第21話
館から少し離れた森の中、そこにはアッシュとディーン、ヴェラの姿があった。
「すまないね、報酬も何もないのに手伝わせちまって」
「気にしなくていい。ニールさんのことは俺達も気になっていた」
鎖帷子を脱ぎながらアッシュが言う。
今回は夜を待ち、館に忍び込むことにした。
音の原因になるものは持ち込めない為、それぞれが武器だけを携帯して行く。
辺りが完全に暗くなるまではまだ少しかかりそうだ。
「ニールとあたし達はさ」
ヴェラが遠くを見つめながら不意に話始める。
「ニールとあたし達はユニ村で育ったんだ。あいつ昔からぼけっとしたところがあってさ、いつもみんなにからかわれてた。そんなあいつが商人になるって言い出したときはそりゃみんな驚いたもんさ」
「ヴェラさん…」
ディーンは辛そうに話すヴェラにかける言葉が思い付かなかった。
「村で生まれて村で死ぬ、それが当たり前だと思ってたからね。でもあいつが村を出るって言い出したとき、あたし達もそれに感化されてね。じゃああたし達は冒険者になろう、こんなぼけっとしたやつに荷物を任せるのは心配だからあたし達が冒険者になって護衛してやろうって盛り上がったものさ」
ヴェラは話続ける。黙ってしまうと一気に暗い想像に飲み込まれそうになるからだった。
「まぁ最初は大変だったよ。今まで武器なんか握ったこともなかったんだ、ゴブリン相手にてんやわんやさ」
ヴェラは懐かしそうに笑う。
「それでも、たまに商人に付き添ってあいつが村に寄るとさ、あたし達も頑張らなきゃいけないなって気持ちになって、何度も危ない目に合いながら、ようやく護衛を任されるくらいの実力を身に付けてさ。そしたらちょうどあいつも行商を任されるって言うじゃないか、だったらあたし達に任せなって…きちんと目的地まで守ってやるよなんて言ってさ…だから、あいつを祝う準備をして、みんなで待ってたんだ」
ヴェラの声は今にも消えてしまいそうだった。
「まだそうと決まった訳じゃない」
アッシュはニールや仲間達の死をはっきりと口にできず、誤魔化すように呟いた。
「ああ、そうだね。ありがとう。でもさ、ニールもあたし達も村を出たときから覚悟はしてるさ。それに、下手に希望をもっちまうとダメだったとき立ち直れなくなっちまうからね」
さてと、と言い土を払いながらヴェラが立ち上がる。
「無駄な話に付き合わせちまったね。さ、行こう。この暗さなら十分だ」
そう言ってヴェラは館へと歩き出した。




