第8話
「おや、不服かな?」
二人の顔を見たカヴァルが苦笑しながら聞いてきた。
「いえ、決してそんなことはありません」
ディーンが慌てて訂正する。
「既にゴブリンと戦ったことがあるのなら、自分とゴブリンとの力の差は十分把握しておるだろう。が、過信してはいけないよ。何事も順番に、だ」
そこまで言って、カヴァルがお茶を啜る。
そして、今回の討伐対象にはゴブリンの祈祷士も確認されている、と依頼書の真ん中辺りを指差した。
「まぁ祈祷士と言っても不思議な力を使う訳ではない。他の個体より少し知能が優れていて、その土地で採れるものを使って呪いめいたことをしているというだけだよ」
どうする、とカヴァルが目で訴えてくる。
「やります」
二人に迷いはなかった。
「よし、では詳細に関しては依頼書の内容を読んでおくれ。場所や数、そういったものが書かれておる」
その言葉にディーンは疑問が湧いた。
「こういった情報はどこから来るのですか?」
ディーンの質問に、ふむ、とカヴァルは頷き話始める。
「組合を通した依頼というのは信用が一番だ。だから組合は人を使って事前に依頼内容を調べるのだよ」
さっき出ていった男もその1人なのだとカヴァルは言った。
「彼も元は冒険者だったが、まぁ、いろいろあってね。今は依頼の内容を調査する仕事をしておる」
他になにか聞きたいことは、というカヴァルの言葉にアッシュとディーンが顔を見合わせ頷いた。
「竜に関する情報は、何かありませんか?」
彼らが冒険者組合に所属する目的の一つはこれだった。
「竜について、か。まさか竜殺しに憧れておるというわけでもないだろうが、訳を聞いてもいいかね?」
「村を滅ぼした、赤い竜の事件を知ってますか?」
アッシュの言葉にカヴァルが頷く。
「知っておるよ。突如現れた赤い竜が大陸から村を一つ消し、そのまま何処かへ飛び去った。あの頃はどこに行ってもその話題で持ちきりだった」
「俺とディーンは、その村の生き残りなんです」
少しの間カヴァルは二人を見つめていたが、なるほどと顎に手を当て何かを納得したようだった。
「結論からいうと、竜の情報はある」
しかし、とカヴァル続ける。
「竜に関する情報はどれも曖昧なものばかりだよ。遥か彼方に飛ぶ姿を見ただとか、何もない砂漠の一角が燃えていたのは竜が原因だとかね」
そう言いながら棚から資料を取りだし何かを探し始めた。
「確かこの辺りに、これだ。記録によれば村を焼き尽くした赤い竜は南の方角へ飛んでいったとある。しかしその後再び姿が確認されたという記録はない。南といえば原生林の更に奥だ。人間が簡単に辿り着ける場所ではないからね」
「だとしたらオークが住みかを追われた原因が竜だという可能性は高くなったね」
ディーンがアッシュに問い掛ける。
南の原生林で出会ったオークが何者かから逃げ来たのだとしたら、それは南に飛んで行ったという竜から逃げてきたのかもしれない。
「確かにその可能性はある。しかし悪いことは言わない、諦めなさい」
カヴァルが資料を再び棚に戻しながら二人に向かって言った。




