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心も体も(性描写注意)

今回も少しエッです


 カーテンの隙間から差し込む、容赦のない五月の朝光が湊の瞼を叩いた。

 ゆっくりと意識が浮上する。いつもなら、迫りくる月曜日への憂鬱と、山積した課題への焦燥感に襲われるはずの日曜の朝。だが、腕の中に伝わる確かな熱量と、鼻腔をくすぐる甘い石鹸の残り香が、昨日までの世界が決定的に変容したことを告げていた。


 視線を落とすと、そこには湊の腕を枕にして、無防備な寝顔を晒す凪がいた。

 泣き腫らした瞼は少しだけ赤く、唇は微かに開いている。昨日、一人の女として湊を受け入れた彼女は、今はただ、嵐が過ぎ去った後の静かな海のように穏やかだった。

 その細い薬指には、朝陽を浴びて青い火花を散らすサファイアの指輪。それは、彼らが「義兄妹」という仮面を脱ぎ捨て、魂のレベルで共犯者となった証だった。


(……かわいいな、本当に)


 湊は、彼女を起こさないように、自由な方の手でそっとその頬を撫でた。

 指先から伝わる柔らかな肌の感触。昨日、この肌のすべてを愛し、その奥深くまで繋がったのだという実感が、湊の胸を熱くさせる。しかし、その精神的な充足感とは裏腹に、若い男子としての身体は、残酷なまでに健全な「生理現象」を訴え始めていた。


 下腹部に溜まる、逃げ場のない熱い重み。

 昨夜、あれほど激しく、壊すような勢いで求め合ったにもかかわらず、朝の目覚めと共に湧き上がる本能的な衝動。それは湊の意志とは全く無関係に、密着した凪の腿のあたりを、薄いシーツ越しに強く、明確に押し付けていた。


「……んっ」


 その「異変」に気づいたのか、凪の長い睫毛が小さく震えた。

 ゆっくりと開かれた瞳が、至近距離にある湊の顔をぼんやりと捉える。そして、自分の体に触れている、昨夜覚えたばかりの、昨夜よりもさらに逞しくなった「硬い熱」の存在を、敏感に感じ取った。


「……おはよ、みーくん」


 凪の声は、起きたて特有の掠れた甘さを帯びていた。

 彼女は驚いて身を引くどころか、むしろその熱を確かめるように、自ら腰を擦り寄せてくる。湊は顔を赤くし、理性を総動員して、わずかに腰を引こうとした。


「……悪い。……その、朝は、どうしてもこうなるんだ」


 弁明する湊の言葉は、熱っぽく震えていた。そんな湊の狼狽を見て、凪の瞳に悪戯っぽく、けれど深い慈愛を秘めた光が宿った。彼女のスイッチが入ったのは、その瞬間だった。


「……ふふ。……知ってるよ。湊が、私を欲しがってる証拠でしょ?」


 凪は布団の中で、湊の首筋に両腕を回した。何も身につけていない彼女の肌が、湊の胸板に吸い付くように重なる。薬指のサファイアが、湊のうなじのあたりで冷たく触れ、それがかえって火をつけた。


「ねえ、みーくん。……今日は、私の誕生日のお祝いの続きだよね? 何でも言うこと聞いてくれるって、昨日約束したよね?」


 凪が耳元で熱い息を吐き出す。湊の理性は、その一言で粉々に瓦解した。

 6個入りのその箱には、まだ5つ残されていた。凪は自ら手を伸ばし、サイドテーブルからその小さな箱を手繰り寄せた。


「……これ、今日で全部使い切っちゃおう? ……一滴も残さないで、全部」




 朝陽が寝室の隅々までを白く飛ばす中、二人は再び、シーツの海へと沈んでいった。

 昨夜の、暗闇の中での切実な「告白」としての儀式とは違う。燦々と降り注ぐ光の中での交わりは、より生々しく、より濃厚に、互いの存在を網膜と肌に深く刻みつけるような熱狂を帯びていた。


 湊は、凪の白い肌が朝陽に透け、内側の微細な血管さえ見えるほどに美しいのを見つめながら、何度も彼女を求めた。

 凪もまた、湊の広い背中に爪を立て、彼の名を壊れたように呼び続ける。もはや昔の面影はない。彼女はただの女として、愛する男の名前を呼び、そのすべてを飲み込もうとしていた。


「……っ、湊……! まだ、いいよ……もっと…っ!」


 昨日よりもずっと貪欲に、互いの境界線を消し去ろうとする時間が続く。

 サファイアの指輪が、湊の肌を擦り、凪の指先が湊の髪を掻き乱す。



 昼過ぎ、静寂が戻った部屋。

 ゴミ箱の捨てられた5つの結晶は、失われた5年を埋めるにはまだ足りなかった。しかし二人の心はもう離れることはないだろう。


 ぐったりとした凪を胸に抱き寄せ、湊は荒い呼吸を整えていた。

 身体は芯から疲れ切っているはずなのに、心は不思議とどこまでも澄み渡っている。


「……本当に、一箱全部使い切っちゃったな」


 湊が呆れたように、けれどこの上なく愛おしそうに呟くと、凪は湊の胸元に顔を埋めて、満足そうにクスクスと笑った。


「……うん。…………幸せすぎて、もう一歩も動けないよ、私」


 凪は湊の指を絡め、自分の薬指で輝くサファイアを見つめた。

 「愛」を重ねた二人の間には、もはや言葉による説明など、いかなる社会的定義も不要だった。




 日曜日の昼下がり。

 窓の外、厚木街道の向こう側では、家族連れや恋人たちが、平和な「普通の日曜日」を謳歌しているだろう。買い物に行き、公園で遊び、明日からの仕事や学校に備える。

 けれど、この四壁に囲まれた空間の中にだけは、世間の誰にも理解されず、誰にも許されない、けれど誰よりも純粋で隠微な、二人だけの「真実」が完成していた。


「……ねえ、湊。……午後も、ずっとこうして寝てていい?」


「ああ。……今日はずっと、こうしていよう。誰にも邪魔させない」


 二人は再び、重なり合ったまま、一つの毛布の中で微睡み始めた。

 明日から始まる「幼馴染」という偽りの月曜日。

 学校の廊下ですれ違い、涼や千尋の視線を意識しながら、他人のふりをして過ごす日々。

 だが、今の二人なら、どんな嘘も、どんな社会の壁も、この指輪の冷たさと肌の熱烈な温もりがあれば、容易く飛び越えていける。


 17歳の誕生日は、二人の人生で最も長く、最も熱い、特別な「再誕の初日」となった。


 湊は、眠りに落ちた凪の額にそっと口づけを落とした。

 この幸せを守るためなら、自分はどんな悪にでもなれる。



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