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未開の虚像現実より  作者: 坡畳
虚像編
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Scene_112_説得

家のドアが吹き飛び、レヴララではなくフーとドラウスが入ってくる。

フーはあり得ないほど腕の骨を伸ばし、ウリの首に鎌の刃を当てる。

ウリは鎌の刃をナイフで受け止めるが、ナイフが首に当たり血が流れている。


「この集会の首謀者は君だな」

「……そうですが」

「レヴララはここへは来ない。そして君たちには死んでもらう」


フーの腕が少し動いた瞬間、ウリは瞬間移動でフーに近づきナイフを投げる。

ナイフはフーを避けるように飛び壁に突き刺さる。


ウリは血の流れ出る自身の首を押さえるが、背中から鎌が突き刺さり、消えて行く。


「次は君だ、少年くん」


俺はフーの振る鎌を剣で斬り返そうとするが、鎌は俺の身体をすり抜けてゆく。

身体が切り崩れ、視点が落ちていく嫌な感触がする。


気付くとギルド本部にいた。

殺すったって復活か。

……ん、何で死んだんだっけ。


目の前ではウリが呆然として座り込んでいる。


「大丈夫?」

「ええ。しかし何か、大事なことを忘れたような。何でしたっけ」

「分からない」


……これがデスペナルティか? レベルダウンとか装備没収とかそんなのを想像していたが、記憶喪失とは。

困ったな。


突然ボイスメモが飛んでくる。

レヴララという人からみたいだ。


「大丈夫か? 私は案内人のレヴララ。ジャムルに代わり君の案内人を受け持つことになった、これからよろしく。この世界でよく分からないことがあったら気軽に聞いてくれ、それじゃ」


ボイスメモの音声が途切れる。

何だか頭の中が整然としない。


「ウリ、レヴララって人からボイスメモ来た?」

「ええ。確かジャムルさんに代わりこの世界を管理しておられる方です」

「へえ、そういえば人代わったんだっけ」


まあいいか。

とりあえず装備集めでもしにウリをダンジョンに誘うか。




白い部屋の中で白く大きい玉を前に、椅子に座る。

玉は高校の時の友達とよく似た姿へ変わる。

初めて見た時は驚いたが、似ているだけで中身は全く異質なものだ。

神様……と呼んでしまってもいいのだろうか。

名前はアルブムらしい。

ジャムルや私に途方もなく多くの選択肢を与えてくる、この世界をいじるためのUIだ。

勝手に出歩いて転移者を殺して回ることがあるようで、理由は全く分からない。

練子によると、殺された時に私視点での映像を見たそうだから何かしようとしているのは確かなんだけど。

ジャムルの時も同じことをされたらしい。

アルブムは私の目をじっと見つめてくる。

話しかけても反応してはくれないが、この椅子に座ると現れて特殊なホログラムを開ける。


私はホログラムを操作し、モンスターの性能を書き直す。


突然ボイスメモが飛ばされてくる。

……レアルからだ。

そうか、あの時助けた後の処理をしていない。

レアルと仲良くなるのはまずい……。

また命を失ってでも私を助けようとするかもしれない、様子は気になるがあまり関わりたくない相手だ。


私がレアルからのボイスメモを削除しようとすると、何故か再生される。

耳を塞ぐと、アルブムが腕を握り邪魔してくる。


「レヴララさん、先日は助けて頂きありがとうございます。その……。レヴララ、私はレヴララのこと大好きだよ。だから、レヴララが代償で苦しんでるなら……半分くらいは分けてほしい。助けられっぱなしじゃ申し訳ないしさ、お願いします」


ボイスメモの再生が終了する。


「アルブムがレアルにあの三年の記憶を与えたのか?」


アルブムは首をかしげる。

……いいや、レアルのことは監視してたから分かる。

少年とリャウが城に行って少し話してたくらいだ、あと思い当たるのは私が助けた時の僅かなやり取り、それでレアルが察したのかも知れない。

……代償を半分分けて欲しいだなんて、それは嫌だ。

現実世界にレアルはいない。

代償があるとしたらそれはこの世界で起きることだ。

私はもうレアルが感じているであろう楽しさは、この世界でさえも感じ取ることができない。

だからレアルの幸せが私の幸せなんだ。

……また巻き戻しても無駄だろう。

代償は更に大きくなるし、やめておくか。


とりあえずリャウたちにはデスペナルティを与えないと、このまま説得に来られても困る。

……手伝ってもらうか。


「アルブム。そろそろ手を離してくれないか」


アルブムは私の腕から手を離す。

一応、こちらの言うことは理解してくれるようだ。

とりあえず案内人の仕事と、あとは私の偽物について調べときたい。


私がスキルでポータルを開いて出ようとすると、ポータルから押し出されるようにレアルが出てくる。

何なんだ、アルブムの方を見ると腕を組んでこちらを見ている。


「こんにちは」

「どうやってここに……」

「ジャムルさんがここへ連れてきてくださいました。あの、少し恥ずかしいのですが。ボイスメモは聞いていただけました?」

「いや聞いてない」

「そうですか。ジャムルさんが言うには、この世界を維持するには代償が足りていないそうで。私の命を使いたいと」


いいやジャムルは死んだはずだ。

アルブムは頷いている。


「おいアルブム、テキスト上でそんな記載はなかったぞ」

「……やっぱり私を助けようとして時間を巻き戻したのですか」

「違う、戻さないと色々都合が悪いから戻しただけだ」


レアルは私に抱きついてくる。


「……大丈夫、嘘ですから。ジャムルさんはただ私をここに連れてきただけです。また仲良くなってやってほしいと言っていました」

「ジャムルは……死んだはずだ」

「あの人が仕組んだそうです。そこのアルブムさんも使って」


アルブムを見ると目を逸らしてくる。

いいや、現実味がまるでない。

これは夢なんじゃないか。

こっそりと自分の舌を噛む。

……少し痛い。


「でも代償は要るんだろ?」

「はい。でも私はここにいます、私の願いはレヴララの現実世界での未来を変えること」

「その代償は何なのか見たのか?」

「短命の呪いです。しかしこれもジャムルさんから受け取っていまして」


レアルは血瓶を取り出し首に掛ける。


「これで解決という訳です」

「おい、アルブム。これっていいのか? 呪いを呪いで打ち消すなんてできたら代償にならなくなるぞ」


アルブムは両手のひらを上に向け首を傾げる。

コイツ、雑過ぎないか。


でもジャムルはどうなるんだ、消したはずのレアアイテムを保持していたし、ジャムルも何か代償を払っているはずだ。

……ジャムルは正直よく分からないやつだし、あまり助ける気というのも湧かないけど、このシステムは誰かが犠牲になるようできてるし助けないと。


「ジャムルは今どこにいるんだ?」

「それは、ボイスメモの送信予約とアイテムの送付があってここに来ておりまして。居場所は全く分かりません」


……そうか。


私もそういう形を取るべきだった。

感じ取れない幸せが常にそこにあるのは、悲惨に死ぬよりも苦痛だ。

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