ゴルン教異変編 ウロボロス製の妖魔について
「すまん、取り乱した」
一時は一触即発になりかけたカノンとライブラであったが、ユーゴが収めたことで落ち着き、ライブラは椅子に座り話を続ける
「ここからが本題というか…先日の百年祭の件で危惧すべき事態になったというか」
「…ミーア王妃、いや、蜘蛛の怪人、そしてその能力を有した状態の妖魔になった串焼き屋の店主の件の方か?ライブラ。魔族はその身体能力と魔力の高さから、素材がいいのか、妖魔に攫われて、妖魔に姿を変えられることが多かったが…」
オリュートスの魔族が一時期絶滅仕掛けた原因として、妖魔が優先的に魔族を狙ってくる。生死を問わず、魔族は妖魔に攫われ、妖魔の繁殖手段として使われた
「実際、救出を優先したとは言え、グラン、ユーゴ、ライブラ、そしてリーノの4人がかりでやっと蜘蛛の妖魔を止めれたからな…しかも平穏で暮らしていた魔族の女性でそれだとしたら、お前の精鋭の配下なら、どうなる?」
「…少なからず、私には助けるという選択はしない、そんな余裕は無い」
ライブラは冷酷に告げる。カノンもユーゴもわかってはいたものの、表情を曇らせる。この後のライブラの言う事がわかってしまったから
「…もし私の配下が怪人、妖魔にされていたら…遠慮はいらん、殺せ。グラン、助けようなんてことは決して考えるな、殺さなけば、こちらが殺されると思え…頼む、一思いに殺してやってくれ」
ライブラはグランには言い聞かせるように頼む。カノンとユーゴならいざ知らず、慣れていないグランに判断が鈍ると思ったからだ。ましてや殺しになれば、現代を生きるグランとユキナはやったことは無い
「…カノン先生、確認ですけど。怪人と妖魔にされた者を元に戻す手段ってどのぐらいあるものなんですか?一定の修復の間に合いないダメージを与えれば、一時的に戻っていましたが」
「その後に怪人から、より凶暴な妖魔化しただろ?その手は使える相手と、使えない相手の判別がわからない以上、推奨出来ない。太極図と解除と再生の術式を使えれば可能かもしれんが、太極図に関しては時間も手間もかかる、解除に関しても宮廷魔法使いが総動員でも、ミーラ王妃のウロボロスカードを解除出来なかったことを考えると、現時点では対象者に埋め込まれているウロボロスカードを破壊するのが手っ取り早いが…問題は、これまでにウロボロスカードが埋め込まれているであろう位置だ」
カノン達が遭遇した、これまでのウロボロス製と思われる怪人と妖魔。禍々しい姿であっても、違いがあった
「鉄塊の怪人、狭間の怪人、飛蝗の怪人…そしてユキナとメノンが遭遇した、怪人の姿のナナコ…異様の姿ではあるが、特徴的に魔装鎧に近い形状をしていた…魔装鎧と同様にベルトのドライバーらしきものが確認している…しかし、ミーラ王妃や蜘蛛の妖魔のそれが確認出来ず、体内…心臓に貼り付いてるようにウロボロスカードが取り付いていた…だよな、ライブラ?」
「ああ、蜘蛛の妖魔は心臓に貼りついた。それを剥がし、ウロボロスカードを破壊したことで元の姿に戻ったが」
「太極図で元に戻したミーラ王妃も、心臓の位置から現れたとメノンから聞いている。自身の意思に反して、怪人や妖魔にされる者は心臓の位置ウロボロスカードを埋め込まれている可能性は高いと判断出来る」
たった二つの事例だけでは、カノンとしては断言は出来なかったが、今考えられる状況としての可能性の高い事例として、ベルトのついていない怪人と妖魔は、心臓にウロボロスカードがあると判断する
「問題は、このウロボロスカードのみをピンポイントで破壊出来るかどうかだが…結論としては極めて困難。足止め出来るならともかく、数が多ければどうにもならん。ましてや相手も同じ空戦能力を有している以上、半端な手加減はこちらが危険だ」
