↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
140/157

140話 世界樹の精霊と神域への門

世界樹の根の扉を抜けた瞬間、アレフたちの前に広がったのは――薄青い光に満ちた、静謐で神秘的な空間だった。


巨大な根が天へと伸び、空間全体が脈動する。

まるで世界樹そのものが息をしているかのようだった。


ファムが先導し、アレフたちは巨大な幹の内側へと歩を進める。

枝葉のざわめきが、風の囁きのように耳に届く。


「もう少しだよ。本当の“幹の入口”は、この奥に――」


そう言いかけた、その時だった。


「――それ以上、近寄るなッ!! 呪われし人間!!」


空気が裂けるような鋭い声が降ってきた。


次の瞬間、淡い緑の風が渦を巻き、半透明の少女の姿が現れる。

肩まで届くエメラルドの髪が風に揺れ、瞳は嵐のように鋭い。


風の精霊――スクルド。


彼女はアレフを見るなり、敵意を爆発させた。


「ファム!! 穢れた人間を世界樹に連れてくるなんて……あなた、一体どういうつもりなの!!」


「ひっ……! ご、ごめんなさい……っ!」


ファムはアレフの背後に隠れ、ぷるぷる震えてしまう。


「おい、お前!いきなり怒鳴るこたぁねぇだろ!」


アスタロスが一歩前に出た。

足元から赤黒い魔力が吹き上がり、空気が重く沈む。


「……あ、悪魔まで……!?」


スクルドは怒りを通り越し、卒倒しそうになっていた。


しかし、すぐに風が奔り、彼女の瞳に戦意が宿る。


「……このままじゃ、世界樹が汚されちゃう……! 風よ、吹き荒び――浄化の陣――」


まさにアレフたちを吹き飛ばす寸前。


――空気が震えた。


「待って、スクルド!」


柔らかくも、世界を覆うような圧倒的存在感を帯びた声。

空間の奥から、一人の女性が歩み出てきた。


彼女の姿を見た瞬間、風の精霊が飛び上がる。


「ヴィ、ヴィヴィ様……!」


世界樹の精霊ヴィヴィ。


銀葉の髪を揺らし、瞳は世界樹と同じ深い翠色。装束は木漏れ日で織られたように淡く光り、歩くたびに周囲の空間が穏やかに揺れる。


アレフは思わず息をのんだ。


――これが世界樹の精霊。


ヴィヴィはアレフたちを見ると、一瞬だけ目を細め、そしてゆっくりとアスタロスに視線を向ける。


「あなたが手にしているその斧……水の精霊の加護が宿ってるわね?」


アスタロスは眉をひそめた。


「ん……? ああ、これか。……酔っぱらっててよく覚えちゃいねぇが、ザーバラの街のオアシスで会った、クソ生意気な水の精霊にもらった……みてぇだ」


その言葉を聞いたヴィヴィは、ぽかんとした表情になり――


「……ク、クソ生意気……? ぷっ……ふふっ……あはははは!」


世界樹の精霊らしからぬ勢いで笑い出した。


スクルドが真っ青になる。


「ヴィヴィ様!? な、なぜお笑いに……!」


「だって……ウルドらしいわ……。あの子、本当に相変わらずなんだから……あぁ、思い出すだけで……ふふっ……!」


アレフたちは、世界樹の精霊という大御所が笑い転げている光景に、どう反応していいのか分からない。


ようやく笑いを収めたヴィヴィは、アレフたちへ向き直り、スッと頭を下げた。


「とつぜん不躾な態度をとってしまって、ごめんなさい。あなたたちを拒むつもりはないの。ただ……最近、この森には穢れた力が入り込んでいるの。だから、警戒してしまったのよ」


