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付き合い始めた夜

短め

次回ちょっと性描写ありますので注意

湊の胸元で顔を伏せていた凪が、ふと小さく顔を上げた。泣き腫らした瞳は潤み、その熱っぽい視線は、湊の理性をじりじりと焼き焦がすような、逃れがたい引力を持っていた。


「……ねえ、みーくん」


凪が、湊のシャツの襟元をきゅっと握りしめる。その指先には、先ほど贈られたばかりのサファイアの指輪が、青白い光を放って瞬いている。それは「兄」という役割に殉じようとしていた湊が、自らの手で凪の指に嵌めた、一生消えないはずの「誓い」の証だった。


「……今日は、私の誕生日だよね? ……何でも、言うこと聞いてくれるんだよね?」


湊は、肺の奥が焼けるような感覚を覚えた。

先週の金曜日、コンビニで買った袋の底に残っていた、あの「黄金色の小さな箱」。その存在を思い出したのは、湊ではなかった。


「……ねえ、みーくん。知ってるよ。……あれ使いたい」


凪の囁きが、鼓膜を突き抜けて湊の脊髄を駆け抜ける。

湊は、心臓の鼓動が耳元で鳴り響くのを感じた。あの時、棚に隠したあれが見つかった後、気まずさに耐えかねて自室の引き出しの奥へ押し込んだ。触れてはいけない禁忌として、自分の中で封印していたはずのものが、凪の口から、この上なく甘い誘惑として差し出された。


「……あれを使って。……私を、本当の意味で『みーくんのもの』にして」


凪の瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。

名前だけの兄妹なんて、もういらない。そんな叫びが、言葉を超えて湊に突き刺さる。


「……私の中に、みーくんを刻んで。もうどこにも逃げられないくらい、深く、熱く、繋いで……」


その瞬間、湊の中に残っていた最後の防波堤が、音を立てて崩壊した。

「一線を越えてはいけないという理性」は、目の前で赤面しながら自分を求める凪の熱量の前では、あまりに無力だった。


「……凪。後悔しても、もう止めないぞ」


湊は、凪の華奢な腰を抱き寄せ、そのまま深く、深く唇を重ねた。

これまでの、慈しむような優しさだけのキスではない。互いの存在を貪り、欠けた魂の破片を無理やり埋め合わせようとするような、荒々しく、切実な接触。

湊は立ち上がり、寝室へと向かった。引き出しの奥、大切にしまっていたあの黄金色のパッケージを手に取る。指先に触れる冷たい感触が、これから踏み出す一線の重さを物語っていた。


ベッドの上。凪を横たえ、湊はその上に覆いかぶさる。

月明かりに照らされる凪。その指には、湊が贈ったサファイアが、静かに、けれど誇らしく輝いていた。


「……怖いか?」


湊の問いに、凪は首を横に振った。サファイアが光る左手で湊の頬を包み込み、自ら唇を求めてくる。


「ううん。……みーくんが私を壊してくれるなら、それが私の、世界で一番の幸せなの」


重なり合う肌の熱。

湊の手が、凪のブラウスのボタンを一つずつ解いていく。露わになる白い肌は、月明かりの下で真珠のような光沢を放っていた。凪もまた、湊のシャツに指をかけ、焦れったそうに布地を引き剥がす。


そこには、もはや隠し事も、虚飾も存在しなかった。

ただ、狂おしいほどに求め合い、互いの体温で自らの存在を証明しようとする、剥き出しの男女の魂があるだけだった。



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