第10話
討伐依頼書
依頼者 冒険者組合
場所 アーマードから西へ伸びる街道を進み、赤い布を巻いた木を目印に沼地へ。
その先にある石窟内部。
討伐対象 ゴブリンの祈祷士 一匹
ゴブリン 十匹以上
補足一 ゴブリンの祈祷士はその辺り一帯で採れるものを道具として使う。幻覚剤、神経毒、泥炭等に注意すること。
補足二 依頼中に拾得した物は冒険者の自由にしてよい。
補足三 本件は冒険者育成の為の依頼であり、依頼の遂行は各自の判断に任せるものとする。
「昔は生け贄を捧げる祭壇として使われていたそうだよ」
アーマードを出発した日の夜、街道沿いで野宿をする為に焚き火を起こす。
平坦な道が続き、遠くにいくつかの集落は見えるが今は街道に人影はない。
「恐ろしい文化だな」
「生け贄といっても動物だけどね。なんでも、沼の怪物と呼ばれる大きな魔物が昔この辺一帯を荒らしていたらしい」
焚き火に掲げた鍋に具材を放り込みながらディーンが続ける。
「そしてその怪物は勇者によって倒された」
「勇者?」
怪物に勇者、まるで大人が子供に聞かせる物語のような話だとアッシュは思った。
「そう。アーマードの近くの村の青年が神に導かれ勇者になった、なんて、いかにも伝説らしい話だよね」
出来上がった夕食をアッシュに渡しながらディーンが続ける。
「でも事実らしいんだ。アッシュが必要なものを買い揃えてくれている間に、カヴァルさんに色々と聞いてきたんだよ、昔話とか伝説の類いの話をね」
こういった勇者の話は何もここだけではなかった。
ある時から大陸各地で選ばれた力を持つ者達が現れ始め、その者達はいつからか勇者と呼ばれるようになった。
各地で問題を解決した勇者は次第に一所に集まり、北の竜討伐へ向かう。そして皆、死んでしまったのだ。
「北の竜、それと神に勇者か、まるで現実味のない話だ。ところで、ディーン」
「うん、気付いてるよ」
と、小さく呟き押し黙る。
先ほどから後ろの林の中から、こちらの様子を伺う何者かの気配を感じていた。
ファングが襲い掛からないことから悪意はなさそうだ。
とはいえこのまま見られるのも気分が悪い。
そう思いアッシュが短く口笛を吹くと、林に潜む何者かの更に後ろ、気配を殺し待機していたファングが動いた。
ガサガサと音をたて女の声が聞こえる。
「うわっ、ちょ、ちょっとなんなんだい!」
そう言いながら林から転げ出てきたのは赤い髪をした女盗賊だった。




