第9話
冒険者組合を出て宿へと戻る途中、二人は無言だった。カヴァルの話が二人を無言にさせていた。
カヴァルは言った。
「竜というのは天災のようなものだ。人間個人がどうこうできるものではないんだよ。大昔に北の竜が討伐されたが、その時も多数の冒険者と王国兵が集まってようやくという話だ。しかもその時に戦った者達は全員竜に殺されている。伝わっているところでは、どうやら相討ちのようなものだったらしい」
二人はこの話を初めて聞いた。父からも傭兵からも聞いたことはなかった。
二人の生きる目的を今はまだ否定するべきではないというそんな想いから、周りの大人達はこの話を伏せていたのだった。
カヴァルは続ける。
「とはいえ、簡単に仇を諦められない気持ちはわかるよ。だからまずは今出来ることを一生懸命やればいい。そしてどんなに足掻いても、どうしても仇が討てないと諦めた時、私はそれでも君達に強く生きてほしいと、そう思うよ。こんな仕事をしていると、目的を果たせず生きることを諦める瞬間を見ることも多いからね」
そう言ってカヴァルは冒険者組合の扉を見つめていた。
しばらく歩き酒場の前を通ったとき、どちらからともなく中へと入った。
中途半端なこの時間では客の姿は少ない。
椅子に座り、食べ損ねていた昼食をとる。
しかし運ばれてきた料理に、二人はなかなか手を付けられなかった。
「諦める、なんて言わないよね?」
ディーンが呟く。
「そうだな、すぐに竜を倒せるなんて端から思ってはいない。しかし無理だと言われて諦めるつもりもない。今日組合に行って分かったことは、今は何もできないということだ。それなら」
そう言いかけた時、突然二人の名前を呼ぶ声がした。
「やぁ、こんばんは。またお会いできて嬉しいです」
そう言ってこちらへ向かって来るのはニールだった。
「よかった、町を出る前にお二人にはご挨拶をと思っていたんです」
そう言ってニールは酒場の店員から渡された包みを付き添いの少年に渡す。
「もう町を出られるんですか?」
どうやらそれは、旅の途中に食べる為の弁当のようだった。
「ええ、急ぎの荷物を預かりましてね。少し日も傾いてきましたが、急遽出発することになりました」
雇われの辛いところですとニールは笑う。
「なに、急げば夜までに次の村に着きます。そこまでいけば護衛がいますから問題ないですよ」
店の入り口で待つ少年がニールを呼んでいる。
「では、またお会いできる日を楽しみにしています。今度会うときは正式に護衛を依頼できるくらい偉くなってますからね」
そう言ってニールは笑顔で手を差し出してくる。
「では俺達も、護衛を任されるように強くならなければいけませんね」
アッシュが握手に応え、ニールは手を振りながら店から出ていった。
「それなら」
とアッシュは先程の続きを口にする。
「今俺達に出来ることを精一杯やらないといけないな」
そう言って吹っ切れたようにアッシュは食事を始めた。




