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お化けにご注意を 2022年10月28日

 この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。読みたい方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。

 もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。

 山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。

 また、この小説は言うまでもなくフィクションです。

 おはようございます。このはな村インフォメーションです。この番組では、このはな村に関するさまざまな情報をお送りしております。

 このはなFMでは、村外からこのはな村へお越しになる方への情報発信も兼ねて、この放送のネット配信を行っております。


 十月末日はハロウィンです。このはな村のハロウィンは昔のアメリカンスタイルを受け継いだものと言われていますが、その後は村内において独自の変化をしております。

 このため、新たに村へ転入された方や、今週末、村に滞在される方には不明な点も多いと思われます。本日は改めまして、このはな村のハロウィンにおける注意事項をお知らせします。


 このはな村は、明治以降に日本にやってきた外国人が別荘を求めたことをきっかけとして、大きく発展しました。このためハロウィンの習慣も古くから根付き、古くから住む村民にも受け入れられました。

 ハロウィンには、あの世とこの世が繋がり、死者が化け物の姿を借りてこの世にやって来ると言われています。このため村ではハロウィンを日本のお盆になぞらえて「遅れ盆」「秋の盆」「もみじ盆」などの呼び方が生まれ、ジャック・オー・ランタンにあたる「十一郎灯籠」も、盆の迎え火や送り火の感覚でさかんに作られます。

 そして十月は神無月にあたることから、神様が出雲に出張している間を狙って、ハロウィンに付き物であるところのお化けが出現しやすいと言われています。


 このようにハロウィンが深く根付いているという事情から、村内のどこかに、この世とあの世をつなぐ通り道が作られたという説が生まれ、村教育委員会が主体となって行った調査でも、その可能性は否定できないという結果が出ています。

 現に毎年、子どものお化けが集落を練り歩き、家々を訪ねてお菓子を要求した、という通報が村内公的機関に寄せられています。

 事態を重く見た村では、毎年お化けの出没予想日時を発表しております。今年は、本日二十八日金曜日の午後から二十九日土曜日、三十日日曜日、三十一日ハロウィン当日にかけてを予想しております。

 特に三十一日はハロウィンの当日である上に、村では公立の小中学校および各幼稚園は休みとなりますので、お化けの子どもが便乗して大量発生すると予想されます。


 お化けの子供たちは例年、無差別的に各家庭を訪問し、

「Trick or treat」

「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」

などといった要求をしてきますので、逆らわずにお菓子を与え、退散させることを推奨します。

 準備するお菓子は、一般にキャンディやチョコレートなどの甘いものが良いとされています。各家庭自慢の手作りスイーツなども喜ばれますし、村で収穫されたカボチャなどの農作物を材料にすると尚良いとされています。また村で産出された木材を利用した手作りのケン玉や人形などのおもちゃも好評のようです。

 お菓子は和洋を問いません。おやき、焼きまんじゅうなど地域の伝統菓子も歓迎されます。ただし、アレルギーなどへの配慮として、そば粉、小麦グルテン、大豆などの原材料を避けたお菓子を同時に用意すると一部のお化けが喜ぶようです。

 当村のウェブサイトでは、その観点から米粉、またフードロス削減の観点からおから等を使用するケーキやクッキーのレシピを紹介しておりますので、被害対策を検討中の方はぜひご参照ください。


 次に、実際にお化けの子供がやって来た際の対処法についてお知らせします。

 一番無難な対応は、あらかじめ準備しておいたお菓子を素直に与える事です。お化けは集団でやって来るので、小分けにしておくと喜ぶ傾向がみられます。

 また、ウィルス等の感染症について、お化け達も警戒しているとの情報がありますので、原則としてマスクを着用した上での対応をお願いいたします。ただし、お化けの顔面は飛沫やエアロゾルを通さない構造になっているとの観察報告もありますので、村における通常の感染防止策を取れば問題ないと思われます。

 お化けに来て欲しくない場合は、室内の電気を消しておくと効果的です。その際、玄関のドアノブにお化け用のお菓子を提げておく事で、お化けの退散がスムーズになります。障害や病気などで来客を出迎えることが困難な方にも、この方法をお勧めします。

 これらの対処を怠ってお化けの要求を無視すると、ほぼ確実にイタズラの被害が発生します。具体的には、落葉樹の枯葉を全て落とす、収穫し損ねた庭の果物をすべてもぎ取る、木の枝に持参した人形やぬいぐるみを逆さ吊りにして帰るなどの事例が報告されています。こういった被害を避けるためにも、お菓子類の用意はきわめて有効です。

 ちなみに、手作りお菓子の中に辛子やわさびを大量に混ぜるなどの方法でお化けにドッキリを仕掛けて撃退する村民も居るようですが、これは村のハロウィンを何度も経験した上級者向けの方法ですので、村のハロウィン経験の浅い方は避けた方が無難です。


