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ペンダント!~ツイてない私がとびきりの幸せをつかむまで~【電子書籍発売中】  作者: 守雨


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18 王宮の夜会

 王宮の城内はたくさんの照明が置かれていて、昼間かと思うほど明るい。


 アリスは結局、母の一番高価なドレスをサイズ直しして靴だけは新しいものを買い求め、精一杯のおしゃれをして来た。付き添って来たのは侍女のアメリ。


「お嬢様、わたくし、王宮に脚を踏み入れるのは初めてで。既に膝が震えております」

「緊張しているのは私も同じよ。あなたとはここでお別れね。使用人控室で待っていて」

「お嬢様、食べすぎないようにしてくださいまし!」

「わかってる」


 注意されるまでもなく、締め上げられたウエストが苦しくて何も食べられる気がしない。辺りを眺めると一人で参加している女性は自分だけで、ほとんどの女性は男性にエスコートされているようだ。


 しかもアリスのように年若い女性は少なく、年配の貴族が中心である。受付で招待状を差し出して中に入ると、大広間は無数のロウソクが壁に貼られたたくさんの鏡に映って金色の光で目が眩みそうである。


 楽団は静かな曲を演奏していてザワザワとした会話がそれに混じり合い高揚した空気を醸し出している。あちこちでグループが作られ、時折りワッという笑い声も弾けている。完全に場違いな所に来ていると言う引け目でアリスは壁際の目立たない場所に立った。


 やがて男性が一人、壇の前に立って声を張り上げた。


「国王陛下の御出座でございます」


 一瞬にして広間は静まり返り楽団も演奏を中止する。国王陛下、王妃様、王太子様、王女様が入場してそれぞれの護衛が後ろに立つ。レオンの姿を見てほっとする。


 レオンは真っ白な近衛騎士の正装を着用していて、肩に付けられた金色のモールが美しい顔をいっそう引き立てている。


 皆の注目が全て壇上に集まるのを待って陛下が挨拶をなさる。本日の主賓であるコルマ王国の第三王子アンドレアス王子に声をかけ、一人の若い男性が壇の前に進み出て優雅な仕草で頭を下げた。


「間違いない。あの人だわ」


 ここ数日水晶玉の中に浮かんでいた極小の生首の本人がそこにいた。


「とにかくあの人に近寄らないように気をつけなくちゃ」


 そこからアリスは常にアンドレアス王子を視野に入れて最大の距離を取るように立つ場所を移動した。もし彼女の動きを見ている人がいたなら、さぞかし珍妙な動きだったろう。


 しかしそれもついに限界を迎える。アンドレアス王子がお供の人に何やら話しかけて、その男性が王宮側の人に話しかけて……その二人が自分の方を見て会話した。嫌な予感と共にその様子をうかがっていたアリスにアンドレアス王子が大股で近寄って来た。


 一直線にホールを横切る王子の動きは人目を引いて何人もの招待客たちが興味深そうな表情でこちらを見ている。王子はアリスの顔をピタリと見据えたまま正面に立って右腕を折り曲げてごく軽く腰を曲げ、優美な挨拶のポーズを取った。


「美しいお嬢さん、お一人で参加しているのかな?」

「はい、殿下」

「少しお話をしても?」

「はい、殿下」


 アンドレアス王子は顔も声も優雅でありながら強い精神を滲ませる風格があった。この手の男性と会話するのは初めてである。


(レオン様とはまた違うタイプだわ。圧迫感がある雰囲気と言うか)


「あなたはギデオン伯爵家の御令嬢かな」

「はい殿下。アリス・ド・ギデオンでございます」

「コルマ料理レストランのオーナーの?」

「はい殿下」


 そこで楽団の音楽が開始された。

 国王陛下と王妃様が滑るようにホール中央に進んで踊りだした。さすがの美しさである。

 アンドレアス王子はそのままの位置でお二人のダンスを見守っている。


(早く離れてほしい)

 この人がどんな不運を運んで来るのか想像がつかず、手のひらに嫌な汗が滲む。


(まさかこの人と踊るなんてことはないわよね?)

 救いを求めるようについ壇上のレオンを見てしまう。

 するとレオンはまっすぐこちらを見ていた。

(大丈夫。何かあったらきっとレオン様が助けてくれる)


 笑顔が引きつらないように気をつけて国王夫妻のダンスを拝見していると、お二人が笑顔でダンスを終えた。ここからは夜会参加者の時間だ。

(お願い、私を誘わないで!)という心の叫びも虚しくアンドレアス王子が正面に立ってダンスを申し込んだ。


「私と一曲踊っていただけますか?」

「はい殿下。喜んで」


(心の叫びが目に見えたなら、私は口から盛大に血を吐きつつ絶望の悲鳴をあげてるわ)と思いながら差し出された手に自分の手をそっと置く。


 続々とホールに貴族たちが足を踏み入れてダンスを始め、アンドレアス王子とアリスもその中に加わった。


 アンドレアス王子は巧みなステップで他の踊り手たちと距離を取り、しっかりしたホールドで踊りやすかった。ダンスの相手は父とモーリスしか知らないアリスでも、この王子様がたいそうダンスが上手いことはわかる。


「なぜコルマ料理の店を始めたのか知りたいな」

「それは、美味しいからですわ。初めて食べたとき、全ての料理に感動いたしましたの」

「確かにあの店の料理は本場の家庭料理の味だった。いい料理人を見つけたんだね」

「もともとはわたくしのコルマ語の先生なんです」

「コルマ語をあなたが?『それはまたどうして?』」


 途中からコルマ語で尋ねられた。


『何かひとつ自分に誇れるものを身につけたくてコルマ語の勉強を始めました』

 アリスもコルマ語で返答する。


『コルマ王国のことに興味を持つシャンベル王国の貴族は珍しい。嬉しいよ。この国では我が国を下に見て侮る貴族がほとんどだからね』

『そのように感じることがあったのならシャンベル王国の一員としてお詫びします。きっとその方々はコルマの魅力を知らないだけです』


(もう無理。もう無理です神様。コルマ語の語彙もこの方とのダンスも、もう限界です!)


 アンドレアス王子にリードされて相当早いテンポで踊り、みっともなくハァハァ言わないよう呼吸を抑えている上にコルマ語での会話。しかも相手の踏み込んだ意見に同意もできず、頭と体が熱を持ったように熱く呼吸も苦しい。


 やっと一曲が終わり(これで好きなだけ息ができる!)と思っていると

「あなたを離したくないな。もう一曲いい?」

と言われてアリスは引きつった笑顔で固まった。


「殿下。わたくしとも踊っていただきたいのですけれど」

 優雅でありつつ威厳の漂う声がして後ろを見ると、ビクトリアス王女が笑顔で立っていた。


「これはこれはビクトリアス王女殿下。もちろんですとも。さあ、お手をどうぞ」


 アンドレアス王子とビクトリアス王女がホール中央へと出ていった。


「アリス、大丈夫だったかい?」

「レオン様。大丈夫といえば大丈夫でしたが、崖っぷちでした」


 今までこんなに誰かにすがりたいと思ったことはなかった、この方が初めてだ、とやっと自分の気持ちに気がついた。


(私、公爵家や近衛騎士に関係なくレオン様に惹かれているんだわ)

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