ミーラ王妃は、ユキナが何とか取り押さえられて太極図の発動まで時間を稼げたから出来た。蜘蛛の妖魔はグランとユーゴ、ライブラの三人がかりで出来たことであったが、苦戦を強いられる結果となった
そして避難させた地区だからことある程度の時間をかけての戦闘も可能であったが、常にそういう状況になる訳では無い
そしてそれなりには強度のあるウロボロスカード
「…つまり、ウロボロスカードを破壊させるには相手の心臓ごと壊さなければならない…」
「しかも高速で空中を動くであろう相手に、流石のオレの風の剣や風の刃でもそれが出来る自信が無い、グラン…逆を言えば、一撃でウロボロス製の怪人や妖魔を倒せるとしたら、対象者の心臓ごと撃ち抜く、心臓を含めた胴体を破壊する…ある意味では弱点であり、現時点で被害を広げさせる前、被害を最小に終わらせるもっとも効率にいい手段ではある」
カノンは表情を変えずに淡々と言う。それは数日前にわかっていたことであった。ミーラ王妃や串焼き屋の店主のように、ウロボロスカードを取り付けられた被害者を現実的に止める方法は、対象者ごと殺す以外無いという事実を
「…中途半端に止めようとしても、例え手足を破壊しても再生して襲い掛かってくる…口から放たれるプラズマレーザーを止めるのもホンの一時しのぎにしかならない…カノン先生の言う通り、もし、これが多数の妖魔相手だとしたら、元に戻す余裕なんて無い…」
「オマケに鍛えられたライブラの配下共をベースにした個体が現れるとしたら、蜘蛛の妖魔以上に厄介で、驚異的な存在になるだろ…だから、ライブラは殺せと言っている」
救いよう無い事実に、グランは驚愕し、言葉が出なかった
グランの反応を見たカノンは
「…グラン、この件を降りても構わない。オレたちは軍隊でも騎士団でも無い。命令に従わないと言って処罰される筋合いも無いし、オレ達もお前を責めるようなことはしない。罪の無い、悪党に利用されている者を殺せる側の方がまともじゃない」
カノンからのまさかの提案、グランはライブラの方を向くと、ライブラもカノンの意見に同意の様子で頷いていた
「カノンの言う通りだ、グラン。無理強いはしない…元々は私の不甲斐なさ故に起きたことだ。君が逃げるのも、もし、私の配下を殺すにしても、それは全ては魔王ライブラの責任だ」
魔王と呼ばれる者とは思えない配慮と発言に、グランは呆気にとられ、しばし沈黙をする…そして考えて、グランは一つの質問をする。グランのもっとも行動原理となる重要なことを
「…このことは、ユキナは知っているんですか?」
「勿論、お前が四日間眠っている間にな…ユキナも動揺はした…ただ、アイツも腹を括って、どうにもならなければやると言った…」
「だったら話が早い…ユキナが逃げないのなら、オレも逃げません」
グランは吹っ切れたように、覚悟を決めていた。カノンは苦笑しながら
「やっぱり、そうなるか…ユキナも同じことを言っていたよ。『私が逃げない選択をしたなら、グランも逃げるという選択を選ばない、頼りになる兄だもの』ってな。全く、お前たちの兄妹の信頼は何処から来てるんやら」
カノンが呆れてしまうほどに、グランとユキナの信頼関係は強く、他者には理解できないものであり、ライブラもグランの返答が意外だったのか、驚いた顔をしている。ただ唯一、この場でグランの返答をわかっていたのは
「まあ、そうなるだろうな。カノンと魔王の心配せずとも、オレが選んだ、オレの十二騎士だぜ?まともな訳が無いだろ?」
「その言い方はどうなんだ?リーダー?」
グランの頭の上でドヤ顔で言う白猫の姿のユーゴに、思わず苦言を漏らすカノン。それを見て顔を背けながら笑っているライブラ
