ゴルン教異変編 アヤメの生命波動
生命波動
魂を操ることが出来るとされる分類の魔法。対象の魂を抜き取り、文字通りに即死させることが可能とされる魔法であり、逆に魔力で魂を一時的に作り出すことも出来る
過去には魂を操る手段自体は存在はされてはいたらしいが、大規模で手順も複雑かつ難易度も高く、生贄などの非人道的な手段で行使していた。という文献が残っている程度で、妖魔大戦時に失われた技術、もしくは時代に淘汰された非人道な魔法技術ではあった
しかし生命波動は自身の魔力で魂を操る為に、コスト的に非常に手軽に扱える。それ故に、生命波動の力を悪用される恐れがあるとした為に、生命波動の情報が封印されている
幸い、生命波動に適性を持つ者は現在のオリュートスにおいて二人、アイリス・クローズとアヤメ・クローズだけであり、どちらも力を悪用する者では無い。だが、アイリスは言う
「アヤメちゃんと私の生命波動の力は、少し異なる…性質と言うべきか、なんて言えばいいかな?」
「…そういえば、ライブラからも、翠様からそのことを聞いて無かったな。何を持ってアヤメ・クローズが生命波動の使い手である理由をな…手っ取り早く、百聞は一見に如かず。見せてくれ」
「そうね、言葉で説明するより見せた方が早いか…アヤメちゃん」「わかってます、アイリス様」
アイリスに力を使うように促され、アヤメは深呼吸をし、水をすくうように両手で手のひら合わせ意識を集中させる
「魔力変換魂」
アヤメの手のひらから、青い炎のようなものが出てくる
「…青色の…炎?」「これが、生命波動?」
ユキナとレイアは初めて見る力、その青い炎が美しく見えて、二人は無意識に近づこうとしていたがカノンが止めに入る
「待て二人とも、あんまり近づくな、その魂の炎に触れない方がいい。魂ごと肉体を燃やされる。なるほど、魔力変換で魂の炎を作れるってことは、本当にアヤメ・クローズが生命波動の力を使えるってことか」
カノンは見慣れた現象、そして魔力の反応でアヤメが出している炎は、生命波動による魂の燃焼の炎であると理解する
「ただ、私とは違うのは、私は対象の魂を分離される方が得意だったけど、アヤメちゃんは違う系統に優れている…見せてあげて、アヤメちゃん」
「はい、アイリス様。錬成魔法、ローズ・オブ・ガーデン」
アヤメは両手の魂の炎を、部屋の床の石畳み全体に巻くと、石畳みから薔薇が咲く。それは部屋の中の床一面を覆う程、瞬時に薔薇の床となった
「…こいつは、植物魔法か…」「何と言うか、綺麗…」
ユキナの言う通り、美しい薔薇であり、レイアも見惚れていた。カノンも一見はただの植物魔法に見えた
薔薇の一つを摘んで、観察するカノンであった
そして気付く、この薔薇の正体を
「レイア、この薔薇を燃やせる程度の火を出してくれ」
「…?いいけど」
カノンに言われて、レイアはカノンが持ってる薔薇をに魔法の火をかけて炙る。しかし薔薇は燃えることがない
ここでレイアも異変に気付く
「…何この薔薇、燃やせない?加減を間違えたつもりが無いけど…」
「だろうな、この薔薇、さっきの生命波動の魂の炎で形作っている…」
「流石カノン君、良く気付いたね」
能力を的中してくるカノンの回答に、アイリスは微笑む
「驚いたぞアイリス。お前には出来なかった芸当じゃないか?魔力変換で作った魂で、何かを形作る能力はなかった。しかもここまで精巧で、植物の薔薇を…しかもこの数を瞬時で」
「私には無かった、アヤメちゃんは植物魔法に適正があったというか…私達十字教聖職者は、神官魔法を学ぶけど、指導者によって教え方は違うからね」
結界、治癒、呪いの解除などの分野を扱う神官魔法
十字教の聖職者達は神官魔法を学び、大半が扱える
ただし指導者によっては、神官魔法以外を学ばせるケースがあり
「翠様は植物魔法のエキスパートだもんな…大方アヤメの指導の際に得意分野の植物魔法も教えて、適正が芽生え、そして生命波動に応用出来るようになったって所か?」
「というより、植物魔法を通してじゃないと使いこなせないって言えばいいかな?私のように、相手の魂を分離させたり、即死させてるという芸当がアヤメちゃんに出来ないの」
「なるほどな…アヤメは植物魔法を介しての生命波動を行使できるようになったってことか。それでアイリスとは違うという訳か」
アイリスとアヤメの話を聞いていたユキナは首をかしげる
「あれ?だとしたらそこまで危険性のある能力じゃないってこと?相手を即死させるような能力だからこそ、危険視していたんじゃ?」
アイリスの言う通りであれば、最も懸念されていた即死魔法をアヤメは行使することは出来ない。特殊な魔法の系列には違いは無いとは言え
しかし、カノンやアイリスの考えは違うようであり
