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地球を征服しますか、それとも救いますか  作者: ずんだ千代子
二章 初めまして地球の皆さん
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④ 「あれ?力加減難しいな……」

「一二.〇八秒……! 凄い! 陸上部入った方がいいレベルだよ!」


 ソフィアが高校に潜入開始してから二日後。二限目にあたるこの時間は、体育の授業で百メートル走を行なっていた。何人か走る様子を見てやり方を覚えたソフィアが真似て走ってみると、そのような結果が出たらしい。余程早かったのか、結果を見た生徒らが集まってきた。


「すごく足早いね! 元々陸上とかやってたの?」

「練習すれば国体とかも狙えるよ!」

「そんなに早いの? 時間とか測ったことないから分からないな」


 周りはそう言うが、ソフィアはあまり結果には驚いていなかった。演習のように本気を出せば、百メートルなんてあっという間だ。しかしそんな姿を見せてしまっては人間ではないと思われてしまう。地球のレベルに身体能力を合わせるようにとアッシュから言われているため、これでもかなりセーブして走ったのだ。


「いやぁシュルツさん早いね。今から体育系の大学に推薦したいくらいだよ」

「ダイガク? いえ、私は勉強はちょっと……」

「冗談よ。あ、もしかして他の競技も得意だったりする?」

「経験はないですが、是非やってみたいです」


 拍手をしながら恵美が近寄ってきた。ソフィアの身体能力に興味を持ったのか、他も出来ないかと勧めてくる。

 アテラにはスポーツというものがなく、身体を動かすものと言えば演習等で行なう戦闘訓練か、レオンお得意のトレーニングくらいだ。その為、ソフィアも地球のスポーツには興味があった。


「そう。じゃあ今日は、シュルツさんとの交流を深めるための授業にしよう! サッカーとかどう?」

「はい、お願いします!」


 恵美の提案に周りの生徒が動き出す。ボールやゼッケンを素早く運び、あっという間に試合が出来る状態になった。ソフィアも、準備が整う様を輝いた目で見ていた。


「一応聞くけど、サッカーのルールって分かる?」

「えっと、この白黒のボールを足だけ使ってあの網に入れるんですよね」


 ソフィアは最近見た日本のテレビ番組の光景を思い出す。サッカーはその時に見た。確か、ゴールと呼ばれる網にボールを入れれば良かったが、その時にボールが炎に包まれたり、ボールを止める者の手が大きくなったりする競技だった。アッシュはマナを使うなと言っていたが、地球人もマナが使えるではないかと感心したのを覚えている。


「そうそう、そんな感じ。あと、味方とのパス回しとかも大切だからね。一先ず五分のゲームをやってみるから、シュルツさんは見学してて」

「分かりました」


 そう言って恵美は首に下げていた笛を鳴らす。集まった生徒を適当に指名し、彼らを整列させた。

 再び笛を鳴らすとすぐに試合が始まった。ソフィアはそれを前のめりで見つめる。地球人はどんなマナの使い方をするのか楽しみだった。

 ミニゲーム式の試合は状況の変化が早い。ボールを取っては取られ、トラップを仕掛けてまた取って。シュートが外れたり弾かれたり。そして、開始二分程で先制点が生まれた。その後もゴールの攻防は続き、終了時には計三点もの得点が入っていた。


 その激しい試合はとても面白く、見ていてワクワクした。しかし、ソフィアは試合後に疑問が湧く。テレビで見たような風を纏って相手を吹き飛ばす技や、ボールが三つになる技は見られなかった。シュートにもブロックにも、一切マナが使われている様子はない。これは授業の一環だからなのだろうか。


「あの、恵美先生。サッカーってもっと、ボールに炎とか氷がついたり、風で相手を吹き飛ばしたりするものではないんですか?」

「何だいそれは。あ、そっか。アニメでサッカーを見たんだね。あのね、普通はそういうこと起こらないの」

「そうなんですか。私てっきりマナを使っているのかと」


 そこまで言ってハッとする。アッシュは、マナという名を地球人は知らないと言っていた。失言だ。これで異星人だとバレては調査を中断せざるを得なくなる。


「魔法のこと? シュルツさんは面白いね。確かに日本には魔法を使うアニメがたくさんあるけど、だからって日本人が魔法を使えるわけじゃないんだよ」

「あ、そうそう、魔法。ニホン人は魔法を使えないんですね。分かりました」


 怪しまれずに良かった。自分が日本人ではないと思われていたのが功を奏したようだ。これからも自分は外国人だと思わせておいた方が良いだろう。

 それにしても、もう少し説明があってもいいものだ。魔法というのは空想上のもので、地球人はマナが使えないと教えてくれればこんなに肝を冷やすことはなかったのに。


「じゃあ次はシュルツさんもゲームに参加してみようか。今度はもっと時間も人も多くするよ」

「はい! 宜しくお願いします!」


 グラウンドに入り、他の人に合わせて整列、礼をする。すぐに開始の笛が鳴った。

 ソフィアにはすぐにボールが回ってきた。おそらく蹴ってみろとの合図だろう。

 試しに思い切り蹴ってみると、物凄い勢いで飛んでいったボールがゴール網を揺らした。一瞬の出来事に周囲がざわつく。


「あれ? 力加減難しいな……」

「す、すごいねソフィアちゃん! ここからゴールしちゃうなんて」

「脚力ハンパない!」

「早すぎて誰も足が出なかったよ」


 思ったよりもボールが軽かったため、予想以上に飛ばしてしまった。しかし怖がられるかと思いきや、クラスメイトは食い付いたように寄ってきた。普段あまり褒められないせいか、これだけクラスメイトから称賛の声を聞くとなんだか照れる。調子に乗って手加減が利かなくなりそうだ。


