表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/95

67話 メアリーのそばにいる人


 昨日の儀式のとき、平民の御使いの一部が捕らえられていることを知った。処分するのを待て、という指示を出しているが、その指示に従ってくれる保証はない。


「捕えられている御使いと会わせていただけますか?」


 リリアンの依頼に、ディアドラは首を横に振った。


「なりません」

「なぜでしょう」

「一度、あなたを襲わせた者たちです。そんな狂暴なやつらにあなたを会わせるわけにはいきません」

「距離を置けば大丈夫でしょう。お話しするだけですよ」

「なりません」


 ディアドラは譲ろうとしない。捕まっていない平民の御使いに会うこともままならないだろう。


「では、テオドール殿下にお会いするにはどうすればよいですか?」

「なぜ、そこまでテオドール殿下に会いたがるのでしょう?」


 ディアドラに怪しまれ、レジーナなら何というだろうかと考えながら答える。


「……この教会を背負われる方とぜひともお近づきになりたいと思いましたので」


 彼女は疑わしそうに目を細めてこちらを見る。そして仕方がなさそうに息を吐いた。


「テオドール殿下でしたら、この時間は庭園にいらっしゃるかもしれませんね」

「庭園ですか?」

「……殿下はよく、庭園でメアリー様とお茶をしていらっしゃいましたから」

「そこに行ってみたいのですが……」


 そう言って彼女を見上げると、仕方がなさそうに息を吐いた。


「かしこまりました」


 ディアドラが素直に了承してくれるとは思わなかった。アルバートにそう指示されているのだろうか。だとしたら、最初に断ることもないはずだ。


 彼女は庭園まで案内してくれる。その背中を見ながら考える。……彼女には何か目的があるのだろうか。


 教会の奥にある庭園は多くの花が咲いていた。メアリーが前に教会にはたくさんの花があると言っていたが、きっとここのことを言っているのだろう。いままで立ち入ったことはなかったが、誰かが世話をしているのだろう。冬が近いというのに、鮮やかな花が咲き誇っている。その庭園はどことなく、象徴にしか入れない部屋に似ているような気がした。

 その真ん中にテーブルと椅子が置かれている。テオドールはそこに座っていた。


「テオドール殿下。ごきげんよう」


 声をかけると、テオドールは立ち上がってこちらを睨んだ。


「なぜお前がここにいる」

「テオドール殿下がこちらにいらっしゃると聞いたので」

「何の用だ」


 周りに御使いがいる以上、下手なことは言えない。どう言ったら、彼に敵ではないと示すことができるだろうか。笑みを浮かべ、考えながら口を開く。


「テオドール殿下とお話がしてみたかったのです。ご一緒してもよろしいでしょうか」

「断る」


 取り付く島もないほどに、即答されてしまい、苦笑してしまう。


「メアリー様のお話を聞きたかったのですが……」


 その言葉に、テオドールは顔を険しくする。


「なぜメアリーのことを聞きたがる」


 彼は以前、メアリーがリリアンのことを特別に思っていると言っていた。きっと、彼なりに心を開いてくれていたのだろう。だが、彼の瞳は初めて会ったとき以上に警戒の色が現れている。


「……メアリー様に話を聞いていただいたことはたくさんありますが、彼女のお話を聞くことは少なかったので」

「…………っ」


 テオドールは何か言いたそうに口を開いたが、眉をしかめて口を閉じた。彼はこちらを観察するように目を向ける。そして、彼の目はリリアンの手元に止まった。


「この腕飾り……!」


 リリアンの腕を掴むと、自分のもとへ引き寄せる。


「なぜこれをお前が持っている……!? これは、私がメイにあげたものだ!」


 メイと愛称で呼んでいることから、テオドールとメアリーはよほど仲が深かったことがわかる。そして、そんな彼からもらったものを自分に託したのは、きっと彼女が彼のことを強く心配していたのだろうとわかった。


