安くて美味しいのには訳がある 2022年11月4日
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。読みたい方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。
また、この小説は言うまでもなくフィクションです。
おはようございます。このはな村インフォメーションです。この番組では、このはな村に関するさまざまな情報をお送りしております。
このはなFMでは、村外からこのはな村へお越しになる方への情報発信も兼ねて、この放送のネット配信を行っております。
本日は、安くて美味しい、このはな村の野菜や果物を紹介いたします。
規格外野菜という言葉をご存知の方もいらっしゃるかと思います。このはな村は規格外の野菜や果物が非常に多く、それらは大都市などに向けた流通ルートに乗らず、村内の商店や農家の直売、無人販売所などを通じて販売されています。
この規格外作物を村内最大の規模で販売しているのが「道の駅このはな昭和ドライブイン」です。産直野菜や果物の販売は今や全国の道の駅でさかんに行われており、このはな村も例外ではありません。先日この「道の駅このはな昭和ドライブイン」で取材をして参りましたので、その模様をお聴きください。
こんにちは。私は今、道の駅このはな昭和ドライブインの入り口に立っています。この道の駅は、高速道路の開通により閉店した国道沿いのドライブインが解体された際、その廃材から使用できるものを譲り受けて作られました。このため建物は昭和時代を思い起こさせるレトロな外観になっていますが、機会があればこの道の駅も詳しく案内できればと思います。
建物の中に入りました。中もレトロ感タップリで昭和の歌謡曲が有線放送で流れて、演歌のカセットテープとか、ジュークボックスとかがあります。
でも、それはそれとしてまた別の機会に。
こちらが産直品売り場です。今日もたくさんの野菜や果物が並んでいます。今の時期、おすすめは何ですか?
「そうですねー、色々ありますが、カボチャやほうれん草などが美味しくなっていますね。特にほうれん草は霜に当たったので、甘みが増しています。この通り」
なるほど、ほうれん草が肉厚になって、ちぢれてますね。手触りも柔らかくて、生でも食べられそうです。
果物はどうですか?
「リンゴの収穫が進んでいます。このはな村のリンゴは甘いものから酸味が強いものまで、さまざまな種類があります」
ほんとだ、大きさもいろいろだし、赤や黄色の色も濃かったり薄かったりしていますね。
でも、このはな村のリンゴは市場にはほとんど出回らないんですよね。それは品種がバラバラだからなんですか?
「それもあります。同じ品種を大量に出荷した方が効率は良くなるのですが、この村の場合は品種がバラバラです。また栽培されているリンゴには現在の市場ではほとんど流通していないものも多いです。もちろん人気のある品種に植え替えることも出来ますが、リンゴは手間のかかる果物ですので広い面積に数種類の作物を育てると言う村の農業方式では手を出しにくいんです」
手間が掛かるというのは聞いたことがあります。そうするとこちらに並んでいるリンゴは逆に手間を掛けていない、と言ったら失礼かもしれませんが、そういうことなんですか?
「いえ、まさにそういうことなんです。市場価値の高いリンゴを育てるには受粉、枝のせん定、農薬や肥料の散布、実の選抜、袋掛けなど、多くの手間がかかりますし人出も必要です。そうやって他の産地と競争しながら高い品質のリンゴを実らせるのは大変な苦労です。ですからこの村ではリンゴは主力商品とせず、自然に成った分から、自家消費や製菓店などに卸した残りをこちらに持ってくる程度となっています」
道の駅からのリポートでした。
このように、このはな村のリンゴは有名な産地のように手間暇を掛けているわけではないので、色や形もバラバラで、傷があったりもします。まんべんなく日に当てて全体を赤くしたり、実を保護するために袋を掛けたりはしません。
こうやって育ったリンゴは、味に変わりはなくても見栄えが良くないので、市場に出回りにくいのだそうです。したがって、お菓子やジュースに加工したり、道の駅で販売することが多くなります。
規格外の野菜についても、お話を聞いてきました。
よく、曲がったナスやキュウリが規格外野菜だということで槍玉に上がりますが、実際のところ、どうなんですか?
「キュウリなどの野菜が曲がる原因の一つは、栄養や日照の不足なのです。ですからその場合は味が劣ることがあります。そのような理由があるので、曲がったキュウリを規格外とするのは悪いことではない、という意見もインターネットなどでよく見られます」
「しかし、特定の作物だけを例にとって、すべての規格外野菜の廃棄を正当化するわけにはいきません。形が悪くても味には関係ない野菜も多くあります。ですから一概に見た目だけで野菜を選ばず、色々な形の野菜を手に取って見てほしいですね。香りだけでも、美味しいかどうか分かりますから」
野菜などが規格外とされる大きな理由のひとつが、形が悪いというよりも、揃っていないことにあるのだそうです。同じような大きさと形のものを揃えれば箱詰めする時に無駄が無くなるからです。
道の駅などに不揃いな格好の野菜が並ぶのは、近隣の農家からトラック等に直積みで持ち込めるからです。実際に運ばれた野菜を見ていると、例えば大きく育ちすぎたキャベツは箱に入り切らないという理由で市場には出さなかったそうですが、大きさ以外は何も変わらず、美味しくいただきましたし、値段もお得です。
道の駅このはな昭和ドライブインでは、規格外ではない野菜も多く取り揃えております。ジャガイモや花豆など、このはな村特産として知られる野菜がたくさんありますので、お近くの方や観光の方、道の駅の前をお通りの方は是非一度お立ち寄り下さい。
このはな村インフォメーション、本日の担当は莉庵でした。
規格外野菜の是非についての議論を見てみると、どうにも噛み合っていないように感じます。
規格外野菜やむなしとする人は、
「キュウリが曲がるのは栄養不足。だから味も劣るので出荷しても売れない」
と主張し、規格外野菜をもっと活用しようという人は、
「形の悪い野菜も味は変わらない」
と主張するけれども、形と味が関係ない野菜を例に挙げている。
そんな感じで、議論がすれ違っているように見えます。
では曲がったキュウリは本当に美味しくないのか。
それもケースバイケースだと思います。個人経営の八百屋だと産直野菜を形に関係並べているところもあります。作者の通う八百屋でも曲がったキュウリは時々出ますが、スーパーのまっすぐキュウリと比べたらむしろ美味しいくらい。
栄養不足かどうかを判断するのは結局植物ですから、育った環境にも影響されるだろうし、個体差は出て当然でしょう。ちょっとでも天候が変わればすぐに曲がってしまうキュウリもあれば、過酷な条件でもまっすぐ育つキュウリもある。
作者が通ってる八百屋のキュウリはまっすぐなものと比べて遜色ない味です。
規格外の理由が大きさや形の違いである場合、輸送の問題や機械での自動調理がしにくいとかの方が大きいんだと思います。そして形や大きさで規格を作って、それに沿っていないものを省いた方がトータルで環境負荷は低いのかもしれません。
どちらが正しいとは一概に言えない、難しい問題ですね。




