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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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137話 希望を喰らう箱、絶望を超える炎

「来るよ、お兄ちゃん……!」


ライカが震える声で魔導神書を構えた。


石棺の中から形を成すのは、“少女の形をした何か”だった。

白い髪を揺らし、空虚な瞳を持つ少女の姿をした闇――

しかし、その身体には黒い瘴気が絡みつき、不規則に形を変える“穴”がいくつも浮かんでいた。


「……守護者、パンドラの箱。けれど、あれはもう箱ではない。呪いそのものに人格が宿った異形です」


グリモワールが冷静に分析した。


異形の少女は口を開く。


『――解放シマショウ。あなた方ノ絶望ヲ。』


一瞬。

世界そのものが反転した。


灯台の床が“口”となり、壁が“腕”となって襲いかかってくる。


「ッ!? 空間が……呑まれる――!」


アスタロスが斧を逆手に構えるが、腕の軌跡すら呪詛に飲まれた。


「――竜鱗盾!!」


シノの蒼い盾が展開され、空間の捻れをかろうじて受け止める。


しかし。


ズブッ……!


シノの盾が、木の枝に刺さるように“呪いの穴”に飲み込まれた。


「なっ……!? わらわの竜気が……消える……?」


「全部“無かったこと”にする類の呪いだよ!」


ライカが叫ぶ。


『全テハ無二帰ル。あなた方ノ存在モ。』


呪いの少女が腕を広げると、灯台全体が揺れた。

空間そのものが、巨大な胃袋のように蠢き始める。


「アレフ様、来ます――教育的指導ッ!!」


「連激ーーメイン・ディッシュ!!」


ジェームスが飛び出し、無数の呪詛の欠片を切り裂く。


だが次の瞬間。

斬った呪詛が“ジェームスの影”に変質し、彼に襲い返ってきた。


「影写し……!?」


『あなたノ行イヲ、返還シマス』


ジェームスが斬れば斬るほど、呪いが倍加して襲いかかる。


「これは……反射型の呪いか……!?」


「なら――喰らえばいいんだろ」


アレフの足元で黒炎が蠢いた。


黒焔斬――!!


黒炎が影を喰い尽くし、呪詛そのものを無効化していく。


『“暴食”……? 興味アリマス』


守護者の少女がアレフの魔剣へ手を伸ばした瞬間――。


「させない!!」


ライカが叫ぶ。


「――輝印結界!!」


光の陣が展開され、少女の手を押し返す。

その隙にシノが竜人形態へ変化し、雷撃を纏った一撃を叩き込む。


「竜雷閃!!」


炸裂する雷光。

しかし少女の胸に刻まれた黒い穴が吸い込み、跡形もなく消える。


『ムダデス。絶望ヲ喰ラウ箱ナノデ』


「じゃあ、もっと大きいのはどうだ?」


アスタロスが斧を振り上げる。


「雷鳴轟斬――!!」


雷撃が竜巻のように少女を包み込み――


『――返還』


雷撃が“アスタロス自身へ”と反転した。


「アスタロスさん!!」


ライカが光壁を張ったが耐えきれない。


「街を壊滅させただけあって、さすがに手強い。だが――」


アレフが叫ぶ。


「ライカ!!」


「うんっ!! 合わせるよ――!」


雷光と黒炎が重なり、螺旋する。


「――行くよお兄ちゃん!

 雷霆連撃(ヴォルテック・バースト)!!」


「喰らえ――!!」


雷と黒炎の複合爆撃が守護者を貫く。

少女の身体が大きくのけぞった。


『……解析中……解析中……』


その瞬間、グリモワールが静かにアレフへ告げた。


「アレフ。あの箱は“希望”を封じるために作られたもの。

希望を与える攻撃は――呪いを反転させる」


「希望……?」


「そう。“未来へ向かう意思”。魔力と呪力が融合したときだけ、あなたは“呪い”ではなく“呪いを超える”力を持つ」


アレフは深く息を吸い――。


「なら、もっと強く重ねてやるよ」


守護者の少女の胸から、巨大な黒い口が出現した。

空間が歪み、全員の足元が沈む。


『――最終段階。絶望ノ開放。』


灯台が丸ごと“胃袋”になった。

壁も天井も床も、黒い咢の形に変形する。


飲み込まれれば終わりだ。


「全員、妾の後ろへ!!」


シノが咆哮し、


「――竜鱗盾・最大展開!!」


蒼い竜鱗の壁が巨大な咢の食い込みをぎりぎりで防ぐ。


「くっ……もたない……!」


そのとき、デュラが一歩踏み出した。


「――瘴気の壁(ミスト・ウォール)」


黒い霧の盾が展開され、咢の動きを鈍らせる。


「デュラの旦那……助かるぜ!」


アスタロスが息をつく。


しかし守護者の少女が囁いた。


『瘴獄牢』


デュラが飲み込まれかけた瞬間――。


「ジェームス!!」


「心得ております!」


執事は影の裂け目へ飛び込み、


「エレガント・クリーニング……イレイザー!!」


呪いの拘束を消し飛ばした。


全員の息がそろう。


アレフが魔剣を構えた。


「……行くぞ。終わらせる」


黒炎が竜の形を取り、空間が震えた。


「――黒竜煉獄刃!!」


黒炎竜が守護者へ飛びかかる。

そこへライカが叫ぶ。


「合わせる!!雷霆連閃――!!」


雷鎖が黒炎竜を纏い、より巨大な雷炎の竜へと変貌する。


グリモワールが風の呪句を紡ぐ。


「――風牙烈陣!!」


風の刃が竜の翼となり、竜を加速させた。


そして全員の視線がアレフへと集まる。


「行け、アレフ!!“終焉”を喰らわせろ!!」


アレフは踏み込んだ。


「――黒竜煉獄刃・終焉の獄炎!!」


黒炎竜が咆哮し、蒼い炎が灯台全体を照らす。

絶望の呪詛すら燃やす“希望の蒼炎”。


守護者の少女が目を見開く。


『解析不能……解析不能……これは……絶望デハ、ナイ……?』


「絶望じゃねぇ。未来へ進むための力だ――!」


アレフが魔剣を振り下ろす。


「――喰尽ノ黒宴(ヘル=バンケット)!!」


空間が巨大な黒炎の咢へと変わり、

守護者の少女を丸ごと飲み込んだ。


呪いは悲鳴もなく消えた。

灯台に静寂が戻る。


石棺の中央に、ひとつの光球が落ちていた。

穏やかな金色の光。


「これは……?」


ライカが手を近づけると、光球は言葉を紡ぐ。


『わたしは……希望。絶望に囚われ、長い間……助けを待っていました。あなた方に、祝福を。』


光球はふっと消えた。


アレフが魔剣を背負い直しながら言った。


「……希望が残ってたなら、救いはあるってことだな」


「そうだね、アレフお兄ちゃん。僕たちで、ちゃんと取り戻せたんだよ……!」


灯台の天井から差し込む陽光が、

七人の仲間たちを静かに照らしていた。

次回タイトル:138話 深緑の羅針盤が示す先――最果ての地

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