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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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049話 最愛の者の墓を求めて

翌日。


ドランたち騎士団は、他のピラミッドの調査を開始した。


街の周囲には大小様々な墓陵が点在しており、そのどれかに死霊王の根源が隠されているのではないかと考えたのだ。


むろん、アレフたちも調査に加わった。


数日間にわたり、昼夜を分かたず探索は続いた。


だが、どの墓も空虚で、せいぜい下級のアンデッドがうろつく程度。決定的な手がかりは何ひとつ得られなかった。


徒労に疲れた騎士や冒険者たちは、酒場で荒んだ酒をあおり、苛立ちを吐き出す。


街の民も、日に日に痩せ細っていった。


瘴気は農作物を枯らし、井戸水を濁らせる。


商人たちは見切りをつけ、次々と荷をまとめて去っていく。


希望は、少しずつ失われていった。


そんなある夜。


アレフは仲間とともに、酒場の片隅にいた。


乾ききった空気に充ちるのは、客たちの疲弊した溜息ばかり。


だが、ふと耳に届いたのは一人の吟遊詩人のエルフが奏でる竪琴の音色だった。


その詩は、古の英雄譚ではなかった。


彼が歌ったのは、この地に生き、やがて死霊へと堕ちた一人の賢者の物語だった。


【彼は、奇病に侵された最愛の者を救うため、ありとあらゆる知識を求めた偉大な賢者だった。

救う手立てを探し求める日々。

いつしか、あらゆる手段は尽き果てる。

それでも、彼は魔の力で病魔に抗い続けた。

やがて魔の力は尽き、失意に沈む。

彼は永遠の魔の力を求め、魂だけの存在「死霊王」となった。

しかし、死霊王リッチになってから、彼は気づいてしまいます。

魂だけの存在になった自分では、もう二度と彼女に触れることも、言葉を交わすこともできないと。

彼は永遠の命と引き換えに、最も大切なものを失ったのです。】


静かに広がる歌声に、酒場の空気が変わった。


人々は耳を傾け、誰もが目を伏せる。


アレフの心臓が高鳴った。


最愛の者──やはりそこに、答えがあるのではないか。


(……グラトニーの言葉と、この詩。偶然じゃない。


詩はそこまでだったが、話には続きがあった。


後悔と絶望から、人間としての感情や記憶を少しずつ失っていく死霊王。


ついには、最愛の者を救うという想いだけが残された。


彼は自身の魔術の実験場を造り上げ、死した者の魂を素材として治療薬の創造に没頭していった。


しかし、そんな暴挙が見過ごされるわけもなく、やがて彼は新たな賢者によって封印される。


封印される直前、彼はこう願ったという。


「我が魂は最愛の者と共にあらんことを……」


その後、かつて賢者であった者が封印された建造物は、彼が眠る墓“ピラミッド”と呼称されるようになったのだった。


話を聞いたアレフの思考が、閃光のように結びついていく。


(死霊王を封印した新たな賢者は、彼の最後の願いを聞き届けたんじゃないのか?)


アレフは静かに拳を握った。


この直感を確かめなければならない。


そう決意したアレフは、夜明けとともに仲間を集め、街の古文書庫へと向かった。


街の中央、神殿跡を改修して造られた図書庫。


砂漠の乾いた風を防ぐ分厚い壁の内側には、代々この地に伝わる古文書や碑文が収められている。


管理を任された老司祭は、アレフたちの必死の頼みに眉をひそめながらも、古びた巻物の棚を開けてくれた。


「乙女の墓を探している……だと? 若造、何を考えている。」


「死霊王の本体は、そこに隠されているかもしれません。」


「馬鹿を言うな。そんな伝承は記録されておらん。」


頑なな老司祭をよそに、アレフは埃まみれの羊皮紙を次々に繰っていく。


ライカとシノも加わり、古代語の注釈を解読していった。


数時間後。


ジェームスがふと、一枚の石板に刻まれた文言を指さした。


「……アレフ様。ここに“砂漠で倒れし賢者を救いし乙女”という記述がございます。」


「なんだと?」


石板の文字はかすれていたが、確かにそう読めた。


さらに調べると、その乙女は聖女であり、自身でも治せない病を抱えながらも賢者に寄り添ったという。


やがて彼女の病状が悪化すると、こんどは賢者が彼女に寄り添い、魔力で病魔を抑え込んでいたという。

しかし、それも長くは続かず、彼の魔力は枯渇してしまう。


このまま魔力が尽きれば、彼女の命も失われてしまう。


絶望した彼は姿を消し……その後、死霊王として再び現れるも、封印されてしまい、結局は最愛の者を救うことはできなかった。


「……最愛の者が眠る場所。ここだ。」

 アレフの確信は深まっていく。


だが、それを口にした瞬間、シノが眉を寄せて遮った。


「待つのじゃ、アレフ。本当にそれが“核”の在り処だと断定できるのかや? 歌や伝承はあくまで人々の解釈にすぎん。根拠としては薄い」


「そうだよ、お兄ちゃん。伝承に振り回されて、また徒労に終わる可能性もあるんだよ……」


ライカも冷静に補足する。


アレフは二人の視線を受け止め、言葉を選んだ。


「確かに確証はない。けど……俺にはグラトニーの言葉がある。 あの魔剣が“あの場所に呪いの気配はなかった”と言ったんだ。 なら、あのピラミッドこそが、かつての賢者が眠る場所として、人々に勝手に解釈されたんじゃないのか?」


ライカとシノは黙り込んだ。


「アレフ様。伝承の真偽はさておき、試す価値は十分にございます。 街の人々は日に日に衰弱している。 騎士団も打つ手がない。 ならば、僅かな可能性でも追うべきかと。」


重苦しい沈黙の中で、ジェームスが穏やかに口を開く。


「……まあ、確かに。俺たちがやらなきゃ、誰がやるんだって話だな」


アスタロスがジェームスの言葉を後押しする。


その言葉にライカが深く息を吐いた。


「賭けだが、やってみるしかないわね」

と、シノも肩をすくめる。


アレフは仲間たちを見渡し、拳を握る。


「決まりだ。……俺たちで“乙女の眠る場所”を突き止める。」


情報はまだ足りない。


アレフたちは街に散り、それぞれの手段で更なる調査を進めた。


ライカは老兵たちを訪ね歩き、古戦場の記憶を聞き取った。


シノは商人や旅人の記録を漁り、神殿跡に関する噂を拾った。


ジェームスは再び神殿の司祭を説得し、古代の祭祀についての詳細を引き出した。


数日の積み重ねの末、全ての情報が一点に収束した。


街の外れ、砂に埋もれかけた古代の庭園。


その奥に、乙女を祀る小さな神殿跡があるという。


今は人の訪れもなく、夜な夜な死霊が徘徊する不気味な廃墟と化しているが……そここそが、最愛の者の眠る場所に違いなかった。


「俺たちが見つけ出すんだ。死霊王の心臓部を……そして、この街を救う。」


決意の言葉は、炎のように熱く、静かに部屋に広がった。

次回タイトル:050話 最愛なる者の眠る神殿

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