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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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157/157

157話 焚き火の夜

剣戟の音が消え、張り詰めていた空気がゆっくりとほどけていく。


夜の帳が降り、魔界の荒野に焚き火の赤が揺れていた。


「……ふう」


ガルドが大きく息を吐き、どさりと地面に腰を下ろす。


その横では、ジェームスが手際よく調理を進めていた。


鉄鍋、串、香草、

見慣れぬ魔界の食材。


だが、その動きには一切の迷いがない。


「おいおい……」


匂いを嗅ぎつけたガルドが目を細める。


「こんな旨そうな飯、何日ぶりだよ」


鍋から立ち上る湯気に思わず腹が鳴った。


「最後の晩餐ってやつか?」


冗談交じりにそう言った瞬間――


「やい、おっさん!!」


アスタロスの怒号が飛ぶ。


「縁起でもねぇこと言うんじゃねえ!!」


「おっさ……!?」


今度はガルドが立ち上がった。


「俺は、まだ二十二だッ!!」


その声に、

なぜか勇者一行までが一斉に固まる。


「……二十二?」


「……嘘だろ?」


エヴァンスですら、驚きに目を見開いていた。


その様子を見た瞬間――


「ぶはっ!」


「はははは!!」


アレフたちが腹を抱えて笑い出す。


「老け顔にも程があるだろ!」


「落ち着きの塊みてぇな顔して!」


「黙れ!!」


顔を赤くしたガルドは、箸を手にし、そのまま鍋に向かってドスドスと歩き出す。


「こうなりゃ、食ってやる!!お前らの分まで、全部食ってやるからな!!」


「では、皆様お待たせいたしました」


ジェームスが、

深々と一礼する。


鍋の中には、

肉、野菜、香辛料、

そして見慣れぬ魔物の部位。


だが、香りは食欲を刺激するそれだった。


「うわあ……」


ライカが目を輝かせる。


「これは……

ちゃんこ鍋、でございます」


ジェームスは穏やかに言う。


「栄養、回復、そして士気向上に

最適かと」


ガルドが一口運び――

次の瞬間、目を見開いた。


「……っ!!」


「どうよ? 俺様たちの飯は?」


「何故お主がドヤ顔しとるんじゃ」


得意気に言うアスタロスに、シノが思わずツッコミを入れる。


「……うめぇ」


その一言で、

全員が箸を伸ばした。


焚き火の音、器のぶつかる音、

久しぶりの穏やかな時間。


エヴァンスもまた、串焼きを一口かじり――


「……美味い」


素直にそう言った。


「どれも美味いが……

特にこの串焼きは絶品だ」


「王宮料理にも引けを取らん」


「お褒めに預かり光栄にございます、王子」


ジェームスは一切崩れぬ所作で答える。


「そちらはシーサーペントの蒲焼きに

ございます」


「蒲焼き……初めて聞く料理だ」


エヴァンスは感心したように頷いた。


「魔界の食材をここまで仕上げるとは……」


「料理とは、素材への敬意にございます」


ジェームスは静かに微笑んだ。


やがて――

宴は終わりを迎える。


食器が片付けられ、焚き火が小さくなるにつれ、皆の表情から笑みが消えていく。


それぞれが剣や武器に視線を落とす。


――明日は、別れ。


アレフは夜空を見上げた。


「……短い夜だったな」


「そうだな」


エヴァンスが隣に立つ。


沈黙。


だが、それを破ったのは――

聖剣だった。


微かな光を放ち、震える。


「……反応している」


エヴァンスは柄に手を添える。


「魔王サタン以外の強大な魔力だ」


目を閉じ、意識を集中させる。


空気が張り詰める。


やがて、エヴァンスはゆっくりと目を開いた。


「……あった」


指を伸ばし、ある方向を指し示す。


「魔王城とは……真逆」


「この方角は……」


一行の中で、誰かが息を呑む。


「……アスモデウスの根城か」


エヴァンスは静かに言った。


「災厄の魔女は――

おそらく、そこにいる」


アレフはその言葉を噛み締める。


「アスモデウス……」


アスモデウス。


かつて魔王サタンと覇権を争った

大悪魔。


だが、敗れた。


しかし、

魔王城から遠く離れた場所に、彼が築いた城は現在も残されている。


「敗者ほど執念深い。やつの側近だった者たちは、未だやつの城にとどまっているようだ」


エヴァンスは言う。


「災厄の魔女を匿っているとすれば……」


「碌な目的じゃねぇな」


ガルドが吐き捨てる。


「だが、道ははっきりした」


アレフは魔剣を握る。


「助かる」


エヴァンスはアレフを見る。


「……無事に戻れ」


「お互いにな」


短い言葉。


それで十分だった。


翌朝。


魔界の地平線が赤く染まる。


アレフたちは、アスモデウス城へ。


勇者一行は、魔王城へ。


それぞれ真逆の方向へと歩き出す。


「次に会う時は……」


アスタロスが振り返る。


「敵かもな」


ガルドが不敵な笑みを浮かべる。


アレフは笑った。


「そん時は全力で殴り合おうぜ」


エヴァンスは一度だけ頷き、背を向けた。


英雄は、英雄の道へ。


呪いを背負う者は、呪いの道へ。


その先に待つのは――

試練か、

破滅か。


それは、まだ誰にもわからない。


だが確かなのは――

この夜が彼らにとって

最後の“同じ焚き火”だったということ。

次回タイトル:158話 魔界の洗礼 ― 極寒と灼熱の地

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