ゴルン教異変編 一触即発
これはカノンがレイアから聞いた話と、酒屋で聞いたメルデの町の住人達の話
ゴルン教がメルデに来たのは数年前、アヤメが生命波動に覚醒する少し前である。メルデの近く鉱山で大規模な事故があり、多数の死傷者が出ていた。その際に率先して救出と救援を行ったのがゴルン教であり、ゴルン教の司祭は死んだとされた者達を復活させることが出来ると言い、最初は疑いの目を向けられていたが、司祭は事故で死んだ者達を全員蘇らせて見せた。そこからゴルン教の求心力が急増したという。ゴルン教は遺体が高齢での寿命でない限り、腐敗、火葬する前であれば蘇えさせることが出来るとし、大切な人やペットなどを失った者が藁を縋る思いでゴルン教に入門し、そして蘇らせてもらったと言う
魔法として考えたら常識外れの奇跡の力、次々とゴルン教に入門し、信者となるメルデの住人…いつしかメルデの町の運営がゴルン教を支配するのに、数か月もかからなったと言う
「…ただな、その胡散臭い蘇生やら、復活の術を除けば、ゴルン教は宗教組織としては真っ当なモノなんだ。率先して奉仕活動をし、メルデは鉱山が豊富故に事故は付き物で、事故現場には向かって救援活動。身寄りのないお年寄りや孤児を引き取り、そして教育機関としても機能している…メルデの住人から見ればいい所尽くし」
「表向きは健全な…下手したら十字教よりも世間様に貢献してる…か。ライブラの孫娘の話を聞いてなければ、疑う要素は無いし…敵対する理由も無かったが」
カノンのまとめた話に、困惑するユーゴに対し、グランは考え込む
「おいおいどうした相棒、そんな考え込んで」
白猫のユーゴは、グランの頭の上に乗っかりながら、考え込むグランに肉球を顔に当てる
「いや…都合が良すぎないかなって?確かにメルデは鉱石や魔石の採掘している町みたいですし、鉱山作業だからそりゃ命がけだろうけど…」
「それにしては事故の話がやたら多かったよな?グラン…詳しい統計とかわかれば確信に変わるんだがな」
カノンは辺りを見渡し、魔力反応を感じた場所に目線を向ける
「そのためにここに来たんだろ?ライブラ」
唐突にライブラの名を言うカノンに、グランとユーゴはカノンの目線の方向を向く
「流石だな、お前の魔力探知能力は健在だな」
それは美しい美少年が空間を切り裂き、カノン達の前に現れる
最初に口を開いたのは、無様な白猫の姿に変えられているユーゴであった
「…100年の間に、随分と背が縮んだな…魔王」
「貴様こそ、無様で愛らしい姿じゃないか。勇者」
10歳程の美少年の姿のライブラと、白猫の姿のユーゴ。お互いに憎まれ口を叩き込むものも、ライブラの方はどこか嬉しそうではあった
「…ここに来てライブラの孫とか言われても驚かないが…本人で間違いないよな?ライブラ?」
付き合いの長いカノンでも、この姿のライブラを見たことが無いのと、孫娘の件もあり、疑いの目を向ける
「心配せずとも、私は魔王ライブラ本人だ、カノン。我が姿を知っているお前も、この姿を見るのは初めてだろうしな…上から降り注いだ圧縮弾を浴びるし、怪人の脚に胴体を貫かれる、トドメにお前と合体防壁魔法を無理にした結果、体の修復が間に合わずにこの様だ」
「それは悪いことをしたな、ライブラ」
カノンはさほど悪気もせずにライブラに謝る
「さて、グラン。お前さんの疑問に対する答えは当たりだ。メルデの町の鉱山の事故、もしくは重体になるような事故はゴルン教が来てから多発している…そして、その被害者達の大半がゴルン教に入信している」
「…やはり、ゴルン教が意図的に起こしている?」
グランのゴルン教の疑いに対し、ライブラは頷く
「事故現場を調査した結果、魔法の痕跡…魔方陣と魔石による術式がほとんどの現場が確認された。意図的に起こされたことには違いない…問題はこれがゴルン教が行ったという確たる証拠が無い事だな」
「確たる証拠が無ければ司法、国は動かない…それに今のこのメルデの住人がゴルン教の味方だ。メルデにいる憲兵達も含めてな…表向きに踏み込んだことは出来ないが、確たる証拠は無いにせよ、容疑としては濃厚なゴルン教に対して、お前が踏み込んだことをしない訳が無いよな?ライブラ」
