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第25話「激闘」

ーエイジ550年9月10日ー


遂にキラウェルとレイウェアは再会を果たした。

しかし、感動の再会も束の間…ファルドがキラウェルの前に立ち塞がった。


「どうした…?早く魔法を俺に渡せ!」


しびれを切らしたファルドが、キラウェルを睨みながら言う。


「嫌よ!誰が渡すもんか!!」


キラウェルは、頭を振りながら言った。


「ふん…やはりレイウェアの娘だけある…交渉は決裂か…」


ファルドはそう言うと、キラウェルに襲い掛かってきた。


それは、ルスタよりも断然速かった。

キラウェルは応戦できずに、ファルドに殴り飛ばされる。


「キラウェル!!」


牢の中から、レイウェアの悲痛な声が響く。


「どうした…立て!!」


キラウェルを(あお)るファルド。


無言で立ち上がったキラウェルは…遂に鞘から“白夜”を引き抜いた。

そして…それまで深く被っていたフードを、妨げにならないようとった。

キラウェルの顔が露になる。


「キラウェル…その火傷はどうしたの!?」


牢屋の中に居るレイウェアが、驚きの声をあげた。


「やはり貴様はルスタと戦ったんだな…奴の魔法の威力は、半端なかっただろう」


ファルドもそう言うながら、剣を引き抜く。


「ルスタには…一生治らないこの傷をつけられました。でも、むしろその方が色々助かります」


キラウェルはそう言いながら、ファルドとの間をつめていく。


「行くぞ!!」


ファルドはそう言いながら、再びキラウェルに襲い掛かる。


右手で“白夜”を握ったキラウェルは、ファルドの剣をそのまま受け止めた。

金属が擦れ合う音が、地下牢に響き渡る。


「ほぅ…なかなかやるな。だが…お前の戦い方が、いつまで俺に通用するかな?」


ファルドはそう言うと、別の鞘からもう一つの剣を引き抜いた。

だが…キラウェルの方が一枚上手だった。

ファルドがもう一つの剣を抜くのを待っていたキラウェルは、体勢を素早く変えて、ファルドの背後に立つ。


「なに!?」


驚きを隠せないファルド。


「さっきの仕返しよ!!」


キラウェルはそう言うと、“白夜”の峰でファルドの背中を斬りつけた。


「うぐっ…!」


ファルドはバランスを崩し、床に倒れる。


その隙をつき、キラウェルはその場にいた憲兵を気絶させると、彼から牢屋の鍵を奪った。


「母さん!今出してあげるから!!」


キラウェルはそう言いながら、錠前に鍵を差し込む。

しばらくして錠前が外れ、牢屋の扉が開いた。


この時キラウェルは、レイウェアが鎖で繋がれているのに気付き、“白夜”でそれを斬った。

ファルドが起き上がるまでの…ほんの数秒間の出来事であった。


「ありがとうキラウェル!」


泣きながら、レイウェアはキラウェルにしがみつく。


「母さん…無事で本当によかった…」


キラウェルはそう言うと、再び“白夜”を持ち直した。

何故なら、ファルドが立ち上がったからだ。


「俺としたことが…油断していた…」


ファルドはそう言うと、二つの剣を握り締めてこちらを睨んだ。


「母さん!こっち!」


キラウェルはそう言うと、レイウェアの右手を握りながら走り出した。


「待て!二人を絶対に逃がすな!!」


ファルドは、周りにいた部下たちに指示した。




隠し通路の階段とは別の階段を使い、一階へとやって来たキラウェルとレイウェア。

屋敷中にいた憲兵達は…皆キラウェルが倒してしまっていたため、その場を通り抜ける。


「キラウェル…この憲兵達は、みんな貴女が倒したの?」


娘に手を引かれたレイウェアが、辺りを見渡しながら言った。


「そうだよ」


キラウェルはそう言うと、一度レイウェアの手を離し、“白夜”を持ったまま辺りを見渡す。


「ガクさんからは武術、カンナさんからは剣術を学んだんだ」


「そう…あの二人が、貴女に稽古をつけていたのね」


レイウェアはそう言うと、窓に寄りかかる。


「中庭はどこだろ…?早くこの屋敷から出ないと…」


辺りを見渡しながら、キラウェルは言った。

どうやら、中庭に続く扉を探しているようだ。

レイウェアも辺りを見渡してみる。

