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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
8章

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66話 象徴にしか入れない部屋


 甘い匂いがした。花の甘い匂いだ。


 上には青い空が広がっている。そして、地面には一面に白い百合。

 まるで庭に出たかのようだった。リリアンのあとには誰も続かない。自分にしか入れないようだ。まるで、何かの力が働いているように感じられる。そっと辺りを見渡す。誰かが隠れている様子はなかった。


 空間はそこまで広くなく、大広間一つ分のようだった。見たところ庭園のようなものらしく、誰かが育てているようで、手入れされた花が風に揺れている。


 部屋の真ん中には、小さなテーブルと椅子が置かれていた。庭園を楽しむためのもののようにも見える。

 近づいてみると、そこには一枚の手紙が置かれていた。蝋で封がされており、どこかの家の印が押されている。手に取って見てみれば、送り主はメアリー。そして、宛先はリリアンになっていた。できるだけその印を割らないようにして、手紙を開けた。その中には便箋が入っていた。


 手紙は謝罪から始まった。巻き込んでしまって申し訳ない。自分は無事だと。そして、ある人によって、この部屋から救出されたことが書かれていた。


 今、教会は二つに分裂している。特に、メアリーを失った象徴派である平民たちは立場が危ういことを心配していた。彼らを安心させてほしいということが書かれている。

 そして、最後には第二王子について書かれていた。彼は信用できる人がいない。どうか、味方になってほしい。


 メアリーの手紙は他者の心配ばかり書かれており、彼女らしいと感じた。


「……メアリー様」


 彼女の行方については何も書かれていなかった。だが、彼女が身の危険を感じており、何かしらの準備をしていたのは確かだった。


 そっと服の中に手紙を隠してから、一面の白百合を見渡した。


 どうしてか、とても心地良い。まるで自分のいるべき場所に帰ってきたように感じられた。


「……でも、ここは私の居場所ではありません」


 そう呟くと、扉を抜けて自分の部屋に戻った。




「リリアン様」


 部屋に戻れば、ディアドラが仁王立ちで立っていた。吊り上がった瞳を鋭くし、こちらを見ている。


「何もありませんでした。普通の部屋でしたよ」


 いかにも残念そうに言ってみる。ディアドラは疑わしそうな目でこちらを見ていたが、それ以上問いたださなかった。


 その日の夜、ディアドラが退室したあと、リリアンは小さくウィリアムを呼んだ。


「リリアン、元気そうだね」


 ウィリアムが現れると、ふいに肩の力が抜けた。


「……ウィリアムの顔を見て、元気が出ました」


 そう言って笑うと、ウィリアムは顔を赤くして頬を掻いた。


「それで、呼んだ理由は?」

「象徴にしか入れない部屋に入りました。そこでこれを」


 メアリーからの手紙を取り出した。ウィリアムはそれを受け取る。


「ちゃんと手がかりはあったんだね」

「メアリー様の行方については何も書かれていませんでしたけど……」


 少し肩を落として言うと、彼は安心させるように微笑んだ。


「たしかに、まだメアリーの行方はわからないかもしれない。彼女が生きているかも保証はない。でも、探さなければ見つからないから。リリーはそれをちゃんとしているよ」

「それでいいのでしょうか」

「今はそれしかできないんだ。するしかない。……大丈夫。一人でやっているわけじゃないんだ」


 ウィリアムはそう言うと、教会の外のことを教えてくれた。


「エドワード殿下やオズワルド様が情報を集めてくださっている。リリーの父親のクライヴ様も調査しているみたいだ。だけど、やはり情報を集めるのは難しいらしい」

「私が一番情報を得やすい立場なのでしょうか」

「アルバートと直接お話をできるんだから、得やすいだろうね。でも、同時に警戒されているはずだから……」


 昼間のアルバートを思い出す。彼はリリアンを自由にし、好き勝手させてくれている。情報も差し出している以上、警戒だけをしているのではないのだろう。


 リリアンを何かに利用しようとしているのか、情報を得ようとしているのか、それとも本当にリリアンに心酔しているのか……。それに彼は、自分を操ろうとしていた存在を探していた。


「レジーナ様」


 リリアンが呼びかけると、レジーナは素直に姿を現した。


「何かしら?」


 レジーナの姿を見たウィリアムは少し警戒した様子を見せる。レジーナはそれすらも楽しそうに見てから、こちらに向き合った。


「レジーナ様は教会についてお詳しいですよね。アルバート様がおっしゃっていた裏で操ろうとしている人物に心当たりはありますか?」

「ええ、知っているわ」


 その問いに、彼女はすぐにうなずいた。


「本当ですか?」

「本当よ。その人物はあなたのすぐそばにいる」


 彼女はそれだけ言うと、ウィリアムの方に向き合った。


「メアリーからの手紙に封として使われていた蝋について調べさせなさい。その手紙はメアリーが残した手がかりよ」


 ウィリアムは少し眉を寄せてレジーナを見る。


「その根拠は?」

「あの子が何も証拠を残さないと思わないから、かしら?」


 ウィリアムは仕方なさそうに息を吐く。


「……わかった。オズワルド様に伝えよう。でも、調べるかどうかを判断するのはオズワルド様たちだ。それに、俺はお前を信用していない」


 ウィリアムに睨まれても、レジーナは気にした様子を見せない。


「それが賢い選択よ。別に信用してもらおうだなんて考えていないわ。お互いに利用し合えばいいの」


 レジーナはふわりと浮かび上がって姿を消す。ウィリアムはそれを見て舌打ちをした。


「あいつは指示をするが、表には姿を見せない。きっと見せられないからだ」


 彼はそう言って、こちらを見た。


「あいつをあまり信用しすぎるな」


 そう言われ小さく笑う。


「……そうかもしれませんね」


 そう言いながらも、彼の言葉にうなずくことはできなかった。



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