Chapter13
「それにしても……」
ここはどこだろう? 確かに知っているはずなんだ。
そんな脳裏に浮かぶのは、あの黒髪の女の子……。
それと、あの帽子――桜夜だ。それでも……。
「だから……。あの人って誰なんだよ……」
誰もいない部屋の中で1人、詩歌は頭を押さえ、ただ閉まっている扉を見つめていた。
「ここが……私の世界」
知らないけれど、知っている世界。私はここに帰るべきなのかも知れない。でも……。
『詩歌は自分の世界を探して、そこに帰りたいのか? 』
翔が口にした言葉……。
「そんなのわかんないよ……」
この世界に来れれば、この胸の痛みは消えると思ってた。なのに……もっと痛くなって、苦しくて……。
『仮に詩歌がこの世界の人じゃなかったとしても、詩歌はここにいればいい』
私はいてもいいのかな……。
私の居場所はどこかにあるの……? 私は……。
シトシトとした雨が室内に降り始め、だんだんと激しい雨に変わっていく。
この世界の皐のドール――水月の能力らしい。それからは、何がおきたのかわからなかった。
この世界の皐が見えなくなったと思った瞬間、周りにいるドールたちの中から8体のドールが動きだし、気が付けば皐と水月は8体のドールに囲まれて倒れていた。
「キミたちは、戦おうとするなよ。次はオレが行く」
この世界のオレが前にでると、共に前にでた輝夜と桜夜が薄い光に包まれて……。
『その子は輝夜、今そこにいる水月の姉妹機よ。あなたが望むならあげてもいい。けど、この子を扱うのは難しいわよ?』
――ドールと呼ばれる機械を使役する世界、その世界の翔と輝夜、そして皐が出会ったのは何年か前のことだった。
『どこのチームにも属さない最高の人形技師がいる』――ただ、力を求めていた頃の翔は、この噂に何かを感じ、その人形技師を探し続けた。
その人は、案外簡単に見つかった。
2体のドール、1人の少年を連れていた彼女は、翔の話を適当に聞くと、翔を真っ直ぐ見据え口を開いた。
「力が欲しい、ねえ? その子は輝夜、今そこにいる水月の姉妹機よ。あなたが望むならあげてもいい。けど、この子を扱うのは難しいわよ?」
それは翔にとって予想外な言葉だった。そんなに簡単に渡していいドールなのか……? ホントは凄くないんじゃ……? そんな疑問が頭をよぎる。
「タダでいいのか……? ドールは2体しか連れてないみたいだけど」
「んー? ドールってのはね。主を選ぶの特に私の……」
そこで、言葉を詰まらせ、首を横に振ると、言葉をたした。
「私と私の唯一の弟子、私たちが作ったドールは主を選ぶ。だから、あなたが輝夜の主になるべき人なら、あなたが持ってるのが普通でしょ?」
「それって、あんたらの作るドールに心があるってことか?」
「ううん。それは違う、私たちのだけじゃなくて、どんなドールにも心はあるの」
彼女は優しい目で真っ直ぐ翔を見て言い放った。
「どんなドールにも……」
翔は真剣にその言葉を受け止めようとしているのが彼女にもわかっただろう。
「んー? キミはドールを扱う時どうやってドールと繋がるの?」
「そんなの、こう……気を飛ばす感じで」
「そうね。ここにいる人たちは、みんな感覚だけでドールと繋がることができる。でもね、あれはドールと気持ち――絆を共有してるの」
気持ち、絆の共有……? そんなの翔は聞いたこともないことだった。首を傾げる翔に彼女は再び言葉を繋げる。
「簡単なことよ。あなたの大切な人への思いをドールにぶつけるだけでいい」
そう言うと、彼女は微笑み。翔に輝夜を渡した。そして……
「そうね。そこにいる子が水月が選んだ人。戦ってみるといいわ。私もあなたがホントに輝夜にふさわしいか確かめられるし」
その言葉を聞くと、そばにいた少年が一歩前にでた。その少年はキレイな紅い瞳をしていた。