 お子様のいらっしゃる世帯および家族旅行などでこのはな村へお越しの方々への諸注意です。

 現在ではハロウィンの関連行事は日本全国に広がり、家庭でもハロウィンパーティーなどを行うケースが増えているようです。その一方で、このはな村では先程述べたとおり毎年お化けの子供がお菓子を求めてやって来る行事が主体となっております。

 このため、ハロウィンパーティーをご家族など身内で行う際は屋内での実施を推奨します。また子どもが普段の格好で屋外に出たところ、お化けに連れて行かれる事例も多発しております。

 さらに、賑やかなパーティーをしている様子が外から分かると、それを察知したお化けは家庭内に侵入することがあります。その場合、無理に追い出そうとすると様々なイタズラを受けますので、パーティーに迎え入れることで安全が保てます。

 なお、お子様自身の方からお化け行脚(あんぎゃ)に付いて行こうとすることもあります。二〇一九年までは老若男女揃っての仮想パレードも並行して行われていたため、まずそちらに誘導する流れが出来ていたのですが、現在感染防止のためパレードが中止となっているため、お化け集団について行かないとハロウィンへの参加が難しい現状にあります。

これは前述のさらわれた場合を含めて、お子様がお化けの一味になることを意味しています。

 しかし、お化けと行動を共にした子どもは、翌日になると普通の子どもに戻ることが確認されておりますし、お化けの術によって危害を加えられたという事例もみられませんので、基本的には心配の必要はありません。

 ただしハロウィンのお化けを装った大人が子どもを連れ出す事案、例えば離婚した元夫が親権を持つ元妻から子を奪おうとするなどの犯罪が起きることは否定できません。

 ハロウィンの日前後に出現するお化けの集団構成は、例外なく子どもが多数、もしくは全員が子どもです。大人と疑われる仮想した人物が単独行動をしている場合、お化けの偽物ではないかと疑って下さい。そのような身元不明のお化けと遭遇して不安な場合は、自治会役員などの地元住民にお問い合わせ下さい。長年居住する村民は、経験上その地区に出没するお化けの特徴を把握しています。問い合わせの結果、不審なお化け風の人物だと判断された際には、村民の指示に従って下さい。


 最後に、子どもをお化けに連れて行かれたくない場合の方法についてお知らせします。

 元来、ハロウィンはアイルランド発祥の行事で、家族でしめやかに行われるものです。このため、近年のお祭り騒ぎのハロウィンを嫌う村民もおり、それらの家庭ではアイルランド式のハロウィンを行っていることがあります。

 アイルランド式のハロウィンでもカボチャをモチーフにした飾り物などは変わらず使われますが、このスタイルでハロウィン行事をしている家庭にはお化けが寄りつかないとされています。

 アイルランド流であることをアピールする一番良い方法は、子どもにカボチャや大きなカブをくり抜いた仮面を被せることです。

 アイルランドのケルト民族の伝承では、ハロウィンになると子どもが妖怪などの手に掛かるのを防ぐため、子どもに妖怪の格好をさせて仲間だと思わせ、危険を回避したと言われています。

 この習慣を受け継ぎ、村ではアメリカ式ハロウィンに参加しない子どもにもお化けの扮装をさせて安全を確保することが普通となっています。その際、照明としてのカボチャやカブが子どもに被せることによるお守りになるという、理解の混同が起こったと考えられます。

 いずれにせよ、子どもの安全を確保するためにも、いま一度村の慣習についてご確認の上で、このはな村のハロウィンをお楽しみください。


 このはな村インフォメーション、担当は板谷でした。

 こういうウィットに富んだ公共機関の広報が日本にもっとあって良いんじゃないかって思います。無論「子供のお化け」というのはお化けに仮装した村の子供たちですし、ハロウィンに子供たちがお菓子をもらいに家々を回る習慣が根付いた村なんて楽しそうじゃないですか。そんな習慣を面白おかしく伝える事があっても良いと思います。


 ハロウィンはアイルランドのケルト民族の信仰から生まれたそうです。大抵どんなお祭りでもそうですが、最初は素朴な行事だったものが次第に大掛かりになっていき、中身も変化していきます。アイルランド人からすればアメリカ式のハロウィンも派手であるようですし、まして日本のようにどんちゃん騒ぎをするのは絶対に違う、というのが率直な感想だとか。

 海外では悲惨な事故もあったりして、騒然とした中で迎えるハロウィンですが、お化けも人間も仲間、というような感覚も日本人にはあると思います。多様なものと共存する国のかたちの現れとして、ハロウィンを迎えたいです。

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