館に蠢く 最終話
「流石にちょっと疲れちまったね」
三人は街道を歩き、分かれ道まで戻ってきた。
「少し休みましょうか」
ディーンはヴェラに気を使い、道の脇で荷物をほどき始めた。
「それじゃあたしは水を汲んでくるよ。この辺の地理には詳しいからね」
少し遅くなっても探さなくていいよ、そう言ってヴェラは革の水筒を手に取ると、一人森の中へと入っていった。
森の中を歩きながら、ヴェラは色々なことを思い出した。
子供の頃を、大変だった仲間達との冒険を、そしてニールとの最後のやり取りを。
視界が歪み、足からは力が抜け、歩くことも儘ならなくなり木にもたれ掛かかって座り込んだ。
「みんな、覚悟はしてたんだ」
自分に言い聞かせるように呟くが涙が止まらない。
懐を探り、短剣の形をしたブローチを取り出す。
それは首を噛み千切られ、黒い水を飲まされ、ただ生きてそこにいるだけになってしまったニールから渡された贈り物。
君と旅ができる記念にと、ニールが用意していた贈り物だった。
君の手で殺してほしいと頼まれた。他にどうしようもなかった。ニールは最後にありがとうと呟いた。
ヴェラはブローチを握りしめ、声を殺して泣いた。
ふと柔らかい気配を感じて振り返ると、そこにファングがいた。
ファングはヴェラの背中に鼻を押し当て、その後体を丸めてヴェラに寄り添うように座り込む。
「ありがとう」
ヴェラが優しくファングの背中を撫でる。
「あんたはいい女だよ」
そうしてしばらくの間、ヴェラはファングの横で泣き続けたのだった。