「しかしカノン、オレが知っている従来の妖魔とは弱点が違うな?妖魔大戦時は、9割の妖魔の弱点、致命傷になるのは頭部だったが…」
「そうなんですか?ユーゴ様?」
グランは頭の上にいるユーゴに視線を向けながら言う、その質問にユーゴは少し困惑するが、すぐに理解をする
「あー…そうか、100年間まともに妖魔が出なかったとすれば、妖魔の生態とかも知られていないか…妖魔大戦時の妖魔どもは、基本的に頭部を破壊すれば、大概は死ぬ。逆を言えば頭部さえ無事だったら再生する。首を刎ねても、頭部さえ無傷であればそこから体ごと再生してくる。だからほとんどは頭部や、なんなら上半身ごと破壊して吹き飛ばすのがセオリーだったんだがな…」
「正直、ユーゴの言う通りにウロボロス製の妖魔の頭部を破壊して効果があるかどうかはわからないが…力の源がウロボロスカードによるものなら頭部が弱点じゃない可能性は十分考えられる…そもそも、ウロボロス製の妖魔と、妖魔大戦の妖魔、これの構造そのものが異なるというか…妖魔化される仕組みが違う」
「…どういうことだ?カノン?」
「ライブラ、元々の妖魔どもは捕らえた知的生命体の肉体構造そのものから作り変えているということは覚えているよな?」
「…嫌な事を思い出させてくれる…」
カノンの従来の妖魔化の方法に、ライブラは苦い表情を浮かべながら思い出してしまう。あまりにもおぞましいことをしてきた大戦時の妖魔達、妖魔にされた同胞を思い出しながら
「ただ、100年前の従来の妖魔化の方法であるなら、それが宮廷魔法使いレベルが解除する、元に戻す手段を知らない訳でもないんだ。ところがミーラ王妃のウロボロスカードを解除出来なかったのは従来の方法とは異なる手段だった為、そして解析している時間が足りなかった為に解除出来なかったが…ウロボロス製の妖魔化は、上書きと言うべきか…原理的に言えば魔装鎧と似た方法での妖魔化させられているということだ…つまり、妖魔の姿を纏っているという言い方の方がわかりやすいか」
「…カノン先生…それはつまり…」
グランが一気に険しい表情になる。これがどういう意味なのかを察したのだ。それはカノンとしても認めたくない事実
「現在のオレ達の魔装鎧の装着と展開は、魔装具の技術の発展によって効率化と持ち運びが容易になったが、その技術の応用と見ても間違いはない…悔しい話だが、あの時の鉄塊の怪人の言っていることを否定が出来なくなった…セルゲイの築き上げた魔装具の技術が、ウロボロス製の妖魔や怪人を作り出したことになった…」
カノンとグランは魔法使いとしても尊敬に値すべき人物、カノンからすれば100年間、自分の代わりに戦い続け、自分を信じて待ち続けてくれた健気で尊敬する人物。グランからした尊敬する師匠
そのセルゲイ・ローレルの技術を悪用する者、ましてや妖魔の力を使う者に対して到底許せるわけがない
二人の表情は一層に険しくなる
そんな様子を見たユーゴは
「おおこっわ…よりによって十二騎士で最も怒らせたら怖い奴を本気で怒らせたようだな、ウロボロスとやらは…んで?ここからどう動く?ライブラの配下の件は出てきたら始末する方向で、そしてゴルン教の容疑は極めて濃厚であると…」
「確たる証拠と相手の素性、目的も判明していない部分が多すぎるからな…特に石像復活術についてだな…運がいいのか、どうやら明日のゴルン教の本拠地の広場でお披露目するようだから、それを見てから、夜中に本拠地に潜入するという方針で行く…ただ、その場合はこの町を巻き込むだろうな」
もし、空戦能力を持った怪人や妖魔が相手になると、周辺の被害を抑えるのは難しい。百年祭のようにカリバーン王国の全面的なバックアップがあるわけでもない