「我の事をよくわかってて嬉しいぞカノン。当然、信用と実力のある者を数名をゴルン教の本部に潜入させた…だが、未だに帰ってきていない。捕まったか、始末されたか…」
ライブラは冷静を装っているものの、声色と溢れる魔力で相当に怒っていることをカノン、グラン、ユーゴの三人は察する
特に長い付き合いのカノンとユーゴは、配下を殺された、酷い目に遭っていることを黙っていられるほどライブラは冷酷な魔王では無いことを知っている故に
「…それで、奴らがウロボロスと繋がりの確証はあるのか?ライブラ」
「これだ、カノン」
ライブラは一つの写真を見せる。そこに映るのはゴルン教の信者達と
「…この剃髪した偉そうな奴は、住人達の話に間違いなければ、ゴルン教の司祭か…そしてこの男…」
「百年祭で現れたマグスって名乗ってたヤツ…!」
グランがマグスの姿を見て、手を強く握り、怒りの感情を出す。串焼き屋の魔族の店主に怪人の姿、妖魔の姿にさせて利用した外道
「グランがブチギレて、顔面に火炎弾叩き込んだ奴か」
「カノン先生、その言い方に少し引っ掛かりますが…」
事実なだけに、悪意を感じる言い方をするカノンにさほど強く言えないグラン
「正直、見ていた方は爽快だったぞカノン。ともあれ、奴を百年祭で目撃した際にウロボロスの繋がりを確信した。百年祭の事件から私がミルース村の不在の間に、アヤメに察されないように護衛していた我が配下達が全滅、石化させられたカルロ遺体を残してな」
「…ゴルン教がアヤメを勧誘し、怪しげな石像からの蘇生の術、ゴルン教に百年祭に現れたマグスと名乗るウロボロスに関係のある男が出入り、そしてミルース村のライブラの配下が全滅させられた…全ててとは言わんが、疑うだけのピースは揃ってるな」
これまでの情報から、カノンはゴルン教に対してほとんど黒であると判断する
「ライブラ、お前の配下達がやられた相手に心当たり、何かしらの情報はあるか?」
「カノン、残念ながらそれに関しては情報は無い。潜入させた者達は未だに帰還せず、ミルース村の護衛達もカルロの遺体以外の痕跡を残さずに行方不明。どのぐらいの戦力でウロボロスの怪人やウロボロス製の妖魔がいるかどうか、不明なのが厄介だな」
「…本当に出たところ勝負か。なら、こっちの布陣と人選…今の所オレの行動は間違っていない所か?ライブラ?」
「ああ、流石にわかっている。お前が酒場で大きく騒いだことで、こちらに意識が向いたはずだ。カノン、お前がジェミニアであることはウロボロスは知っているのであれば、少なからずゴルン教を調べに来たと思うだろうさ」
「あ…もしかしてミルース村に潜伏している可能性がある敵をこちらにも向かわせる為に?あんなに大きく騒いだんですか?なんで目立つ行為をするのかなって思っていましたが…」
カノンの酒場の目立つ行動に、疑問があったグランはようやく納得した。カノンがやっていたのは陽動であると
「とは言え、ミルース村にいる敵がゼロになるとは限らんからユキナを向かわせたのもあるがな。同じ女の子同士ならアヤメとも上手くやれるだろうなって思ったのもある」
「…カノン、その采配には些か問題があるだろう」
ライブラはカノンを睨む、ユキナをミルース村に手配したことが気に食わないのだ
「ウロボロスはユキナもターゲットであろう?生命波動を持つアヤメだが、聖剣の勇者の方がもっと重要だ。ヤツらがそっちを優先するとは思わないのか?」
「ヤツらがミルース村の方を優先するなら、そのまま挟撃するまでだ。密かに来たとはいえ、ミルース村にユキナがいることは恐らく把握していると見ている。だが、こちらにオレやグランがいたことで、ゴルン教の本拠地を狙って来たと思っているなら、奴らは混乱してるんじゃないかな?少なからず今すぐ仕掛けるなんてことはしないと思うがな」
「カノン、奴らがそんな理性的な考えをするとでも?」
「少なからず、ユキナ…聖剣のレオの脅威ぐらいは理解している。理性的な考えをしなくとも、本能的に真っ正面から仕掛けるなんてことしない」
相手の行動予測や人選の采配についてハッキリと言うカノンに、ライブラはまだ、納得していない、不満気な顔であった