そして、気になる扉を見つけた。


「キラウェル!こっち!」


レイウェアはそう言うと、ある扉を指さす。


「??」


キラウェルは、不思議そうな表情で、レイウェアに近づく。


「これじゃないかしら?中庭に続く扉は」


「何で?」


「だって…ほら…」


レイウェアはそう言うと、扉のある部分を指さす。

そこには、“この先中庭”という文字が彫られていた。


「は…ははは…」


ひきつった笑いをするキラウェル。


「とにかく、行ってみましょうよ」


「そうだね」


キラウェルは、レイウェアの言葉に賛同すると、文字が彫られた扉を開けた…。

しかし、中庭で待ち受けていたのは…。


「ファルド!」


思わず後退りするレイウェア。


キラウェルはというと、無言で“白夜”を握り締めている。

どうやら、ファルドを威嚇しているようだ。


「無駄な悪足掻(わるあが)きはよせ!大人しく投降しろ!」


ファルドはそう言いながら、再び二つの剣を鞘から引き抜いた。


「母さん…そこに草の壁があるでしょ?私がいいと言うまで…絶対にそこから動かないで」


キラウェルは、近くにあった草の壁を見つめながら、小声でレイウェアに教えた。


「わかったわ」


そう言うとレイウェアは、素直に草の壁に身を隠した。

ファルドからは死角になっているため、レイウェアの姿は見えない。


「ファルド!勝負だ!」


キラウェルはそう言うと、“白夜”を左に持ち直した。


「私と本気の勝負をして!一対一の勝負よ!」


キラウェルはそう言いながら、臨戦体勢に入る。


「貴様はどうやら…本来の利き手は左のようだな…。よかろう、俺も本気を出して貴様と戦う!!」


ファルドもそう言うと、二つの剣を持ち直して構える。


ジリジリと間を詰める両者だが、どちらも飛び掛かろうとはしない。

しかし…痺れをきらしたファルドが、物凄い速さでキラウェルに飛び掛かってきた。


「!」


キラウェルはかろうじて避けると、“白夜”の峰でファルドの背中を斬りつけた。


「ぐっ…!!」


ファルドの顔が、苦痛で歪む。

しかしファルドは、右手の剣をキラウェルの肩に当てていた。

キラウェルの左肩に、うっすらと血が滲む。

どうやらファルドは峰ではなく、刃の方でキラウェルを斬りつけたようだ。


「いっ…!!」


キラウェルも、痛みに顔が歪む。

左肩を押さえてファルドから離れたキラウェルは、“白夜”を右に持った。

左肩から出血しているが、キラウェルには気にしている余裕などない。


「貴様はさっきから峰で攻撃しているな…それは何故だ?」


ファルドはそう言いながら、キラウェルの脇腹を斬りつけようとする。

それを受け止めたキラウェルが、口を開く。


「ファルド…!貴方には、生きてもらわなければならない理由があるからよ!」


ファルドを睨みながら、キラウェルが言った。


「忌々(いまいま)しい…!」


ファルドはそう言うと、キラウェルの左足を足払いした。


「うわっ…!」


バランスを崩したキラウェルは、地面に倒れる。


「これを見ろ!キラウェルよ!」


ファルドの言葉に、キラウェルは前を見た。

そこには…信じられない光景があった。


「母さん!!!」


「キラウェル!お願い……助けて!!!」


涙を流しながら、キラウェルに助けを求めるレイウェア。

なんとレイウェアは、グラディスに捕まっていた。

しかも喉には、グラディスのクナイが当てられている。


「ファルド…!卑怯だぞ!!」


怒りを露にするキラウェル。


「馬鹿馬鹿しい真似はよせ、キラウェルよ…真剣勝負は、刃で行うべきだ!!」


ファルドはそう言うと、再び二つの剣を持ち直す。


「誰がなんと言おうと…私は峰だけでファルドを倒してみせる!!だからその前に、母さんを離せ!!」


キラウェルはそう言いながら、ファルドに近づこうとする。


「おっと…!それ以上お前が近づいたら、レイウェアが危ないぞ?」


ファルドの声に重なるように、グラディスが握るクナイが、レイウェアの喉に更に近づく。


「ぐっ…!」


キラウェルは、唇を噛み締める。


やはり肝心な時に…私は無力なのか?

またしても、大切な人を失う羽目になるのか?