「避難指示も、転移を魔法を仕掛けるにもゴルン教の察されるか、潰される可能性はある…もし戦闘になったら、こちらで可能な限りは町の住人を守るようには手配はしている。私の魔族の軍が、メルデから離れた所で待機させている…ただ、怪人と妖魔の戦闘に対しては期待は出来ないと思ってくれ」
「ミルース村の方は何か手は打っているのか?ライブラ?たぶん、こちらも仕掛ければ、向こうの方も何かしら動く可能性はあるぞ?」
「ミルース村は教会と孤児院以外に、転移魔法をかけて村人を緊急的に避難出来るようには仕掛けている」
「なるほど、戦いの場に誘い込んで潰せってことだな?わかった、ユキナには伝えておく」
カノンとライブラの話がトントン拍子で進んでいく。お互いにどう動くかわかっているかのように
「すごい…カノン先生とライブラ様…さっきまで殺し合う寸前だったのに…」
「伊達にコイツらは、十二騎士の指揮担当をやっていないんだぜ?グラン」
ドヤ顔でいうユーゴに対して、カノンとライブラは冷ややかな目を向け
「どこかのバカのリーダーが毎回前線で立つもんだから、そうなっただろうが」
「全くだ、誰のせいでカノンの一緒に毎回苦労して考えさせられていると思っている?」
「え、そこまで言うか?二人して」
余談
「グラン、レイアってお前の学校の先輩なの?あっちの式神がユキナから聞いた話だが」
「…あれ?なんで知らない…って、そうだ。カノン先生が魔法学校で講師していたのが一週間ぐらいですよね…その前からレイア先輩は家の用事ということで学校に来ていなかったんですよ。言われてみれば、知らなくて当然ですね…とは言っても、魔王ライブラの孫娘ということは、オレも初耳です」
「レイアに関しても、私の関係を話すとなと厳しく言って聞かせていたからな…私がミルース村のアヤメを見守っているということどこかから聞いたレイアは、ミルース村に滞在するようになった…ここ一ヵ月の話だがな」
「あー…道理でオレが知らない訳だ、時期的にも、オレもそこまで魔法学校の関係者と深い関係で付き合っていた訳じゃなかったからな」
カノンは、必要が無ければそこまで人と深い関係をむやみやたらに築かない。無用なトラブルに巻き込まれたくない為、十二騎士であることを悟られる訳にはいかないのもある
ただ、聖王都魔法学校の生徒、教員からの人気は高く、ちょくちょく紅の魔女に誘われてはいる
「正直、あっちにユキナが行ってよかったですよ。オレ、レイア先輩に嫌われているからな…」
「…意外だなグラン。お前がそんなことを言うとは…」
「これが意外でもないというか…元々オレが戦闘魔法科に所属していたんですよ、レイア先輩も同じ戦闘魔法科で…当時の戦闘魔法科でのトップがオレで、その2番手がレイア先輩みたいなことになって…」
「あー…もしかしてライバル心、もしくは目の敵にされた感じか?」
カノンの言葉に、グランは頭を掻きながら頷く
「あれ?でも、グラン。お前さんは今は魔装具開発科の学科だよな?ユキナは経済魔法科だけど…それまたなんで学科を変えたんだ?変えること自体は珍しくは無いと思うが…」
「それ、セルゲイ先生の命令ですね。オレとユキナ、どっちも今の戦闘魔法科、及び戦闘魔法の競技に関わるのは一切禁じられたんですよ。元々セルゲイ先生の指導を受けていたのもあって、同年代に比べても…自分で言うのもアレと言うか…何と言うか」
グランが言いづらそうにしているのを、カノンはきっぱり答える
「余りにも強すぎたからだな。そりゃ、憲兵団や騎士団が手こずる怪人と妖魔と真正面から戦える人材なんて、現代にはそうそういない。戦える方が異常なんだ…つまり、セルゲイはお前らはバランスを崩すからやめろと?」
「そんなところですね…そのせいでレイア先輩からもっと恨まれる結果になったのが…」
「あー…勝ち逃げのようなことになった訳か」