「いや、生命波動の使い方は癒しと治癒能力がある。ゴルン教が狙うのは、生命波動による特殊な治癒能力に目を付けていたんだと思うが…奴らがどこまでわかっているかは知り得ないが、それが魂を操る系統の魔法であることを勘付いているなら、どのみち得体の知れない連中にアヤメの身柄をやるのは危険だ」
「それに、現時点でアヤメちゃんが出来ないだけで、もしかしたら私以上に使いこなす可能性もあるかも知れないからね、一概に危険ではないと言えない。アヤメちゃんがこの力を悪用することは無いけど、そのゴルン教と限らず、生命波動の力を悪用された場合が最悪ね」
カノンはアヤメが咲かせた生命波動の薔薇を見渡し
「それにユキナ、危険性が無いというのは大きな勘違いだ。さっきも言ったが、あの生命波動の炎は魂ごと肉体を燃やすって言っただろ?この一面の薔薇はさっきの魂の炎で作ったものなら、任意で魂の炎に戻して、その気になればこの部屋一帯を魂の炎で包んでオレ達を燃やそうと思えば燃やせる状況なんだよな」
カノンの言葉にユキナとレイアは、青ざめて身構えてしまう。知らぬ知らぬ内に命を握られていたことに
身構えた二人に、アイリスは慌てて
「待て待て待って!こっちはそんな気は無いよ!カノン君も脅すような言い方はやめてよ!」
「いやまあ、事実だろ。今のオレが式神の状態であっても、本体にもダメージが行くからな、生命波動の炎は。ありとあらゆる不死の力を持とうが、無敵の能力であろうが、妖魔の再生能力を無効化にして燃やし尽くす、生命波動は対抗手段が無ければ防ぐのが困難な攻撃手段になり得るだよ」
ユキナはカノンの生命波動の炎に、これの本当の本質に気付く
「もしかして、妖魔にとっては天敵かつ弱点?」
「ウロボロスの怪人に通用するかはまだわからんが…おそらく通用するだろうな。奴らの厄介な再生能力を無視してダメージを与えられる数少ない手段になるだろうから…もし奴らがそれに気付いたら、アヤメを抹殺する可能性があるがな」
生命波動は治癒魔法を超える治癒効果、対象の魂を分離させる等の能力、そして妖魔の特徴的な特性の一つ、驚異的な再生能力を阻害させて無効化、無視させる攻撃手段になり得る
妖魔にとっては、最悪な天敵になる能力である
「どのみち、理由がどうであれ、アヤメをゴルン教から守らないといけないのは変わらないって所かしら?ユキナや私が引き続きアヤメのガードになるのは悪くないと思わけど…生命のクラブこと、アイリス様がアヤメに憑依させれば、魔装鎧を纏って戦うことも出来るのでは?」
ユーゴの魂と意識が憑依しているゴートの魔装鎧を纏って共に戦ったグラン、スコーピオンの魔装鎧に憑依している焔の魔女は、装着者の紅の魔女の主導権を変わった。レイアはユキナからこのことを聞いていた為、クラブの魔装鎧に魂と意識があるアイリスなら、この二つの事例と同様に戦えるのではと考える
それを真っ先に思いつくであろうカノンは、苦い顔する。アイリスも同様であり
「あー…そりゃ言うよな…正直なところ、猫の手も借りたい程に手数が足りないのが事実だから、確かにアヤメとアイリスを頭数に入れたいのは山々なんだが…戦闘に関して素人であるアヤメであっても、アイリスの魂と意識のあるクラブの魔装鎧に纏えば、これ以上ない程に心強い味方はいない」
「…カノン君の言う通りだね。確かに私とアヤメちゃんの魂の相性がいい、とういうより瓜二つの魂と言えばいいのかな?紅様とホムラちゃん、ユーゴ君が…グラン君だっけ?その二人よりも間違いなく相性が良い…良すぎる」
相性が良すぎる。ことこの状況化において、アイリスとアヤメに関してのこの相性が良すぎることは一つのデメリットがあることを、カノンとアイリスは理解をしていた
「魂の相性が良いというのは、逆に言えば死者の魂は生者に引っ張られてしまうことでもある。もし、アイリスの魂と意識が宿っているクラブの魔装鎧をアヤメが纏えば、アイリスの魂と意識はアヤメに取り込まれることになる」
「な…」「そんなことって…」
カノンから告げられた残酷な事実に、ユキナは言葉を失って驚き、レイアは信じられない様子であったが
カノンの推測に、アイリスは肯定し
「カノン君の言う通り、もしアヤメちゃんがクラブの魔装鎧を纏えば、私は取り込まれる…今のこの状態も結構危なくってね…あまり長時間アヤメちゃんに憑依していても私はアヤメちゃんに取り込まれる」
アイリスは淡々と今の状態を言い切る。今も自身が事実上、消滅するかもしれないのに関わらずに
「まあ、元々死んでいるような状態だからね。もしもに備えてアヤメちゃんに私の出来ること、戦い方や力の使い方も教えた…まだ教えたいことはあるけど、アヤメちゃんに取り込まれるなら、それが私の運命なんだと思う…だけど、それを良しとしない人がいる…私を失うのも、アヤメちゃんを戦いに巻き込むことを」
「…翠様か…」
「…はい、カノン様。私もアイリス様も、翠様を泣かせたくない、悲しい思いをさせたくないという気持ちは一緒です」




