【たぶん運命の出会いで章】ーその3ー
上下を白と黒で分けた格好の彼女はカンカンであった。
「陵辱の現場を押さえられたから、あたしを知らないでごまかそうなんて、ずいぶんじゃない」
さすがの円眞も穏やかでいられない。
「ちょちょちょちょっと、なにを言い出すのですか。ぼ、僕はそんなこと、しません」
「なにぬけぬけ言っているのよ。女を襲っているじゃない」
「僕がそんなこと、するわけないです。まだカノジョだっていたことないです」
「だから欲求不満が爆発したって、言うわけね」
「してません」
「じゃ、なんで押し倒した女が下着なのよ」
ん? と円眞は視線を降ろす。碧い瞳の少女は胸元から膝まで白一色の服装だ。ずっとキャミソールだと思い込んでいたが、透けそうな薄さである。何より胸の辺りが強調というより下着そのものだ。
ぎゃぁあああー、と円眞は叫んだ。おろおろしていれば、まだ相手の彼女に考える余裕を与えたかもしれない。慌てふためくまま言い訳めいたことを口走ったから、いけない。
「ちちち違います、これは。確かに僕はこの娘の素敵な瞳に見惚れていました。本当に綺麗な碧い目です。けれど襲ったりはしていません」
とてもとても余計な内容をしゃべっていた。口にしてから円眞は己の失敗に気づく。何をまずったかは、よくわかっていない。なにやら触れてはいけないことを言ってしまったと相手の態度から察した。
すぅっと彼女の血の気が引いていく。そういうことぉおおおー、とどす黒い怒りを発してくる。
あわわ、と円眞は汗を噴き立たせていた。
碧い瞳の少女からすれば、好機だった。すっかり標的は新たにやってきた女に気を取られている。
能力で発現した白き女性を、そろりと近づける。両手の戦斧は振り上げたままだ。相手の円眞は全く勘付いていない。
振り降ろせば仕留められる位置まで迫った。
いいところまではいった。
「他の女がいいだなんて、エンマのバカぁあああー」
白黒上下の服装とした彼女が絶叫した。
直後に銃弾の激しい音が連なってくる。
うぐっと碧き瞳の少女はうめいた。激痛に体が痺れていく。
原因は自分の分身とすべき白き女の幽体が撃ち抜かれたせいだ。目で追っていたからわかる。今にも戦斧を振り下ろすタイミングで、銃弾を浴びた。まさに蜂の巣のごとく撃ち抜かれた。
能力体と痛みが連動するから、たまらない。派手な銃撃を全身で喰らえば、意識を保つで精一杯だ。当分、体を動かせそうもない。もし攻撃がきても、避けられない。未だ続く銃撃の一発でも当たれば、命を持っていかれるだろう。
もはや運に天を任せた身だ。攻勢の激しさから、生命の灯火は消されると覚悟した。
えっ? と少女の碧い瞳が見開かれた。
体に重みがかかる状況は理解できる。円眞が敵の銃弾から逃れるため、身を伏せた。またがって立っていたから、体が重なって当然だ。けれど聞こえてきたセリフが信じられない。
「僕が守ります」
言葉だけでなく、頭まで抱えてきた。それは、もう必死に。
間違いなく円眞という男はかばってくれている。
「なぜだ、なぜワタシを……クロガネエンマを殺しにきたのだぞ」
「えっ。そっか、そうですね。なんででしょうか?」
助けるほうがわからないとくる。これでは話しにならない。
「ともかく今は身の安全が先決です」
「でもワタシは……」
銃弾が鳴り響くなか、円眞は碧き瞳の少女の返事など聞かず抱きかかえた。戸口の影へ飛び込んだ。古びた木製みたいな壁だが弾丸を跳ね返している。見た目通りなら射撃に粉砕されているだろう。
意表を突かれまくりの碧い瞳の少女は思わず質問していた。
「なぁ、この店。おんぼろなのに、どうして壊れないんだ」
返事がない。
ダダダッと機関銃が喧しい。店内には陶器も多いから、派手な破砕が行われている。
うるさ過ぎて聞こえないのか、と碧い瞳の少女は顔を向けた。胸のなかから円眞の見上げる形だ。
ぽつん、と白い頬を濡らす。碧い瞳の少女の顔へ落ちてきた。
「ああ、終わりです。僕の店は、クロガネ堂は終わってしまいました。これなら僕を終わりにしてくれたほうが良かったです」
円眞が悲しみに歪む目もとから、ぽたぽた落とし始める。やがて涙の粒は川のごとく流れだした。
なんだなんだ、と碧き瞳の少女はつい熱くなった。めそめそされたら叱咤せずにいられない。
「なに勝手に終わりとしている。店ならまた一からやり直せばいいだろ」
「ムリです、お店のもの、ほとんど壊れてしまいました。これでは一でなく、マイナスからです。とてもやり直せるなんて思えません」
「なにを言うんだ。生きていればチャンスはあるはずだ。それにこの店をそう簡単に諦めれきれるのか。どうなんだ」
碧い瞳の少女が力強く問いかける。とても殺意をもって襲撃した者とは思えない。
そして標的にされていたほうもすっかり忘れていた。
「……そうか、そうでした。僕は父さんに誓ってます。ここ逢魔街でちゃんと生きていく。父さんの夢だったお店をやりますって」
「なら、決まりだな。あの凶暴女をやっつけるぞ」
はい、と円眞がとても素直な返事をした。
よし、と碧き瞳の少女が、そうこなくては、としている。
二人の共闘が叶ったタイミングだった。
なぜか銃撃音が止んだ。




