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ただの茶道部員が千利休に弟子入りして茶聖と呼ばれるそうです  作者: 橋本洋一


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第二十三席 味噌料理がお好きでしょ

 徳川家康は味噌が好きだと信長に言われた。

 逆に豪華なものは好まないと明智さんから聞いた。

 それを考えて宴席の食事を考えた。


 京の馬揃えから一年以上経った。その間に東の大名、武田家が滅びた。僕は戦に行ってないのだけれど、向かった堀久太郎さんや森乱丸さん、弥助から聞いたらあっさりと倒せたらしい。まあ織田家の軍勢だけではなく、徳川家や北条家も協力して多方面から攻撃したみたいだから当然の結果だと思う。


 東の難敵である武田家を滅ぼした今、残るは西の毛利家だけだ。

 もう少しで信長の天下となる。

 お手伝いしたわけではないので、他人事のように思えてしまう。

 日本人選手がオリンピックで金メダルを取ったのと似ている。あくまでもたとえるのならば。


 自身の天下が近いからか、信長は安土城で家康を招いて宴席を開くようだ。

 明智さんが接待役だが、体調が悪いようで僕に手伝ってほしいと要請が来た。

 明智さんの頼みはなるべく聞いておきたい。だから二つ返事で引き受けた。


「お前さま。どんな献立を考えておられますか?」


 安土城の武家屋敷――僕は武士ではないけれど住んでいる――でお吟が着物を準備しつつ僕に聞いてきた。


「そうだね。武家の人たちは味の濃いものを好むからそうした味付けにしようと思って。合う献立にしようと思っているよ」

「味噌を中心に考えるとなりますと、田楽焼きなどがよろしいかと」

「田楽はいいね。後は……未来の料理を振る舞おうと思う」

「まあ。どのような料理ですか?」


 楽しそうな声なのはお吟も未来の料理が好きだからだ。

 食べるのもそうだが、ワクワクしながら作っている。

 料理上手な妻を持って僕は幸せ者だ。


「味噌を握り飯に塗って焼くとか……」

「美味しそうですね。しかし素朴過ぎませんか?」

「そうだね。豪華なものを食べ物は好まないらしいけど、これでは接待にならないね」

「そういえば、昨日教えていただいたうどんはどうでしょうか?」


 お吟のアイディアはかなり使えるので、よしそれを作ろうと思えた。

 流石としか言いようがない。


「私も一緒に行きましょうか? 庖丁人さま方に詳しく指示できると思いますが」

「そうしてくれるとありがたい。さっそく行こうか」


 二人して安土城に向かうと、途中で堀久太郎さんと出くわした。

 なんでも玉薬を運ぶ指示をしていた。


「凄い量ですね」

「あなたと縁深い坂城屋からですよ。宴席で花火を上げるのです」


 お吟は頬を染めて「あの時の思い出は心に残っております」と言う。

 この前できた今焼の赤楽茶碗がようやくその色を出せたなとひっそり思う。


 台所についてお吟と一緒に料理の指示を出す。

 庖丁人たちは「美味しそうなことを考えますね」と口々に言う。


「きっと徳川さまもお気にいると思います」

「そうであってほしいですね」


 さて。料理を次々と運んでいく姿を見つつ、お吟と主菜について話をする。


「味噌がお好きならばきっと満足いってくださると思います。しかし、未来でも味噌は使われているんですね」

「好き嫌いあると思うけどね。それでも味噌汁は毎日飲む人もいるし、名古屋――尾張国と三河国の人たちは大好物と言ってもいいよ」


 すると俄かに騒がしくなってきた。

 家康が到着したらしい。

 小姓が僕も会うようにと伝えてきた。お吟と別れて家康たちがいる部屋へ向かう。


「藤田次郎、ただいま参上いたしました」

「ああ。入ってくれ」


 部屋の前で口上を述べて、信長の声で中に入る。

 そこにはずらりと二十人くらいの武士が並んでいた。見たことがないから徳川家の家臣なのだろう。

 上座には信長が座っていて、その近くには明智さんが礼儀正しく座っている。

 そして信長と正対している男性がいた。


 信長よりも若い。眉が太くて顔は丸っこい。戦国武将らしい険しい顔をしている。髭を生やしていて威厳のある雰囲気を醸し出している。着物は質素というか贅沢な設えはしてない。南蛮衣装の信長と比べたら豪華とは言えないだろう。


