1.敗走
初投稿です。よろしくお願いします。
カイルは夜の森を全力で駆け抜けていた。
体は疲労と無数の傷でいつ倒れてもおかしくないようなありさまだったが、生への執着が彼を突き動かしていた。
かぶっていた兜は何処かに落としたために、伸び放題の栗色の髪を振り乱し、長身ゆえに何度も頭を森の枝にぶつけながら手にした剣で道を拓き、走った。
後方からは怒号と共に、敵軍の兵が大挙して追いかけてくる。
ここは戦場。
カイルの属する帝国と、帝国が侵略しようとした王国の戦争のさなかだった。
「帝国に栄誉と繁栄をーー」なんて、もっともらしい大義名分を掲げてはいたものの、その実、帝国は次々に近隣の国に攻め入り、領土と奴隷と富と骸を欲望のままの増やしていた。
そんな帝国の民でありながら、帝国のやり方を忌み、それでも戦争に参列する事を強いられて、戦場に駆り出された直後だった。
カイルの属する大隊は王国軍の奇襲を受け、大半が死に、残った者はカイルのように森へと散り散りに逃げ出した。
(なんでだよ!?)
カイルは転びそうになりながら考える。
逃げる敵兵を追うにしても、カイル狙う者たちは執拗にどこまでも追ってくる。
たかが一歩卒の自分を、だ。
それだけ近隣国の帝国への怒りは強いのだろうか? 帝国兵であるが故に、その報いを受けねばならないのか。
走り続けるうち突然カイルの眼前が開け、月光の下で高い崖上に行き止まったことに気付き、足を止める。
引き返そうにも、後方のあちこちから怒号が聞こえ、抜け道は無い事を物語っていた。
いっそ飛び降りてしまえばーー。考え、ちらと眼下の深い崖下を覗き込んで目眩がした。
死ぬより、敵に捕虜として捕まった方がマシだと思い直し、振り返った刹那、空気を切る音がする。
ドン、という重い音と衝撃がカイルの体に響く。
見やれば、己の右胸に矢が突き立っていた。
矢を確認した途端、激痛が全身を駆け抜け、限界ギリギリだったカイルの体は力を失い、傾いだ。
喉の奥から熱いものが込み上げ、口元に血が溢れ伝う。ゆっくりと、暗夜に浮かぶ白い月が視界に入った。
カイルの体はそのまま崖下に向かって落ちていく。
(このまま、落ちて死ぬんだな)
落下の途中そう思い至った所で、カイルは意識を失った。