 リリアンは周りにいる御使いたちを見て、ゆっくりと息を吐く。毅然とした態度のまま、テオドールを見た。


「そうなのですね。ですが、これは私がある方からいただいたものです」

「これはメイのものだ。間違いない」

「では、なぜそれが私の手元にあるのでしょうね。……その理由を考えてください」


 テオドールは強くこちらを睨む。リリアンの腕を放すと、小さく舌打ちをする。


「……私はお前を絶対に引きずり落とす」


 彼はそう言葉を吐くと、その場から去った。


 テオドールの背中を見送ってから、周りの御使いたちに見られないように顔を下げた。

 気を張っていないと顔がすぐに強張ってしまう。テオドールは先ほどの言葉をどのように受け取るだろうか。

 彼の警戒を解きたいが、完全にリリアンを敵と認定している。言葉を尽くして説明したいが、周りには数人の御使いたちが控えている。毅然とした態度を取るしかなかった。


「……向いていませんね、こういうの」


 手のひらで頬の筋肉を緩めると、リリアンは顔を上げて歩き出した。





 夜になって、御使いたちが部屋から下がると、ウィリアムが顔を出した。


「オズワルド様からの手紙だよ」


 彼はそう言って、一通の手紙を差し出した。手紙を受け取ると、ふわりと甘い香りがした。どうやら香水まで振りかけてくれたようだ。その香りがやさしくて、少しだけ心が安らぐ。リリアンはそっと封を切った。


 彼からの手紙はこう書いてあった。


 昨日、象徴にしか入れない部屋で見つけた手紙に使われていた便箋と蜜蝋は、学園の教師であったマルヴィナの家のものだということがわかったという。メアリーが意図的に使ったのか、マルヴィナがわざとそういった手がかりを残したのかはわからない。だが、マルヴィナのもとに訪れろ、ということなのだと判断し、学園に行った。すると、学園の職員名簿から、マルヴィナの名前が消えていたという。

 学園の生徒に尋ねても、マルヴィナという教師を知る者はいなかった。彼女の席には別の教師が座っていた。


 マルヴィナは伯爵夫人だ。彼女の家に向かうと、その家の伯爵夫人は何年も前に亡くなっていた。

 伯爵家にマルヴィナ宛の手紙が届いていた。送り主が不明で、主人である伯爵が読んでも、その内容はよくわからなかったという。


『神に愛された花は教会ではずっと咲いていくことはできない。なぜなら、水が合わないからだ。薔薇も枯れてしまった。神に魅入られた村で枯れた花は、再びその地で蕾を開こうとしている。神に愛されずとも、枯れることなく花を咲かせるだろう。』


 リリアンは手紙を読み終わって、ウィリアムの方を見た。


「リアムはマルヴィナ先生のことを覚えていますよね?」


 その問いにウィリアムはしっかりとうなずく。


「俺ははっきりと覚えている。けど、学園の人たちに聞いてみても、みんな知らないって言っていた。……突然、消えたんだ」


 ウィリアムが確認しても、やはりマルヴィナのことを覚えている人はいなかった。ということは、彼女は本当に姿を消してしまったのだろう。


「オズワルド様は引き続き、マルヴィナについて調べてみると言っていたよ」


 ウィリアムの言葉にうなずく。


「ありがとうございます。私も何か進展がありましたら、お伝えしますね」


 そう言ったあと、リリアンは何かを思い出したように顔を上げた。


「リアム。オズワルド様にメアリー様からのお手紙を返してもらえるようお伝えできますか?」

「手紙を? どうして?」

「このあと必要になるかもしれないですから」


 ウィリアムは不思議そうにしながらも、うなずいた。


「わかった。オズワルド様に伝えておくよ」


 彼はそう言って姿を消した。それを見届けると、リリアンは崩れ落ちるように椅子に座った。力を抜くように息を吐き、背もたれに背中を預ける。


「マルヴィナ先生は何者なのでしょうか……」


 リリアンがそう呟くと、どこからかレジーナが現れた。


「悪魔よ」

「どういう意味ですか」

「悪魔は人の心に働きかけることができるの。一種の催眠のようなものね。働きかけた人間が騙されやすかったり、心が弱かったりすればするほど、悪魔の魔術は働く。マルヴィナは学園の人間に働きかけ、自身の記憶を消したんだと思うわ」


