幸せ
休日の夕方ビルの合間に見える空が、夕焼けで赤く染まっている、商店街の喧騒が心地よく感じる、給料日が待ち遠しい、そんな生活をして居た頃に比べ、気持ちがおおらかになっている、いらいらする事が無くなった、金持ち喧嘩せず、と言うが分かるような気がする、金があり力もある、良子も居る、もう、欲しいものは何もない、そんな気分だ、良子の買い物に付き合って、商店街に来ているが、買い物をする良子を見ているだけで、胸がぎゅーんとなるくらいに幸せを感じる、俺って変態なのか、そう思ってしまうほど幸せだ、良子には恥ずかしくてとても言えないが
「何考えてるの、顔がだらけているわよ、美人でも通ったの」
「うん、凄い美人が」
良子の顔がきっとなる、怖い
「嘘だよ、今は良子以外はどんな女性でも美人に見えないよ」
「それでよろしい」
そう言って偉そうに胸を張るゼスチャーをしてから笑い出した
「馬鹿言ってないで帰りましょう」
そう言って腕を組んで来る、可愛い、馬鹿行ってるわけじゃない、本心を言ったのだが、本気に取られても照れ臭い
「荷物持つよ」
買い物袋を素直に渡してよこした、買い物袋をぶら下げ、片方は良子と腕を組んで、幸せを絵に書くとこうなるのかな、そんな事を考えながら、ゆっくりと家路をたどる、不思議なもので金が有ったら、ああしたい、こうしたい、昔思って居た事が、幾らでもできるようになったら、その気が無くなってしまった、今の様な時間が凄く貴重に思えるのだ、そぞろ歩きでのんびり歩いていると、懐のスマホが鳴った、画面を見ると竹林からだった
「隼人、今夜付きあえないか」
挨拶も何もない、男の友とはこんなものだ
「おう、ちょっと待って」
そう言っておいて良子と相談する
「竹林が今夜付きあえって言ってるんだが」
「親友の竹林さんね、行ってらっしゃいよ」
「行ってらっしゃいじゃなくて、良子も行くんだ」
「ええ、私も」
そう確認してから
「竹林、もう一人連れて行くけど良いか」
「ああ、良いよ、奈々子の店で待ってる」
「分かった、じゃあな」
家に帰り、出掛ける支度をすると、良子と二人奈々子の店に向かった、奈々子の店が近づくと
「えっ、此処なの、良いの私が入って」
「嫌な思い出の店だろうけど、此処での事が俺と良子の縁を結んだんだ、それに俺の数少ない友人たちに紹介したいし」
「そうなの、分かったわ、私もいつかしっかり謝ろうと思って居たの、丁度いいわ」
店に入ると竹林はすでに来ていた、奈々子と談笑している
「いらっしゃいませ、あら、隼人君が女性を連れて来るなんて、季節外れの台風が来なければいいけど」
そう言った後良子の方を向くと
「何処かでお会いしたような」
「その節は、大変ご迷惑をおかけしました」
良子が深々と頭を下げる、すぐに思い出せなかった奈々子だが
「あの時の、どうしてあなたが」
そう言って俺の顔を見る
「まあ、座らせてくれよ」
「あっ、ごめんなさい、どうぞおかけください」
席に着くと
「竹林にも丁度いい,色々あったけど、あれが縁で知り合って、今度結婚する事になった」
事の顛末を二人に話す
「それは良かった、おめでとう」
「ほんと、間接的に私が結びの神ね、光栄だわ」
「じゃあ、俺達も、なっ、奈々子」
「そうね」
「隼人、俺も奈々子と結婚する事にしたんだ」
「なあんだ、そう言う事か、良かったな、おめでとう」
「うん、ありがとう、お互い良かったな」
「まったくだ、今日は飲むぞ」
「そうしましょう、今日は貸し切りにしちゃおう、ちょっとまっててね」
奈々子は看板をけしにいった、入り口に鍵をかけ戻ってきた
「良いのか、突然休みにして」
「良いのよ、こんなおめでたい事は二度とないんだから、ちょとお待ててね、祝杯の用意をしてくるから」
「
だったら、私も手伝います」
「悪いわね、お願いしようかな」
女性は二人キッチンに行ってしまった
「祝いで付き合えと言う事か、だったら良かったよ、何かやけ酒に付き合わされると思ったのだが」
「そう思って居て、彼女を連れて来たのか」
「良いじゃないか、なんか文句でもあるのか」
「そうじゃないけど、奈々子と婚約は何れにしても、お前には言わなきゃと思って居た、だが、むしゃくしゃする事があるにはあるんだ」
「何だ、行って見ろ、話せば少しは気が晴れるぞ」
「お前に言ってもしょうがないんだが、聞いてくれるか」
「おお、女性陣が居ないうちに話せ」