「えへへ、ありがとう」

「単独プレーも出来ちゃいそうだね。次も宜しく!」

「うん!」


 再開の笛が鳴り、相手からスタートが切られる。

 始めこそ加減が難しかったが、ボールの扱いに徐々に慣れてくると様々なことが出来るようになった。一人で突破することも、パスをカットすることも、傷付けない程度の力でシュートすることも出来た。

 試合が終わる頃にはハットトリックを決め、大活躍で終わった。勉強は苦手だが、地球のスポーツというものはとても面白い。ソフィアは、学校に通うのも悪くないと思い始めていた。


「いやぁ本当にシュルツさんは運動センス抜群だね。うちの娘にも分けて欲しいくらいだよ」


 授業終了後、恵美は歩きながらそう話す。先程の試合を思い出しているのか、腕を組み時折頷く。彼女の顔は活き活きとしていた。


「娘さんがいるんですか?」

「そう。この学校の二年クラスにいるの。アタシと正反対でおとなしいんだよね。もし見かけたら声でも……って、噂をすれば何とやら」


 恵美がちょうど角から出てきた生徒を指差す。綺麗な黒の長髪を揺らした少女が、教科書等を持って歩いてきた。


「ヤッホー。次は移動教室かい?」

「お母さん。そう、これから生物の授業なの」

「学校では先生でしょ」

「ごめんなさい、北条先生」


 美人さんだなぁと、彼女を見てソフィアはそう感じる。自分よりもほんの少し背の高いその少女は、全体的に細身で色が白く、叩いたら壊れてしまいそうな儚さがあった。顔はやはり親子だなと思うくらい似ている。敢えて違いを述べるのなら、髪型と、恵美には泣きぼくろがあるくらいだ。

 ソフィアがジッと見比べていると、恵美が説明し出す。


「あぁ、紹介するね。こっちがアタシの娘で咲夜(さくや)って言うんだ。咲夜、この子はうちのクラスに転入してきたシュルツさん。日本は初めてなんだってさ」

「他国の人とお知り合いになれるのは光栄です。私は北条咲夜と言います。母も含めて宜しくお願いします」


 咲夜は丁寧にお辞儀をする。大雑把な恵美と比べると確かに彼女は控えめな印象だ。


「ソフィア・シュルツです。えっと、こちらこそよろしく」

「日本語がお上手ですね。いろんな国のこと知りたいので、是非今度お話し出来ると嬉しいです」

「え⁉︎ ま、まぁ機会があれば」


 国の話と聞いてソフィアは思わず背筋が伸びた。下手に話せば異星人だと思われ兼ねない。ここはとりあえず適当に返事をしておけばいいだろう。


「では私は行かないといけないので、失礼します」


 軽く会釈をした咲夜は、廊下の奥の方へと消えていった。先程のように、胸のあたりまで伸びた黒髪を綺麗に揺らしながら。


「さて、あなたも次の授業があるだろうから教室に戻りな」

「はい。サッカー楽しかったです。次の先生の授業も楽しみにしてます!」

「ありがとね。じゃ、いってらっしゃい」


 まだ運動着を着て廊下を見つめているソフィアへ、恵美は次の授業の準備を促す。廊下の時計を確認すると、三限目開始まであと五分程しかなかった。急いで着替えればなんとか間に合うだろう。

 手を振る恵美と別れたソフィアは、誰もいないことを確認して階段を飛び上がっていく。

 まったく、授業と授業の間が十分しかないなんて、ニホンの学生は忙しいというかせっかちというか。

 文句を垂れつつ更衣室に入ったソフィアは、慣れない学生服に四苦八苦しながら、先程会った少女のことを思い出していた。恵美の娘だと言っていたあの少女が何故か気になる。顔と言うよりも、その後ろ姿に見覚えがある気がするのだが。


「きっと先生に似ているから会ったことある気がするだけだよね」


 自身に言い聞かせるように呟くと、チャイムが鳴り始めた。ここの学校では、教師の後に教室に入ると遅刻扱いになるらしい。彼女のことは気になるが、今は目の前にある遅刻という大問題を回避しなくては。

 ソフィアは急いでロッカーを閉め、持ち前のスピードで廊下を進んでいった。

 緩いパーマの金髪がなびく様子を見ているものは誰もいなかった。

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