 彼女はリリアンから手紙を取り上げると目を通す。


「……道理で臭いと思ったのよ、あの女。やっぱり、人間じゃなかったのね」

「どうして、そんな方がメアリー様と一緒にいらっしゃるのでしょうか」

「知らないわよ、そんなこと。その悪魔のしようとしていること次第では、前の象徴もどうなっているかわからないわ」


 レジーナは不機嫌そうに鼻の上に皺を寄せて舌打ちをする。


「悪魔なんて、話の通じない頭のおかしいやつらばかりなのよ。気まぐれで行動しているかも、何か考えがあって行動しているかもわからないわ」

「レジーナ様も同じ悪魔ですよね。そんなにも違うのですか?」


 レジーナは鼻を鳴らすと、ベッドにドカッと座った。


「一口に悪魔と言っても、いろいろといるのよ。私みたいに人の世界に紛れずにいる者や、オズワルドのように人間に成りすまして過ごしている者。悪魔同士で主従関係を築いている者や、全員悪魔の家を作って過ごしている者もいたかしら? 何年も同じ姿で人間世界に留まっているオーガストは例外ね。アレは頭がおかしいわ」

「悪魔はそんなにもいるのですか?」


 その言葉に彼女は首を振る。


「悪魔は百年に一人生まれるの。けど、悪魔になったことに発狂して自ら死んでしまう者もいるし、人の魂を喰らえずに魂が消える者もいる。ほかの悪魔に消されることもあるしね。だから、数は多くない。私が知っているだけでも十いるかどうか。でも、それぞれ考え方が違う。まとまりようがないのよ。それは人間も同じでしょう?」


 数が少ないのなら、お互いに助け合っているのだと思った。だが、元は人間。考えの違いで生き方が違ってくるのは当然なのだろう。


 レジーナは考えるような素振りを見せると、こちらに向き合った。


「約束のふたつめ、聞いてくれるかしら」

「何でしょうか?」

「今日から毎晩、私とお話をしましょう。得た情報、あなたが思ったこと、すべて私に話しなさい。いいわね?」

「それくらいなら、構いませんよ」


 素直にうなずくのを見て、レジーナは満足をした表情を見せる。そしてもう一度手紙に目を戻した。


「それにしても、神に魅入られた村なんて聞いたことないわ」


 その言葉を聞いて、ふと思い出す。以前にメアリーから聞いた話だ。


「昔、村人が皆、神のもとに行った村があると、メアリー様から聞いたことがあります。今は街の一部だそうですが、そこは以前、神に愛された村と呼ばれて、今でも小さな礼拝堂があるとか……」


 レジーナはリリアンの話に眉をひそめる。


「知らない話ね。いつの話かしら……。まあいいわ。礼拝堂ね。あの悪魔に返事を書くのでしょう? 調べさせなさい」


 オズワルドすら使おうとするレジーナの姿に、小さく笑いながら了承する。


「それと……、あなたはもう寝なさい。顔色が悪いわ」


 自分の顔に手を当てる。疲れている自覚がなかった。


「緊張感をずっと持っていると、疲れなんて感じないものよ」

「……そうですね、ありがとうございます」


 お礼を言うと、彼女は唇を尖らせた。


「別にあなたの心配をしたわけじゃないわ。いい? ちゃんと休むのよ」


 レジーナは不満そうな表情のまま姿を消す。

 彼女に言われたとおり、リリアンは早く寝ることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