「真っ正面から仕掛けるバカなら、ユキナなら撃退出来る。足止めするなり、アヤメを守りきれると信頼している…孫娘のレイアを信用していない、お前と違ってな」
レイアのことを言ってきたカノンに、ライブラは立ち上がり、瞬時に何処からともなく大剣を出してカノンに向ける
グランは二人を止めようと立ち上がろうとしたが
(待ちな、グラン)
グランの肩に乗っかり、カノンとライブラのやり取りを静観するように言うユーゴ
「カノン…少し言葉が過ぎるぞ?」
美少年の容姿ながらも、大剣を向けてカノンを睨みつけるライブラの姿の迫力は抜群であり。相当にカノンの発言に対しての怒りは、その溢れる魔力で建物が揺れ始める
ライブラの大剣と魔力に、カノンは恐れることなく堂々と座ったまま
「配下を殺されて、はらわたが煮えくり返る気持ちは理解できるし、そのせいで孫娘に多少過保護になっているかもしれんが、仮にもオレの事を先生と呼んで慕ってくれるユキナの実力を疑う言葉を言ってきたんだぞ?過ぎた言葉を言われても致し方ないだろが」
「…とんだ勘違いだな、あれを戦力として考えていないだけだ。レイアは勝手にミルース村に来て、勝手に動いているだけに過ぎん。どこで私の動きの情報を耳にしたのかは知らぬが、あれは足手まといに過ぎん」
ライブラの言葉から、カノンとユーゴは
(たぶん、セバスチャンが情報をもらしてるんじゃね?)
という結論に至っていた
「貴様こそ、つい先日までユキナとは険悪と聞いていたが?たかが一か月程度の付き合いで、そこまで信頼に至る、正確に実力を測れているのか怪しいものだな」
「険悪の関係だったからこそ、お互いに遠慮なく殴り合って、お互いに遠慮なく殺意をぶつけて、お互いに遠慮なく言い争いが出来たからこそ、お互いをよく知れた上で理解し合えた。確かにユキナと出会う前、なんならユリカ・カリバーンという人物に対してはオレは知らない。だが、オレは今の、現在進行形のユキナ・グラスという人物を評価し、信頼している」
「…ぬう…」
ライブラが言い淀んだが、続けて言葉を言おうとした。だが、ここでユーゴが口を挟む
「魔王、お前の負けだ。これ以上の言い合いは無意味だ。大体、お前がその剣を感情的になってカノンに向けた時点で負けてんだよ…それに大体な、例えお前が万全な状態であっても、カノンに勝てるか?こいつが本気なら、逆に殺されるのがオチだろうが」
「…ユーゴ」
「オレはカノンの采配は現状考えられる中では最善だ。ユキナがアヤメを守り切れなかったとしても、それは誰がやっても同じ結果だっただけだ。オレもユキナと剣を交えた、聖剣同士でな。ユキナの実力なら信用出来る」
「…お前は、それでいいのか勇者…お前にとってはミルース村は…アイリスは…」
ライブラは悲しげの表情でユーゴを見る。それは魔王としての威厳は無い、悲しい表情
「アヤメはアイリスと瓜二つ、生まれ変わりのような運命を感じる。それに関しては否定はしないさ。そしてオレが愛したアイリスの故郷だからな…オレが守りに行くのが道理って所か?全く、お前はロマンチックの奴だよ、魔王」
カノンは薄っすらだったが、ユーゴは気付いていた。ライブラが本音、配慮と言うべき思い
「オレとアイリスは2年前…お前からすれば100年前にとうに死んでいる。例え魔装鎧に魂と意思が残っていてもそこは否定できない事実。オレとアイリスはその時から別れを済ませているから、それでいいんだよ。私情で動いて、今を生きる者達の足枷になるつもりは無い…それは、アイリスも同じだ…それに、アヤメとアイリスは瓜二つ、生まれ変わりだったとしても、アイリスでは無い。アヤメという一人の可憐な女の子だ。それにな、ユキナはオレの後輩だぜ?上手くやるさ」
ユーゴの言葉に、ライブラはカノンに向けた大剣を収めて亜空間に収める
「やれやれ…カノンと私がまさか、勇者に止められるとはな」
「全くだ、このバカを止める側なんだけどな、オレ達」
「おい?お前ら、オレは仮にも十二騎士のリーダーだぞ?」
十二騎士のリーダー、ユーゴに対して、相応の敬意のしない二人に威厳の無い白猫の姿のユーゴが睨む
そんなやり取りを見ていたグランの感想は
「…本当にリーダーだったんだ…ユーゴ様」
「おい?グラン、そりゃどういう意味だ?」