「こちらの藤田が今宵の宴席を取り仕切る。楽しみにしろよ、徳川殿」

「ほうほう。厳しい織田殿が期待をかけていらっしゃるとは。楽しみで仕方ないですな」


 あっはっはとおおらかに笑うのが徳川家康か。

 うーん、明智さんが本能寺の変を起こさない以上、天下は取れないのだけれど、どこか大人物な印象を受ける。僕の勝手なイメージに過ぎないけどね。


「宴席の準備はできておりますが、いかがなさいますか?」

「そうだな。しばし待て。徳川殿と話がある」

「かしこまりました」


 僕が退席しようとすると「藤田殿、少しいいだろうか」と呼び止められた。

 明智さんである。僕は黙って待った。


「上様。藤田殿と少し打ち合わせしてもよろしいでしょうか?」

「よかろう。それでは下がるがいい」


 明智さんの後に続き、別室に向かうと「実を言えば料理についてはあまり心配していない」と打ち明けられた。


「その後が問題なのだ。おそらく茶を点てるように命じられると思うが、徳川殿は茶の湯を解さないのだ」

「それは……作法をご存じないということでしょうか?」

「型は覚えているが興味がない……そういう御仁だ」


 難しい……けど僕にできることをするしかないな。


「努力いたしますが、不興を買ってしまったら申し訳ございません」

「案じるな。責任は私が取る。藤田殿は己の数寄を貫いてくれ」


 そう言ってくれると安心できる。

 やはり明智さんはお優しいお方だ。


 話し合いも終わったので料理を準備する。

 味噌尽くしではなく、上方の料理を織り交ぜつつ出していく。

 下げられた膳が全て完食しているのを見て、今のところ満足されているようだと判断する。


「お前さま。こちらの主菜を――」

「ありがとう、お吟。さあて、どうなるかな?」


 ぐつぐつと煮えている料理を慎重に運ぶ小姓たちに続いて、信長と家康のいる部屋へ向かう。

 中に入り頭を下げて「今回の主菜となります」と言う。


「名付けて、味噌煮込みうどんでございます」


 出汁にこだわり、麺も太めな一品だ。

 おそらく気に入ってくれるだろう。


「これは美味しそうだ。いただこう」


 家康は嬉しそうにうどんを箸でつかみ、ふうふうと冷ましてからずるずると啜る。

 まだ熱かったのか口の中でふごふごしつつ飲みこんだ。

 ぱあっと顔を明るくさせて「これは美味い!」と叫んだ。


「味噌の味が引き立って美味い! その方らも食べるがいい!」


 家臣の方々も恐る恐る一口食べる――目を輝かせて一気に啜る。

 ひどく気に入ってくれてほっと一安心できた。


「藤田。よくもまあ思いついたものだな」


 豪快にうどんを食べている信長に褒められたので「ありがたきお言葉です」と頭を下げた。


「僕の妻と相談して作り上げました」

「妻か……奥方は大事にせねばならぬな」


 何故か家康は悲しげな顔をした。

 家臣たちも食べるのをやめて俯いてしまう。

 何か悪いこと言ったかな……。


「藤田。次は茶を点てよ。俺の唐物珠光茶碗を使ってな」


 淀んだ空気を変えるように信長が命じてきた。

 僕は急いで「かしこまりました」と下がる。

 廊下に出ると「危ういところだったな」と明智さんが僕の肩に手を置く。


「徳川殿は奥方を亡くしている……知らなかったようだな」

「すみません……」

「まあいい。次は茶の湯だ。何か考えはあるのか?」


 茶の湯に興味のない人に振る舞うとなると方法は二つある。

 一つは知らないままでも満足できるように茶を点てる。

 もう一つは茶の湯の凄さを理解できるように茶を点てる。

 まあ前者のほうがいいなと思って「任せてください」と明智さんに言う。


「必ずや一座建立を成してみせます」

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