第30話
アッシュとディーンは館の裏庭でヴェラを待った。
アッシュの手には今、ヴィクターから受け取った石のような塊が握られている。
これを今回の事件の証拠として冒険者組合へ提出するつもりだ。
夜が明けてきた頃、ようやくヴェラが姿を現した。
館の中からふらふらと出てくるヴェラの服には血が飛び散っていた。
「待たせてすまないね。なかなか、覚悟を決められなくてね。でもまぁニールが望んだことだから、あたしも腹を括ったよ」
「どういうことですか」
覚悟、腹を括る。
ヴェラが何の話をしているか、アッシュとディーンにはよく分からなかった。
「この事件はこれで全て終わりってことさ。そうそう、あんた達にもらってほしい物があるんだ」
ヴェラの手には大きな革の袋が握られていた。
「ヴィクターだろうね、ニールがいた部屋に仲間の装備が放り込まれててね」
そう言って革袋の中からアッシュには胸部を守る鎧を、そしてディーンには背が櫛状になっている短剣を差し出す。
「ニールの護衛に合わせて新調したものだ。アーマードの鍛冶屋に作らせた物だから品質は保証するよ」
「いいのか?こんな高価なもの」
アッシュは鍛冶屋で見た金額を思い出す。
「ああ、もちろんさ。せっかく作ったんだ、あいつらの為にも使ってやっておくれよ」
それにこれは助けてくれたせめてものお礼だよ、と力なく笑うヴェラを見て、アッシュとディーンは礼を言い、素直にそれを受けとった。
「彼はどうするの?」
ヴィクターはあの後も椅子に座ったまま動かず、何も話さなくなった。
「さてね、あいつがどうするつもりかは知らないが、後のことは冒険者組合に任せた方がいいだろうさ」
そう言ってヴェラは二度と館を振り向くことなく、森の中へと戻っていった。
館の中、しばらくの間一人でいたヴィクターはおもむろに椅子から立ち上がり、ニールの運んできた荷物を漁った。
頼れる人はなく、父親の残した財産も既に底を尽きた。
遅かれ早かれこうなるのだとヴィクター自身分かっていた。
だから、最後の金で母親の食糧を買い込んだ時に一緒に大量の油も買っていたのだ。
広間から廊下へ、廊下から部屋へ、ただ無言で油を撒く。
階段から二階へ上がったヴィクターはニールを閉じ込めた部屋の扉が空いているのに気が付いた。中を覗くと首を切り落とされた死体が一つ転がっている。
その部屋に置いてあった、昼に殺した男が持っていた剣を拾う。
頼りない足取りで全ての部屋に油を撒いて一階へ降り、台所から火打ち石を持ち出して油に火をつけると、炎はあっという間に館を覆い尽くした。
母親の死体の傍にヴィクターが座り、ごめんね、と呟く。
そしてヴィクターは自らの首に剣を当て、思い切りそれを引いた。




