表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

結末は猫のいないところで

「セザール!! セザールはいるか!?」


 数年ぶりの覇気のある声で……安宿の主人は、その安宿の管理人を呼び出していた。


「は、はい! 何でございましょう、領主さま!!」


 セザールと呼ばれて出てきたのは、かつてエメに悪態をついていた女性であった。 化粧っ気も全くなく、年齢以上の女性に見える。


 セザールの返答に、安宿の主人……オセロット・ヴィレは静かに苦笑する。


「領主さま……か。


 セザール、私はすでに領主ではない。


 貴族でさえ、ない。


 シノニムに敗れ、また宮中の陰謀に巻き込まれ、落ちぶれてしまった私だ。


 使用人も、残ったのはお前ひとりになってしまった………」


「領主……オセロット様……おいたわしい……」


 オセロットの言葉に、セザールは涙をにじませてながら、肩を震わせながら応える。


 オセロットは……そんなセザールの肩に手を置く。


「……オセロットさま……?」


 驚いたように見上げるセザール……その視線の先には、いつもの見慣れたオセロットの姿はなかった。


 アルコールにおぼれ、昏い目をした男の姿はなかった。


 オセロットは、続ける。


「私は、天啓を受けた。


 私はまだ……『名将』とやらになる可能性が残っているらしい。


 一度や二度……まあ私の場合、その程度ではないのだが……それでもまだ、私には芽が残っているらしい。


 最後に希望さえつなげられれば……私は『名将』と呼ばれるにふさわしい存在に成れると。


 それにはまず……身体を鍛えなおさねばならんな。


 資金もかき集めて……私は、騎士として、貴族として、もう一度やり直したいと思う!!


 セザール、私についてきてくれるか!?」


 その問いかけに……セザールは知らない間に涙を流していた。


 見上げる先には……自分が少女だった時からあこがれ続けた男が、当時のままの輝きを取り戻してそこに在った。


 それにセザールが手を伸ばしたのは、無意識の行動だっただろう。


 『夢』を目の前にして……それを手に取ろうとするのは、当たり前の心理だった。


「……はい。


 このセザール、オセロット様を心よりお慕いしております。


 私はあなた様の永遠のしもべ。


 オセロット様がたたれるというのなら、私は何処へなりともお供いたします」


「ありがとう、セザール……はは、初めて会った時からお互い歳をとってしまったが……これからも、よろしく頼む」


 セザールの手を強く握りながら言うオセロット……その力強さに、セザールは極まった。


 極まってしまった。


「無論でございます……無論、で……うわあああああっ!!」


 そこから先は、セザールの号泣だけだった。


 少女時代からあこがれた『夢』が今、彼女の心と体を満たしていた。


 充足した時間と空間……その中で、セザールは心に決めていた。


 もう……二度と安宿の住人たちをイビリ倒すのは止めよう、と。

 あと……誰かが間違えて空き部屋に置いて行った大量の超高額アイテム、


 『上位薬種蛙グレーターポーショントードの干物(レア度:☆☆)×20』


 『火蜥蜴のしっぽサラマンダーテイル(レア度:☆☆)×10』 


 『天国スズメスパローゴッドアイズオンの羽(レア度:☆☆☆)×50』


これらを換金し、主の立身出世に役立てようと。


 幸福な時間に浸るセザールは、すでに……自らの主の再生プログラムについて、その卓越した頭脳を高速で回転させていた。


 さて。


 ここまで長々と語ったが、これがこれからこの『ニューフロンティア大陸』を騒がす建国記の前夜譚である。


 のちに関係者は、『雷獣使いのフェリシー』、『疾風雷槍のクレマン』、『成り上がり王』などというありがたい通り名を頂くこととなる。


 ちなみに……この一年以内にセザールさんは男児を出産することになる。


 計算が早い女性は、手だって早いのである。

少し短いですが、これにて終了です。


お付き合いいただき、ありがとうございました~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=111133599&s
― 新着の感想 ―
[良い点] MINAMI様、吾輩は猫である〜読ませて頂きました!完結させるには勿体無いぐらいまとまった設定ですよ! 猫好きということから検索で偶然見つけた作品ですが、こんな名作に巡り会えるとは幸運とし…
2022/01/02 19:29 アライグマ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