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後始末 聖剣の担い手編

聖王都内の病院、最上階の端の病室の前に、トンガリ帽子を被った男が扉をノックをする。中から入室の許可を得て入る


「やあ、二人とも具合はどんなもんだ?」


ユキナとグランの病室の部屋を開けながら、カノンは二人の様子を見る。

いつもと変わらないテンションの軽いノリ。あの時の緊迫した戦っている時のカノンとは別人じゃないって程に

グランはベットの上で、まだ右手にギブスと包帯が巻かれており、ユキナは患者服であるが、身体自体にさほどのケガが無く、ベットから降りて、グランの看病していた


「カノン先…ジェミニア様!!」


一瞬、ユキナはいつもの呼称で呼びそうになったのを、堪えて、カノンではなく、十二騎士のジェミニアの名前で言い直す


「カノンで構わん、ユキナ。というより、あまりジェミニアの名前で呼ぶのは辞めてもらうと助かる。素性を隠せるなら、隠したいからな」

「わかりました…では、カノン先生で」

「そっちの方がしっくりくるな」


カノンはいつもの呼び方、ユキナとグランのこの関係性でいいと思いながら、微笑む

カノンはグランのベットの近くの椅子に座り、グランの様子を改めてみる


「グランは…まだかかりそうか」

「ええ、この有様で」


グランは痛々しい右手のギブス姿をカノンに見せつけるように、可能な限り右手を動かす


「とりあえず、二人とも無事で何より…アレから三日。色々と後始末に追われてな、紅様に事情を話したり、魔法省に事情聴取する為に赴いたら、職員たちに魔装銃を向けられるし、魔法省大臣に色々と証拠を提出したりと…とりあえず、殺人魔法を使ったこと等、不問になったが…悪かった。対応に追われていたとは言え、ここに来るのが遅れたのも、オレの素性を隠していたこと、そしてその説明を第三者に任せたこと。二人とも、危ない目に遭ったのも、オレの見通しが甘かったのもある」


カノンは、座りながら二人に頭を下げる。カノンとしては、この事態になるのは想定外だったとは言え、落ち度を感じていた上での謝罪であった

カノンの謝罪に、ユキナとグランは慌てる


「カ、カノン先生!?頭を上げて下さい!!」

「そうです!今回のことは、私とグランが悪かったんです!むしろ、カノン先生の手を煩わせたこと、助けてもらったことに感謝と、謝罪をしないといけないのは私達です!」


ユキナは椅子から飛び立ち上がり、グランはベットから飛び立ちあがりそうな勢いで慌てる

その姿をみて、カノンはニヤリとする


「ほほう?なるほど、悪いと思っているのか。なら、今回の件はお互いに悪かったで、手打ちだ。いいな?これ以上は、この件でお互いに負い目を感じない、掘り返さない」


カノンの言葉に、ユキナとグランはやられたと思いつつ。カノンの言葉の上手さに配慮、それを受け入れてユキナとグランは頷く


「それでよし…積話は色々あるが…魔法省の話とか、証拠の映像水晶の制作の話とか諸々…そして今回の事件の主犯、聖剣支持派についても。お前たちにも聞く権利もあるし、話さないといけない話はある…が、その前にだ」


カノンはユキナの方を注視し、続ける


「この話を円滑に進めるには、ユキナ。お前の素性をハッキリさせておく必要がある。その為に、お前さん達を数日、看病していたメノンをこの場から離したし、さっき、防音の術式もかけた。この話は、他者に聞かれてはいけないからな」


カノンは、静かに息を吸い、続ける


「ユキナ、お前はカリバーン王国、第七王女、ユリカ・カリバーンだろ?そして数年前に、聖剣に選ばれた、聖剣の担い手だな」


ユキナは、さほど驚かず、静かに口を開く


「…いつから気付いていたんですか?聖剣支持派が、私が狙ったことをわかった時ですか?」

「いや…割と、初対面の時点でな。いくら髪色を染めて、そしてカラーコンタクトを入れてもその面影。十二騎士の一人、聖剣ゴートこと、ユーゴ・カリバーン。ヤツに結構そっくりだったからな…性別や体格を除いてな」


