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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
3章 偽りの象徴

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27話 舞踏会


「リリー。とても似合っているわ」


 ナタリアにそう言われ、リリアンは顔を上げた。


 鏡に映る自分は、まるで貴族のお嬢様のように豪華な衣装を着ていた。水のような、薄い緑かかった青色の生地で作られたドレスは、首から胸元部分が大きく開かれ、袖は肩先から袖口にかけてゆったりと広がっている。花のように膨らんだスカートはふくらはぎまで伸びている。胸元にはナタリアから贈られた首飾りが着いていた。


 舞踏会の日、リリアンは初めて衣装を用意した。学園に入ってから一度も舞踏会に行ったことがない。興味がないのもあったが、何より試験に落ちてしまえば補講になってしまうので、参加すること自体が叶わなかった。


「あなたが舞踏会へ行こうと思ってくれて、とても嬉しいわ」


 養母が嬉しそうに準備してくれたことを考えると、もっと早く舞踏会に参加するようにすればよかったと考えてしまう。


 ナタリアは仮面を渡しながら、何かを思い出して小さく笑う。


「私も、学生のときに好きな人に花をプレゼントしたことがあるのよ」

「そうなのですか?」


 彼女は少女のような笑みを浮かべて人差し指を口元に添える。


「ふふっ。私とあなたとの秘密よ。……クライヴにあげたの」


 クライヴ……リリアンの養父だ。リリアンが彼と顔を合わせたのは指で数えるほどだった。彼は仕事が忙しく、早朝に出て行って、夜遅くに戻ってくる。何より……彼はリリアンと会いたがらなかった。


「私はね、ずっとクライヴに恋をしていたのよ」

「え、恋愛結婚だったのですか?」

「私にとってはね。でも、あの人にとっては……どうなんでしょう。あまり多くは話さない人だから」


 ナタリアの家は男爵家だ。商家にも繋がりのある家で、男爵家にしてはお金を多く所有していた。それを必要としたクライヴの家が支援を得るために繋がりを求めたと聞いたことがあった。


「たぶん、あの人は覚えていないでしょうけど……。私の大切な思い出よ」


 リリアンはクライヴと話をしたことがない。ナタリアやアレクシスから聞いた人となりしか知らなかった。

 仕事に真面目で忙しく、家にいることがほとんどない。アレクシスは卒業してから彼と関わることが増えたと言っていた。それまで、多く会話をしたことがなかったとも。


 ……そして彼は、ナタリアがリリアンを連れてきたとき、まるで猫でも拾ってきたかのような態度だったという。気にした様子もなくただ「勝手にしなさい」と言っていた。そのため、リリアンは追い返されることもなく、こうしてこの家に住んでいる。きっと他者にあまり興味のない人だと思っていた。


 ナタリアはこちらを見ると、楽しそうに微笑んだ。


「あなたは誰に花を贈るのかしら。……その顔は決まっているのね?」


 リリアンは小さく笑うと、ナタリアの真似をして人差し指を口元に当てる。


「内緒です」


 その言葉に、ナタリアは「まあ!」と言って笑った。





 リリアンは使用人を引きつれて舞踏会に臨んだ。

 広い舞踏会場は天井が高く、煌びやかなシャンデリアが明かりを灯している。教会の礼拝堂よりずっと広く、端にいる人たちが小さく見える。足元には赤い絨毯が敷き詰められており、その上を踵の高い靴で歩いた。