「実はな、わが社の製作部門で力を入れていた製品が有るんだが、画期的な製品で社運を賭けるくらいの意気込みで、事を進めていたんだが、発売寸前でライバル会社がほぼ同じ製品を、先に売り出してしまったんだ、、大打撃も良いとこさ、今更売り出しても後発では、開発にかけた資金の元も取れない進めてだろうし、ライバル会社にヘッドハンティングされた社員が、その会社に行ったようなんだが、まさかここまで遣るとは、それで落ち込んでいる訳さ」
「そうなのか、厳しいな、危ない様なら俺の資金遠慮なく使え、それと追加でまた振り込むから頼むよ」
「お前、わが社の資本金を越えてるんだぞ」
「悪い、どんな方法でも良いから、生かして使ってくれ、全てお前に任せるから」
「そうか、そう言って貰うと助かる、お前の資金が有れば、わが社は絶対潰れない、有難い事だ」
「ところで、その製品は何なのだ、物は」
「蓄電池だよ、電気自動車とか、家庭の蓄電に使える、従来の製品より五十パーセントは、性能がアップしている優れモノだ」
「へえー、五割アップか凄いのか」
「現時点では画期的だ」
「それをライバル会社が同じものを」
「そうなんだ、量産体制も整えて発売しようとした矢先にこれだ、付いてないよ」
「その製品、俺に見せてくれるか」
「良いけど、お前が見たって」
「俺の友達に、丁度そう言う研究を,個人でやっているのが居るんだ、そいつに見せて、知恵を借りれば、ライバルよりいい製品にして、発売できるかも、そいつがこの間言って居たのが、確か電池だったような気がする、いいアイデアが浮かんだって」
「そうなのか、お前なら秘密は大丈夫だから、じゃあ、見てくれ、何かプラスの材料が有れば良いのだが、明日俺んとこに来れるか」
「ああ、分かった」
「おまたせぇ」
「お待たせしました」
祝いの用意が出来た、飲んで食べて楽しいパーティーの始まりだ、会話が弾む
「そうか、風邪で寝込んだとき」
「うん、助かったんだ、此処での話を知っているだろう、そう言う女だと良子には先入観があったんだが、親の悪行の為グレていたなんてね、付きあってみて、結果こう言う訳さ」
「本当にあの時は御免なさい、迷惑をかけてしまって」
「もう良いのよ、お陰で隼人君も独身に終止符が打てたし、終わり良ければみんな良しって言うじゃない」
「良子、もう良いんだ、そのおかげでお前と知合えたんだから、不思議だな、その時、良子が良い子にしてたら、俺達は知り合う事はなかったんだからな」
「そうね、何だか複雑な気持ち」
「もうどうでも良いだろう、親父さんも以前の悪が信じられない程、良い人になったしな」
「そうだそうだ、もういいんだ、楽しくやろう」
こんな会話の中、良子のわだかまりもなくなったようだし、紹介も終わったし、後は楽しくやろう
良子も奈々子も楽しそうだ、竹林も会社の事は会忘れ楽しんだ、俺は近頃楽しい事ばかりだが、今日は特に楽しかった、午前零時を過ぎるまで、四人で楽しく過ごした、そして解散となったのだが、帰り際
「良子さんて、令嬢なのに家庭的なのね、良いお嬢さんで良かったわ、大事にしてやってね」
「ありがとう、本当そうなんだ気が利くしな」
「まあ、デレデレね」
「うん、本当に大好きなんだ」
「もう、惚気るのもいい加減にして」
背中をパーンとたたかれてしまった
「勇、隼人君惚気すぎ、良子さんが大好きだって、そんな事堂々と口にする人だったっけ」
竹林は奈々子に勇と呼ばれているようだ
「そうなんだ、隼人は良子中毒で顔を見ないと居られないんだとさ、こんな奴とは知らなんだ、もう良子さんにメロメロで、見てられないよ」
「もう、いいから早く帰って、熱くてしょうがない」
笑って追い出されてしまった
「あなた、どうしたの、そんなに惚気ていたわけ」
「惚気じゃないよ、本心を言ったら、怒られたんだ」
「まったく、しょうがない人、私に直接言いなさいよ」
「いや、本人には恥かしくて言いずらいよ」
「そうなの、まあ良いか、気持ちは分かっているから、良いか、でもね、私はその何倍もあなたが好きなんだからね」
そういってから
「帰りましょう」
照れるように言って腕を組んできた、こんなに幸せで良いのかな、しみじみとそう思う、そんな夜だった、三十を過ぎてこんな、問答をするなんて、以前なら恥ずかしくて、絶対言わなかった、考えられない事だった
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