ユキナは観念したかのようにため息をつく。まさか、初対面で気付いているとは思ってもみなかったのだ


「…ご明察です、カノン先生。カリバーン王国第七王女、ユリカ・カリバーン。かつて、そう呼ばれた者です。今はユキナ・グラスなので、ユキナと変わらずに呼んで下さい」

「わかった、ユキナ。お姫様相手に、言葉使いを気にしなくていいの助かる」


十二騎士であることに、不都合になることをわかっているカノンは、ユキナのお願いに応える。カノンは本題に入る


「お前がわざわざ事故死を偽って、グラス家の養女となったのは、聖剣の担い手になったことが、全ての原因だな?」

「はい…私が数年前に聖剣…現在のカリバーン王家に残された聖剣、デインカリバーとムーンダイト。この二つの聖剣が私を認めたことで、私は100年振りの王家の聖剣の担い手になりました」

「傍か見れば…事情を知らない者からすれば、栄誉なことなのは違いないが…そう、簡単な話ではないから。聖剣の担い手になるということは」


カノンは、聖剣の担い手になったことは無い。だが、かつての戦友に聖剣の担い手はいた。そしてその時の苦労を、ウンザリしたような顔をして思い出しながら、話を続ける


「聖剣の担い手は、カリバーン王国の次の国王の最有力候補とされる…だが、そのせいで政治的な要因、周囲の人間が聖剣の担い手の動きを止めようとする…安全圏において置きたがる。結果的に聖剣の力を振るう機会を激減させて、余計な被害を発生させた…という事情が、妖魔大戦時代に起きた」

「あれ?まさかの実体験だったんですか、その話。似た話なら聞いていたんですか…」


困惑するユキナ。まさかのカノン、100年前の生き証人から語らるとは思わなかったのだ


「聖剣のゴート…当時の聖剣の担い手であった、ユーゴ・カリバーン王子達から聞かされた話だ。オレが彼と合流する前の話だったからな…話を戻すぞ」


ユキナとグランとしては、気になる話ではあった。かつての十二騎士の一人、そして最もこのカリバーン王国において一番の知名度を持つ、聖剣のゴート。ユーゴ・カリバーンについては


「それ以外としては、無用に外敵、身内を装った敵とかの暗殺。聖剣の力を悪用とする者達への牽制も兼ねていたって所か?当時のユキナの年齢を考えたら、まだ10にも満たないだろ?」

「はい、あの頃はまだ、善悪の基準…というより、いい人なのか、悪い人なのかの区別もあやふやで、力も全然足りていない年頃では、いい様に利用されるのがオチだと、国王陛下と第一王子らの判断…そして、裁定者のライブラ様の助言もあったと、聞いています」

「ほう?…やはり、アイツが関わっていたのか、ライブラのヤツらしいアイディアだな」


裁定者のライブラ。十二騎士の一人であり、現在はカリバーン王国のご意見番という立場でもある

カノンは、今のユキナの状況を作り出したのは、ライブラの仕業という線は考えてはいたのだ


「ライブラ様の助言で、第七王女、ユリカ・カリバーンを事故死として処理し、新たな名前と居場所として、私の母上の兄にあたる、グラス氏の娘として、グランの妹になり、後見人としてセルゲイ先生。セルゲイ先生は、有事の際に聖剣の担い手としての鍛え上げる為に、私を弟子として迎え入れました」

「グラス氏とは、全く関係ない訳でもなかったどころか、ユキナからした、本来は叔父ということか…ということは、グランは本当は従兄ってことか…グランも、この事情を知っていたって所か?」


カノンの質問に、グランは頷く


「ユキナ…ユリカ・カリバーンの頃から付き合いはあったので、幼馴染で従妹。まあ、昔から兄妹…お互いに気にせずに言い合える相手でもありますし…」

「悪ノリにも、悪い火遊びも付き合うのもやぶさかでもないって感じか。仲が良くていいことだ」

「悪い火遊びって言われれば、マジで言い返さないな…」


グランは、自身の有様、無様だと思ってる姿を、悪い火遊びの末路だと思っていた。それは、認めざる得ない、自身の未熟さを認めなければならないと


「私が聖剣の担い手として選ばれたのは…やはり、妖魔の存在故なんですか?カノン先生」


ユキナの質問に対して、カノンは少し考え込む。聖剣は何も言わないが、未曽有の危機に担い手を選ぶ性質がある。だが、カノンとして、今の状況がそうであるかどうかと思うと、否であり