 会場は仮面をかぶった学生で溢れており、あまり同級生とも接することがないリリアンには、もう誰が誰だかわからなかった。

 仮面をかぶっている間は、互いの名前を明かしてはいけない。そのため、ウィリアムたちとも待ち合わせすることはしなかった。


 目の前では踊っている者や花を贈る者たちがいる。その景色をどこか他人事のように感じた。ぼんやりと眺めていると、一人の男子生徒が目の前に現れた。


「一緒に踊ってくれませんか」


 彼はこちらに手を差し出す。髪色と声色から、ウィリアムだとわかった。首元が詰まった服に胸元に刺繍の入ったジャケットを着ている。


「私、踊りは上手くないですよ」


 そう答えると、ウィリアムは小さく笑う。


「そしたら、また教えてやるよ」


 いつものやりとりに頬が緩み、そっと彼の手を取った。

 ウィリアムに手を引かれて会場の真ん中へ歩いていく。普段なら参加すらしなかった舞踏会で、会場の真ん中で誰かと踊る。それが不思議で仕方がなかった。


 音楽に合わせて足を動かす。足元を見ながら、真面目な顔で拍子を数えていると、ウィリアムは笑う。


「こうやって踊れる日が来るとは思わなかったよ」


 足元から目をあげると、彼の金色の瞳が眩しそうにこちらを見ている。

 ウィリアムが小さな声で呟く。


「いつも、遠くで見ているだけだったからさ」

「いつも見ているだけだったんですか?」


 ウィリアムも舞踏会で踊ることがなかったのだろうか? リリアンが首をかしげると、彼は口元を緩める。


「見ているだけで、声をかけられなかった」


 誰を誘いたかったのだろうか。自分に手伝えることはないだろうか。周りでは自分たちと同じように綺麗な恰好をした生徒たちが踊っている。この中で、互いに思い合っている人たちはいるのだろうか。


 その感情は、まだ自分にはよくわからない。


 そっとウィリアムの方に視線を向ける。彼は視線に気づくと、頬を緩めた。


「どうした?」

「い、いえ……」


 落ち着かない気持ちになる。どうしたのだろう。そんなことを考えていると、曲が終わった。


 離れようとすると、ウィリアムに手を引かれた。彼はリリアンの耳元に口を近づけると、囁くように言った。


「その恰好、とても似合ってる。……可愛いよ」


 顔を上げると、彼は頬を染めて笑った。


 ウィリアムにエスコートされて、会場の端に行くと彼はこちらを向いた。


「このあと、その……バルコニーに」


 彼は耳を真っ赤にしながら、首を摩っている。続きの言葉を待っていると、彼の背中を誰かが押した。


「はい、順番~」


 そう言って顔を出したのはルシルだった。なぜか男装をしており、長い髪を後ろでまとめている。黒いジャケットから長い脚が伸びている。その姿は様になっていた。


「お前、何て格好……」


 ウィリアムの言葉を無視して、彼女は一輪の花を差し出した。


「お嬢さん、私の花を受け取ってくれますか?」


 その手にある花を見て、顔を綻ばせる。


「もちろん。とても嬉しいです。私も、これ」


 リリアンは花を受け取ると、自分も用意していた花を送り返す。使用人に花を預けると、ルシルが手を差し出した。


「次は私と踊りましょう」


 ルシルにリードされながら踊る。不思議とルシルは男性の方の踊りができていた。彼女は厚底の靴を履いているのか、リリアンよりずっと背が高く見える。遠くから見たら、男性にしか見えないだろう。


 リリアンは彼女の横顔を見る。すーっと鼻が通っており、顔が整っている彼女は同性から見てもかっこいい。


「どうして男装をしているのですか?」


 尋ねれば、ルシルはウインクをして答えた。


「だって、あなたと踊れないじゃない? せっかくの仮面舞踏会だもの。私は踊りたい人と踊りたいの」


 彼女らしい言葉にリリアンはくすりと笑った。


「私もあなたと踊りたかったので嬉しいです」


 ウィリアムとは違い、ルシルは踊りに慣れていないようで時折、脚をもつれさせた。だが、リリアンも音を外してしまい、そのたびに二人で顔を見合わせて笑った。

 友達とふざけて遊んでいるように、笑いながら音に合わせて踊る。


 音楽が終わると、ルシルはリリアンをエスコートして端へと歩いた。彼女はリリアンの手を取ると、そっと唇を寄せる。


「あなたと踊れて……とても嬉しかった」





 ルシルと別れて、一人で庭に出る。外はたくさんの人がいる屋内より、空気が冷たく感じられた。リリアンはホッと息を吐きながら、空を見上げた。


「わあ……」


 空には一面に星が散らばっており、とても美しい。あまり夜に出歩くことがないため、とても新鮮に感じられた。


 知らない間に気を張っていたのだろうか、肩の力が抜けていくのを感じた。


 視線を戻すと、庭のベンチに誰かが座っているのを見つけた。キッチリとした恰好をした男子生徒がは自分と同じように星空を見上げている。


 彼の邪魔をしないように避けて歩こうとしたが、その生徒と目が合った。彼はこちらを見ると、立ち上がって歩み寄ってきた。


 暗い緑色の髪をした人だった。背はリリアンより少し高いくらいだった。


「一人でいるのは珍しいね」


 その口ぶりからすると、リリアンの知り合いなのだろう。だが、辺りは薄暗く、仮面もかぶっているため顔が良く見えない。声だけでは、誰かが判別することができなかった。


「えっと……そうですか?」


 反応に困っていると、男子生徒は会場に目を向けた。会場の音楽がかすかに漏れてきている。

 彼はこちらに目を向けると、手を差し出した。


「よかったら、僕と踊ってくれるかい?」



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