それだけは嫌だったのに、またしても自分に降りかかる宿命に、キラウェルは心底嫌気がさす。


その時、キラウェルの背中から不死鳥が現れた。

不死鳥は何も言わずに、ずっとファルドを見つめている。


「不死鳥…?」


キラウェルは不思議そうに言うが、不死鳥は無言のままである。


何を思ったのか、不死鳥はゆっくりとファルドに近づいていく。

焦ったキラウェルは、口を開いた。


「待て!不死鳥!私から離れるな!!」


キラウェルのこの言葉で、ファルドは事態を把握した。


「そうか不死鳥よ…この俺を選ぶのか?だったら早く来い!さあ…俺に最強の力を与えてくれ!!」


ファルドはそう言いながら、両手を広げて天を仰ぐ。


「これで俺は最強になる…!復讐してやる!!」


そう言うファルドは、もはや人ではない。


キラウェルは、ファルドが“フェニックスの魔法”を使い、世界に復讐する様を想像する。

まるで…この世の終わりを思わせた。


そんなことさせるか…。

そう思ったキラウェルは、リアから教わっていた言葉を言うため、口を開いた。


「バル…ガーグ、リウアゲイン!!!」


キラウェルは、古代の言葉でそう叫んだ。


「キラウェル…その言葉をどこで…」


意味を知るレイウェアは、驚きを隠せない様子だ。


「おい、レイウェア…意味を教えろ!」


クナイを突きつけたまま、グラディスがレイウェアに尋ねる。


「シャンクス一族に…代々伝わる、不死鳥への言葉よ。古代の言葉で…“バル”は“我”、“ガーグ”は“守護”、“リウアゲイン”は“戻りたまへ”つまり…“我を守護するため戻ってこい”と…言っているの」


「なに!?」


レイウェアの言葉に、より驚くグラディス。


キラウェルの古代の言葉を聞いた不死鳥は、ファルドに近づくのをやめた。

そして…キラウェルの背中に再び戻っていった。


「よし!」


キラウェルはそう言うと、“白夜”を持ち直してファルドに斬りかかった。


「!?」


突然のことに驚いたファルドは、応戦することもできずにキラウェルに斬りつけられた。


「掛かってきなさいよ!!」


キラウェルはそう言いながら、グラディスや他の憲兵達に、次々と斬りかかった。


しばらくの間、中庭には怒号と悲鳴が響き渡った…。




気がつけば、陽は既に傾いていた。

夕陽がブラウン家の中庭を照らし、辺りはオレンジ一色になる。


激しく肩を上下させているキラウェルは、傷をつけながらもファルドと戦っていた。


「うおりゃああああ!!」


「はああああああ!!!」


キラウェルとファルドは互いにそう言いながら、刀と剣を振り回す。

金属が擦れ合う音が続いており、両者一歩も譲らない。


「とどめよ!!」


キラウェルはそう言いながら、“白夜”を振り下ろした。

ファルドの剣が…何と真っ二つに折れてしまった。

彼が剣に気をとられている間に、キラウェルはファルドの溝内を殴り、ファルドを気絶させた。


本当に…本当に激しい戦いが、今終わった。


しかしキラウェルは、リスクの影響でフラフラだった。

息切れが激しいのも…これが原因だ。


「ファルド……貴方は間違っている…。世の中に復讐したって、レイアさんは戻ってこないのよ…」


キラウェルはそう言うと、レイウェアに近づこうと歩きだす。


しかし…次の瞬間だった。


「くたばれ!!!」


グラディスがそう叫びながら、銃を発砲した。


弾丸はキラウェルの腹部を貫通し、服が血で染まる。

キラウェルは、痛みに耐えかねて倒れてしまう。


「キラウェル!!!」


レイウェアが叫ぶ。


腹部を右手で押さえるキラウェルだが、出血は止まらない。


「このまま死ね!キラウェル!」


グラディスはそう言うと、再び銃の引き金を引く。


「やめて!!!」


レイウェアはそう叫ぶと、キラウェルの前に立ち塞がった。


退()け!!レイウェア!!」


「嫌よ!絶対に退かないわ!!」


二人がこうしている間にも、キラウェルの息づかいはどんどん荒くなっていく。


もう…あの方法しかない。

娘を、キラウェルを救う…この運命から解放させるには、これしかない。

そう思ったレイウェアは…ある決意を胸にキラウェルの前に立ち塞がったのだ。

何が起こっても…レイウェアの決意は固かった。


そして…悲劇は起きようとしていた…。

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