「…正直、現時点の情報ではわからないって所だ。聖剣を危機と感じる程か?って思ってるのがな」

「…あの鉄塊の怪人、相当やばかったような…オレたちが知っている魔法の常識、法則を無視した魔法行使でしたし」


鉄塊の怪人の魔法、鉄の塊を魔力変換で物質化し、それを無尽蔵に行使していた。ユキナとグランにしても、カノンにしても、そんな魔法行使は、人間では到底無理である


「魔法と妖魔の力を組み合わせて来たから、通常の妖魔より厄介かつ、性質が悪いが…規模の大きさを考えたら、強大な力を持つ聖剣が、危機を感じるとは思えないだよな…」


妖魔大戦時の妖魔達は、一晩で国、大陸の文明を滅ぼす程の脅威であったが、今回は活動家の集団の中に、怪人になった者が一人いただけである。世界を滅ぼす程の規模か、危機かどうかと考えると、カノンとしてはそうでもないと考えてしまう


「少なくとも聖剣が人間同士の争いで行使されたって記録はない筈だ。大昔の魔族との争い、災害を退けるため、別次元から現れた妖魔を対抗する為…妖魔の力を制御した人間相手は果たしてどうなのか…もっとも、あの妖魔の力を行使する魔装具のカード…ウロボロスカードについては、何もわかっていないから何とも…」

「ウロボロスカード…あの黒いカードの正体ですか?」

「そうらしい、グラン…セルゲイが倒れる前に、あの力の名前だけは喋ってくれたからな。ウロボロスカード、魔法省大臣、紅の魔女…そしてサイクの図書館ですら、その存在を知らなかった、全く新しい魔法、知っているのはセルゲイ・ローレルだが…」

「セルゲイ先生…意識が戻っていないんですよね」


グランの言う通り、セルゲイは、カノンにウロボロスカードの名前を教えた後に意識を失い、事情を聴けず仕舞いであった


「もっとも、あれだけのダメージの上に、呪いを強引に解除、ヤバイ魔法薬を使用して強引に立っていたみたいだからな…年齢も考えたらな…」


カノンはハッキリと口には出さないが、セルゲイはもう助からないと判断をしている


「…私たちのせいですよね。私がセルゲイ先生から魔装鎧カードを持ってきて、セルゲイ先生の代わりにアクエリアスとして活動して、そしてヘマを打ったから…」


ユキナとグランは自分の軽率な行いが、セルゲイを死に追いやっていると、自責の念に駆られていた

だが、これをカノンは否定する


「そいつは違う。いずれにせよ、聖剣支持派はお前たちを狙っていた。アクエリアスの活動をしていようがいまいが、結末は変わらなかった」

「ですが…!」


ユキナがそれ以上言いそうになったのを、カノンは遮る。二人に対して初めて見せる表情と目つきで睨みつけながら


「それ以上お前たちが罪悪感を感じるのは、セルゲイに対して極めて無礼な行いだと自覚しろ。弟子風情が思い上がるな、弟子の危機に、命を懸けて守るのが師匠としての役目だ。セルゲイは師匠として当たり前のことをしただけだ…セルゲイは、師匠としての責務を全うしただけだ。話はそれで終わりだ」


カノンは、ユキナとグランに対して初めて怒る。口調こそは荒れることなく、冷静に、だが表情は二人に見せたことがない、鉄塊の怪人と戦っていた時とも違う、明確な殺意を二人に向けていた

二人は息をのみ、身体が震え、言葉が出なかったほどに、カノンの殺意は、二人に恐怖を感じさせていた

それだけ、カノンとしては怒っているのもあるが、セルゲイの死因になるかもしれない事実を、二人から筋違いだと自認される為の、カノンなりの配慮でもあった


「いずれにせよ、セルゲイから事情を聞かなければ、これからの行動を決められないな」


カノンは二人に殺意を向けるのをやめ、いつものトーンに戻る


「聞くって…セルゲイ先生は意識が戻るかどうかわからない危篤状態じゃ…」

「グラン、お前はサイク図書館に行ったんだろ?意識だけを持ってこれる、サイク家の結界魔法」


カノンはトンガリ帽子の鍔を掴みながら、これから何をするのか二人に語る

グランはカノンの思惑に気付き


「まさか、カノン先生…」

「ああ、サイク図書館に正体しようじゃないか。大魔法使い、セルゲイ・ローレルを」

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