮かべて小首を傾げて言う。

 それにつられたのか思惑通り、マルレーネは少しだけ微笑んだ。

「意地の悪い言い方をするわね?」

「そうもなるさ。

 いずれ追い出して別れるにしても、オレをもう少し信用してくれたら良かったんだ。

 事情を知っていれば、警戒してエドガーを君の所へ案内するなんて馬鹿な事はしなかったよ」

「あの時、もし私が戦龍の武具奪還をしていると言えば、貴方は私に協力すると言いかねないと解っていたわ。

 言って無関係な貴方を巻き込む訳にはいかなかった」

 マルレーネは椅子から立ち上がると、近付いてカイルの正面に立つ。

 真剣な表情で彼女は告げる。

「巻き込んでしまった後で言うべきではないけれど、貴方は私たちと別れて故郷に戻った方がいいわ。

 これからも私の戦いは続くわ。皇帝を倒すまで」

 マルレーネの言葉を聞くとカイルは頭をかいて苦笑した。

「もう、今更だ。

 君の気持ちはありがたいけど、オレはもう戻れないんだ。

 洞窟で君と別れた後、エドガーは俺が戦龍の剣を持ち逃げした犯人だと知っていた。

 それは恐らく、帝国の上層部と皇帝にも伝わっているはずだ。

 そしてエドガーがオレを捕え、洞窟へ案内させて戻らなかった事も、ジュノー村のエドガーの屋敷に残っているエドガーの部下達によって、上に報告されてしまっているだろう。

 帝国第四大隊元歩卒のカイル・シンクレアはもうお尋ね者になっているんだ。

 さあ、どうしてくれる?」

 告げてカイルは半眼になり、マルレーネに意地の悪い笑みを向ける。

 マルレーネは新たな情報でカイルに起こった事態を察し、困った顔をした。

 代わりに隣に居たゼスセルが答える。

「カイル、我が主を苛めてくれるな。

 お主が言いたいのは仲間にしてくれ、という事であろう?」

 ゼスセルの説明に驚いた表情になったマルレーネを見つめたまま、カイルは頷いて肯定する。

「駄目よ、仲間には出来ない」

 マルレーネは静かに首を左右に振り、即答した。

 だが、カイルは諦めずに続けて言う。

「危険だから、か? そんなのは承知の上さ。

 けど、オレが君と別れて逃げてどうなる?

 武具を奪われた大隊長達のように、帝国から逃げ回って隠れて君が決着をつけるまで待つのか?

 何年もかかるかもしれない戦いをやり過ごすより、オレは皇帝の嘘によって戦争に巻き込まれた一人として戦いたいんだ。

 例えそれが無謀な戦いでも。

 だから頼む、マルレーネ。俺を仲間にしてくれ」

「私達が相手にするのは皇帝が率いる帝国軍よ。

 自身が帝国に見つかってはならない事は解っているんでしょう?」

「見つかれば、な。

 けれどさっきゼスセルからあの後の事後処理については聞いた。

 多分、今はオレがエドガーを裏切った事は判っていないだろうから、オレは生死不明の扱いになっているはずだ。

 生死不明のあいまいな扱いだからこそ、帝国軍はオレが戦龍の剣を持ち逃げしてエドガーと関わったと知っていても、人手を割いてまでオレを探したりしないだろう。

 帝国軍と皇帝が狙う本命は君だからな。

 生きてるか死んでるか分からない平民出の一歩卒なんか後回しだろうさ。

 オレは顔を隠して帝国軍に見つからないように、うまく行動すればいいだけさ」

 カイルがにやりと笑って見せると、マルレーネは眉間にしわを寄せた。

 そんな中、ゼスセルが笑いを漏らす。

「ふふふ、なるほどのう。カイルの言うておる事は一理ある。

 主殿、連れて行ってはどうじゃ?

 カイルが主殿を護ってくれれば、その分我らは暴れやすくなると思うがのう?」

「ゼスセル……」

 ゼスセルの提言にマルレーネはむっとした顔のまま、彼を見上げた。

「ニャニャ、マムをまもるのはボクニャ!

