第23話
「ディーン!」
泥を浴びる時のように、猪は背中を地面につけてバタンバタンと暴れている。
その猪の腹へ目掛けてアッシュが手斧を投げつけ、ヴェラも装備してあった短剣を片っ端から投げつけた。
しかしその傷は毛や脂肪に阻まれてしまいどれも浅く、猪の勢いを弱めることができない。
「くそっ!」
アッシュが走り、暴れる猪の顔の前へと回りこむ。
アッシュの姿を確認した猪は暴れるのを止めて体を起こした。
遂に面と向かって対峙したその猪の巨体に、アッシュはやや呆然とする。
背の高さはアッシュの倍ほどあり、横幅は荷車のそれよりも大きい。
アッシュは初めて自分の持っている武器が頼りなく思えた。
「ディーン!」
アッシュが叫ぶ。
「ディーン!」
もう一度。
その時、なんとか生きてるよ、と猪の後方から声がした。
ディーンが生きていたことで、アッシュは一先ず眼前の猪へ集中することにした。
見た感じでは、今までの攻撃が手傷を負わせているのか全く分からない。
「大丈夫、効いてるよ」
その時、ヴェラの声が響く。
「あたし達の攻撃は確実に効いてる。こいつがすぐ襲ってこないのがいい証拠さ」
確かに猪は威嚇はしてきているものの襲ってくる気配はない。
背中や体についた傷からは液体が溢れ出ており、浅いとはいえその攻撃は着実に猪の体力を奪っていたのだ。
「それなら、攻める」
盾を構え猪へと踏み込む。
距離を開けるといつまた突進してくるか分からない為に、アッシュはあえて距離を詰めた。
猪は頭を振り回しアッシュに折れた牙をぶつけてくるが、それを盾で防ぎながら切りつけ、巨体ゆえの小回りの効かなさを利用して側面に回りこんで剣を突き刺した。
猪はすぐに頭をこちらに向け牙をぶつけてくるが、それを防いでまた、切りつける。
アッシュに集中している猪目掛けて、ヴェラが猪の腹から抜け落ちたアッシュの手斧を使い一撃をくれた。ファングは後ろから猪の体に噛みつき、引っ掻いている。
猪は徐々に全身傷だらけになり、動きが鈍くなる。
ぬらぬらとした液体にまみれていく。
猪の攻撃を盾で弾き、首もとへ剣を突き立てた時、ようやく猪の動きが止まったのだった。




