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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
3章 偽りの象徴

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24話 教会の管理者


 試験の日の前日、リリアンは教会へ顔を出した。


 ウィリアムとルシルとの勉強がはじまってから、教会に行く日がすっかり減ってしまった。


「リリアン様!」


 メアリーはリリアンの姿を見つけると、顔を輝かせた。その後ろにテオの姿はない。


「お久しぶりですね。お忙しかったのでしょうか」

「試験勉強をしていたので、あまり顔が出せなかったのです」


 その言葉を聞いて、メアリーは「まあ!」と驚いた声を出した。


「リリアン様と顔を合わせるようになってから、試験勉強なんて言葉を初めて聞きました」

「私も試験勉強なんて初めてしました」


 二人は顔を見合わせて「ふふふっ」と笑う。


「最近のリリアン様はとても楽しそうで、私も嬉しいです。学生は今のうちですから。きっと特別な思い出になるでしょうね」


 その言葉を聞いて、リリアンはハッとした。


 メアリーは教会で一日を過ごしている。ほかの貴族の子のように学園で通うことができないのだ。だが、そのことを気にした素振りを見せず、メアリーはリリアンの話を楽しそうに聞いてくれている。


「……メアリー様、その」

「メアリー様」


 二人で話していると、年配の女性が割り込んできた。今は午後だから、貴族の女性だろう。彼女は顔を伏せたままメアリーに話しかける。


「どうか、私のお話を聞いてはくれませんか」

「どうされましたか?」


 メアリーが尋ねると、女性は顔を上げた。ギョロリとした目がメアリーを捉える。


「あなたのお言葉はとても影響力があります。そのことはご存じでしょう? それなのに、なぜ、このようなことをしているのか」

「何のことでしょうか」


 メアリーは真剣な表情で尋ねる。女性からは物々しさを感じる。


「……あなたが、テオドール殿下を不自由にしている」


 女性はどこからかナイフを取り出した。そのままメアリーに向かって刺そうとする。

 メアリーは目を大きく開き、そのまま固まってしまった。


「メアリー様!」


 リリアンは思わず女性の腕を掴んだ。そして捻り上げて、ナイフを落とす。


「痛っ」


 リリアンは落としたナイフを足で踏みつけてから、ゆっくりと女性から手を放した。


「あなたはどうして、メアリー様を刺そうとしたのでしょうか?」


 解放された女性はメアリーをキッと睨む。


「存じではないのですね。この女は本物の神に愛された人ではないからですよ!」

「……もう噂が広まっているのですね」


 メアリーの耳にも入っていたようだ。だが、彼女はうつむかないで前を見ていた。

 それを見て、リリアンは女性の方へ目を向ける。


「どうしてそのような噂を信じたのでしょうか?」


 リリアンの言葉に、女性は噛みつくように声を上げた。


「それが真実だからですよ! 本来ならば、神の膝下である教会があらゆることを取り仕切るべきなのです! テオドール殿下のお力があれば、それも可能になる! それにも関わらず、彼女はその権利を使おうとしない! 神への冒涜に値します!」


 テオドールという名前には聞き覚えがあった。第二王子のことだ。


 この国には二人の王子がいる。伯爵家出身の第二夫人の子である第一王子、公爵家出身の王妃の子である第二王子。

 第一王子は王位継承権を持っており、幼いころから後継者教育を受けている。対して第二王子は幼いころから体が弱く、表舞台に現れることがほとんどなかった。そのためか、第一王子は立太子が近いと噂されていた。


 どうして彼の話が出てくる理由がわからなかった。だが、すぐに気づいた。テオドールの愛称は『テオ』だ。そして、今日はテオの姿が見当たらない。


 リリアンはゆっくり深呼吸をすると、女性と向き合った。


「あなたは聖典を読んだことがおありなのですか?」

「当たり前でしょう?」


 女性は顔を上げて胸を張る。その目はリリアンを見下していた。


「でしたら、神はあくまで道を示すことしかしないということをご存じですよね。教会も同じ立場のはずです。あらゆることを取り仕切るのは聖典に記されていることに反しております」

「あなた、何を言って……」

「それに、あなたがそれほどまでに信じている教会が偽物の象徴を招き入れるでしょうか?」


 その言葉に女性は黙る。リリアンは彼女に視線を合わせて微笑んだ。


「悪い噂で不安に思う気持ちはわかります。ですが、あなたの信じるものの進む道を信じてみてはいかがでしょうか?」


 リリアンは女性の手を包み込む。


「大丈夫。あなたの信頼している教会ですから。きっと良い方向に進むでしょう」


 メアリーが女性のほうに進み出る。


「信じてくださるあなたたちの気持ちに応えられるよう、頑張ります。ですから、今回は一旦家に帰って、落ち着いてから……」

「――できませんよ。その方は象徴に危害を加えようとしました。大罪です」


 目を向けると、長い髪を束ねた男性が立っていた。恰好からして御使いのようだ。彼はゆったりとこちらに歩み寄る。


 リリアンは女性を背に隠すようにして立つ。そんなリリアンに対して、男性はゆったりとお辞儀をした。


「この教会を管理しているアルバートと申します。この度は、象徴をお守りしていただきありがとうございます」


 アルバートは興味深そうにこちらを見ていることがわかった。何かを楽しんでいる視線だ。


「……私は大したことをしておりませんよ」

「いえいえ。あなたは神に愛された人を守った。それはとても偉大なことですよ」


 そう言って、彼は手を差し出した。


「では、その者をお渡しいただけますか?」


 後ろにいる女性の肩がビクリと跳ねる。怯えたようにリリアンの背中から出て来ない。

 リリアンはそれを見てからアルバートに目を向けた。


「偉大な私から、お願い事をしてもよろしいでしょうか?」

「何でしょう?」

「この方の罪をなかったことにしてください」



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