Chapter12
「同じ、キミでしょ?」
紅い霧の中でその言葉がオレの頭に響いていた。
しばらくの沈黙、紅い霧が服にまとわりついて気持ち悪い……。――いや、実際には、その霧は皐の操るドールなのだ。服にまとわりついたりしてるわけがない。
ただ、目の前にいる彼女の存在に威圧されてるのだとオレに気付く余地があったのだろうか。
――と、黒くて長い髪をもった彼女は真っ直ぐオレに近づいてきた。皐の紅椿の力は確かに発動しているにも関わらず、真っ直ぐオレのほうを見て近づいてくるのだ。
その長い黒髪が指先をかすめた気がした。すると――
「ふふ……。私が何者なのかって? そうね……。神……?」
この女は何を言ってるんだ……。神って、神様とか言われてるアレだよな……。
「えっとね。この世界ではないけれど、最初の世界? それを作ったのが私なの」
彼女は真っ直ぐにオレを見つめ、全てを見通しているような目でオレに微笑みかけた。
「まあ、信じなくていいけどね。それじゃ、行きましょうか。ここのキミが待ってる所へ」
オレが待ってる場所……?
――余計なことを考える時間なんて全く無く、糸のようなものが身体を通ったかと思うと目の前は光のようなものに包まれた。
電波塔を占拠していた青年――月見里翔は電波塔前の広場を見下ろし、ただ呆然とその光景を眺めていた。
かなりの数の人が、ドールが、集まって来ているのだ。その数は百や二百じゃきかないだろう。
これだけの人数が自分の話を聞き、賛同して集まってくれたのだ。
世界はこんなにも簡単に変えられてしまうものなのだろうか……?
「とりあえずは、大成功ってことかな?」
そう言うと翔は、窓から外へ飛び出した。
結構な高さのところから飛び降りた彼を見つけた何人かが彼を指差す中、ふいに空気が揺らいだ。
気が付くとそこには2人の少年が、そしてその周りに現れたのは、現在この町を実質的に束ねているチーム、そのチームの所有する蜘蛛型のドールだった。
つまり、自分たちが助けようとしているドールを捕らえているチームのドール――やはり敵はやってきたのだ。
何体かのドールが飛び出したが何かがおかしい。蜘蛛が避けようともせずに落ちてくるだけなのだ。
そして――しばらくの後、電波塔前の大衆には怒りが溢れ帰り、それは混乱という言葉がふさわしい、仲間割れとしか言いようがない事態に陥っていた。
「あの女何をしたんだ?」
混乱の中心で2人の少年が息を潜めている。
「知るかよ……」
「ホント、月見は男に厳しい……」
まだ、そういうこと言うのかよ。
「で、どうするの……?」
「どうするって言ったってなぁ」
どうしようもないだろ……。周りじゃ、ドール同士の喧嘩が始まるし、それも百人単位の喧嘩だ。正直、オレにはどうにもできない。
「ふふ……。それじゃ、もう1回、会場を変えようか……?」
それはもう聞き慣れた、甘ったるい声だ。
そると、蜘蛛の糸がオレと皐を同時に通り……。
――次にオレがいたのは、詩歌に似たあのドール、その目の前。
まわりにいるのは、オレと皐、この世界のオレ、そして――、紅い目をした美青年、五月七日皐だった。
それと、それぞれのドール、他にもたくさんの動いていないドールたちが周りに置いてあった。
「1人、呼んでない子が混ざってるみたいだけど、まあ、別にいいわ……」
甘ったるい声と共に現れた彼女の周りには、1体の小さめの蜘蛛を除いて、ドールは1体もいなかった。
「あの、蜘蛛には気をつけなよ。さっきの混乱を起こしたのはあの蜘蛛だ」
この世界のオレはそれだけで伝わると思っているのだろうか……。
長い黒髪をなびかせた彼女は薄く微笑んだ。




