第52話
「アッシュ!」
自分の名前をを呼ぶ声が聞こえ、アッシュはゆっくりと目を開ける。
「カティ、ナ?」
「アッシュ!」
夕日のせいで影になった相手がまた自分の名前を呼んでいる。
「大丈夫かい?アッシュ」
徐々に姿がはっきりしてきた声の主はディーンだった。
「ディーン、か」
アッシュは苦しそうに言いながら起き上がる。
胸がひどく痛み、見てみるとヴェラからもらった金属の鎧は大きく変形していた。
「オーガは?」
「僕達が戻ってきた時にはアッシュとファングしかいなかったよ」
「そうだ、ファング!」
気を失う前の光景が頭をよぎる。
「大丈夫だよ、ほら」
ディーンの示す先にはヴェラに抱きつかれ、迷惑そうに尻尾を振るファングの姿があった。
「よかった」
「何があったんだい?」
「オーガはどうなった?」
ディーンの言葉にバルドが続いた。
バルドは全身を防具で覆い、身の丈ほどある巨大な両手剣を持っていた。
「すみません、バルドさん。助けに来てもらって」
「そんなことはいい。オーガはどうした?倒したのか?」
「いえ、殴られて気を失って。どうして俺とファングが生きているのか不思議なくらいです」
アッシュの言葉にバルドは顎を掻きながら考える。
「まぁいい。生きてたのなら今はそれでよしとするか。いいかお前達、周囲への警戒を怠るな。基地に敵を呼び込むわけにはいかない。くれぐれも敵の気配を見落とすなよ」
それから一旦アッシュ達は沼地方面へ進み一晩を過ごした。オーガや他の生き物からの襲撃への緊張感から、皆の間には会話はなかった。
周囲に完全に敵の気配がないことを確認した後、アッシュ達は第三中継基地へと戻ったのだった。