 でも、カイルがナカマになるのはうれしいニャ! たのしいニャ!」

 今までの難しい話は首を傾げて聞いていたドゥルーが、カイルの膝から下りてマルレーネの目の前でぴょんぴょん跳ねる。

「貴方達……」

 マルレーネは肩を落として大きくため息をつくと、足元に飛びついてきたドゥルーを抱き上げた。

 そしてカイルの方を向くと眉根を下げたまま言う。

「きっとムゥの機嫌が悪くなるわね。

 彼女は貴方の事を嫌っているから、仲間にしたと言ったらどうなるかしら」

 返事にカイルは笑みを浮かべ、確認する。

「じゃあ、仲間にしてくれるんだな?」

「ええ。

 でも、仲間として私と共に行動するからには、覚悟しなさい。

 私達の行く末は二つ。

 皇帝を倒し全ての武具を奪還するか、その途中で敗れて散るか、よ」

「解ってるさ。

 とにかくよろしく頼むよ、マルレーネ」

 答えると、カイルは右手をマルレーネに差し出した。

 マルレーネは少しためらったが、同様に右手を出して二人は握手をする。

「頼むとは言ったけど、まあ一応オレの方が大人だし、オレがマルレーネの保護者みたいなものになるんだろうけどな」

 浮かれて気の緩んだカイルが何の気なしに言った一言に、マルレーネは即座に握手していた手を振りほどく。

 突然の行動に驚くカイルを目を細めて見つめると、告げる。

「カイル、言っておくけれど私は今年で二十四歳なの。

 確かに体は小さいけれど、子供扱いしないで頂戴」

「二十四歳!?」

 マルレーネの告げた年齢に驚き、思わずカイルはオウム返しに叫んでいた。

 そして、エドガーが言っていた事を思い出す。「クーラは見た目の倍の歳だ」と。

(なるほど、出会った時からずっとマルレーネは歳相応の言動をしていただけで、見た目が子供だったから生意気と感じて当然だったんだ。

 けどまさか、オレより七つも年上とは……)

「マルレーネ」

 呆然と考え込んでいたカイルだったが、突然また屋根の穴からムゥの声が降ってきた。

 中に居る者が皆顔を上げ、穴から覗いているムゥを見る。

「どうしたの? ムゥ」

「王国軍がこちらに向かって進軍してくるのが見えたから、報せに戻ったのよ。

 王国軍と出会いたくないなら、今の内に逃げるべきだと思うけど?」

 ムゥの提案にマルレーネは頷いた。

「王国軍に見つかっても面倒なだけね。

 解ったわ、すぐにここを発ちましょう」

「そう、なら早く荷造りをしてちょうだい」

 答えるとムゥは頭を引っ込めた。ゼスセルは屋根の穴へと向かい、再びそこから外へ出ながらぼやく。

「やれやれ、また儂は置いてけぼりか」

「マルレーネを運んだら、また拾いに戻って来てあげるわよ。

 それまで姿を消して待ってなさいな、ゼスセル、」

「ああ、ムゥ、運ぶのはマルレーネとドゥルーだけでは無いぞ。

 カイルもじゃ、仲間になったからの」

「何ですって!? どういう事よ!?」

 穴の外で会話の最後はムゥの金切り声が響いてくる。

 苦笑しつつ立ち上がったカイルの所まで、ムゥの怒声と説明するゼスセルの声が聞こえた。

 マルレーネは踵を返し、部屋の奥、屋根穴とは反対の隅に立てかけられていたものにかぶさっていた布を取った。

 布の下から、五本の戦龍の武具が現れる。

「そんな所に隠していたのか」

 言って、カイルはマルレーネに歩み寄った。

 マルレーネは抱いていたドゥルーを床に下ろすと、五本の中の一つを手にする。

 振り返ったマルレーネは手にした戦龍の剣を、カイルに差し出した。

「これは……オレが持って来たものか」

 見慣れた剣に呟くと、マルレーネは頷いてカイルを見上げた。

「戦いが終わるまで、これは貴方が使いなさい。

 ギルバルトの様に『護る』意志を持って振るうのであれば、彼も赦してくれるでしょう」

 マルレーネの告げた言葉に小さく笑うと、カイルはためらいなく柄を握り、剣を受け取った。

「ああ、護って見せるさ。行こう」


  これにて一旦完結とさせてもらいます。

  最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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