「ヴィヴィ様! ですが――!」


「スクルド」


ヴィヴィは穏やかながらも逆らえない声で言う。


「ウルドが加護を授けた相手ですもの。きっと大丈夫よ」


スクルドの顔が一瞬で青→赤へ変わった。


「み、水の精霊ウルドが……!? か、加護をぉ!? 悪魔なんかに!? なんでぇぇぇ……!」


「おい、俺に叫ぶな」


「ひぃぃっ!!」


スクルドは反射的に飛び退いた。


――なんなんだ、このカオスな空気は。


アレフは半ば呆れ、苦笑しつつも、ヴィヴィへ丁寧に頭を下げる。


「俺たちは世界樹を傷つけに来たわけじゃない」


「分かっているわ。あなたたちの心の“色”は穢れていないもの」


ヴィヴィはアレフを見つめ、微笑んだ。


「だから――話してもいいわね。“あなたたちが探している場所”のことを」


全員が息をのむ。


ヴィヴィは世界樹の根へ視線を向け、静かに話し始めた。


「あなたたちの目的は“Sランクダンジョン”でしょう? 迷いの森の異変も、その影響よ」


「異変は……ダンジョンが原因なのか?」


「正確には、その中に眠ってる“怠惰の呪い”のせいね」


アレフが眉をひそめる。


「怠惰……やっぱり呪いの力か」


「ええ。とても濃く、重い。放置すれば世界樹の根を腐らせかねないほどの“深淵”」


ヴィヴィはアレフの瞳をのぞき込み、言葉を続ける。


「Sランクダンジョンは、ただの迷宮ではないの。“神域”と呼ばれる異空間に存在する。世界樹の内部――うろ(樹洞)がその入り口よ」


「神域……」


「そう。かつて神々が怠惰の神器をダンジョンに封じ、世界と分離させた空間。ですが今、その怠惰の呪いが入り込み、世界樹そのものを蝕んでいるの」


スクルドが震え声で言う。


「だから……これ以上、穢れたものの存在をこの地に入れるわけにはいかないのです! ですが……ですが……」


「ウルドが“認めた”なら話は別よ」


ヴィヴィはくすりと微笑む。


「風、水、火、土――四大精霊は互いに協調して力を与え合う。水の精霊ウルドが加護を与えたということは、彼らは“世界樹の友”になり得るということ」


「友……?」


「ええ。精霊は嘘をつかないわ。だから私は、あなたたちを信じる」


アレフは迷わず頷いた。


「案内してくれるのか?」


「もちろん。ただし――警告しておくわね」


ヴィヴィの微笑みが消えた。


「神域は危険。怠惰の呪いは、人の意志そのものを殺す。動けなくなる。思考が停止する。魂が眠り続け、二度と戻れなくなる者もいる」


「……それでも行く」


アレフは一歩前へ進む。


迷いは一切なかった。

それを見て、スクルドは目を見開く。


「な……なんて目……。呪われてるのに……どうしてそんな……」


ファムがアレフの袖をつまむ。


「あなた……こわくないの……?」


「怖いさ。それでも、行かなきゃならないんだ……」


ライカとジェームスが頷き、シノはにやりと笑った。

アスタロスは斧を担ぎ、満足そうに鼻を鳴らす。


「ヴィヴィ。場所を教えてくれ」


「ええ。ついてきて」


ヴィヴィは世界樹の幹の奥へ進み、巨大な根が重なる場所で立ち止まった。


根の中心部にぽっかりと開いた“うろ”がある。暗闇のはずなのに、内側から青白い光が脈動していた。


「ここよ。神域への入り口」


アレフはうろの奥を見た。


「行くぞ」


返事を待たなかった。仲間たちも歩調を合わせる。


「ちょ、ちょっと待って!? まだ説明が……!」


スクルドが慌てて叫ぶが――


アレフは迷いなく、そのまま光の渦へ飛び込んだ。


直後、風が悲鳴のように吹き荒れる。


「ちょ、ちょっとぉ!! 話を聞きなさいよ! ほんとに危険なんだからぁ!? アホなの!? 死ぬのよ!? え、ほんとに!? マジでぇぇぇぇ!!!?」


スクルドが取り乱すのを横目に、ライカたちが次々と続く。


そして――ファムも決意の表情で飛び込んだ。


「ああ、もう! わ、わたしも行くわよ……! 森のために……世界樹のために!」


ひとり残ったヴィヴィは、静かに手を合わせる。


「どうか……彼らに祝福を――」


光が収束し、すべてが静寂に包まれる。

次回タイトル:141話 Sランクダンジョン――ヴァルハラ宮殿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。