第24話
猪の首から剣を引き抜き、離れる。
動きの止まった猪は大きな音をたてながら倒れていった。
アッシュが肩で息をしている。
盾を持つことさえも億劫でその場に落としてしまう。猪の攻撃を受けていた左手は痛みと痺れに襲われていた。
倒れた猪の背中側を通り後ろへ向かうと、そこには岩にもたれ掛かったディーンの姿があった。
「大丈夫か?」
息を整えながらアッシュがディーンに近づく。
「うん、倒れる時にファングが引っ張ってくれてね。足を捻る程度ですんだよ」
「まったく、無茶をして」
そう言いながらヴェラもディーンのところへ来ようと猪の近くを通った瞬間、それまで静かに横たわっていた猪がまた暴れだした。
ちょうどその時猪の腹側へ近づいていたヴェラは、暴れる猪の足に肩を蹴られ、弾き飛ばされた。
アッシュは持っていた剣を両手で掴み直し猪へ向かって走る。
再び背中側を抜けて、頭へと。
そして、何度も何度も猪の頭へ剣を叩きつけた。
顔が切り刻まれ、元の形が分からなくなる頃になってようやく、猪はその動きを止めたのだった。
「大丈夫か」
アッシュは自分の不注意と仲間を傷つけられたことに歯噛みしながらヴェラのもとへと駆け寄った。
ヴェラは肩を抑え、顔を歪めながら立ち上がる。
「これは、外れちまったかね」
「すまない、俺がちゃんと止めをさしておけば」
「いや、周辺の警戒はあたしが、何て言いながらこの様だ。自分の責任だよ」
ひとまず無事なヴェラを見て、アッシュはほっと胸を撫で下ろした。
三人が集まり、倒れた猪を見つめる。
「無傷で勝てれば一番よかったんだけどね、この巨体相手にこの程度ですんだんだ。よく戦えた方だよ」
とはいえ一歩間違えれば大惨事になっていた。まだまだ反省する点は多く、学ばなければいけないことも多い。
「まぁ、その為の相手だ。今回の戦いを通して何かが学べればそれでいいさ」
自分達の戦いに満足のいっていないアッシュとディーンにヴェラは優しく声を掛けた。
「それにしても、こいつは一体なんなんだろうね」
三人の見つめる猪の死体は大量の液体で濡れている。それは血ではなく、黒い液体。
いつか見た魔物の死体の成れの果て、それによく似た黒い液体だった。




