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第2章:最凶らしい?ー007ー

 窓ガラスが派手な音を立てて砕け散っていく。


 襲撃者だった。


 ただ侵入者は少々毛色が変わっていた。

 高校生くらいの女の子か。ボンネットを被り、ストラッブ・シューズを履き、レースやフリルなどの装飾がなされた黒づくめは、服装というより衣装だ。しかも髪型は姫カットときている。いわゆるゴスロリといった格好だ。

 けれど手にしているのは、日傘やバッグではない。

 銃身が一メートル近くあり、口径の大きさも拳銃の比ではない。給弾ベルトも垂れ下がっていれば、紛れもなく機関銃の類いだ。本来なら一人で持つには困難な重火器であった。少女の体格に匹敵しそうな質量だが、軽々と片手で抱え上げている。


「クロガネ〜、覚悟しなさ〜い」


 ある意味ゴスロリ衣装に似合う、闇から這い出たようなおどろおどろしい声を向けてくる。

 対して円眞(えんま)は、少々気圧されながらも訴える。


「ま、まゆりさん。家を襲撃するなんて、ルール違反だよ。お互い生活の場は荒らさないって約束したじゃないか」

「うっさい、アンタが嘘つくからでしょ!」


 何を言っているか解らない円眞は訊くしかないが、それより前に声がした。


「円眞、知り合いか」


 ちょっぴり卵かけご飯を入れた茶碗と箸を手にした雪南(せつな)である。あれだけの騒ぎで、よく無事に食事を済ませたものだ。


「う、うん。和須黛莉(あすも まゆり)さんと言って……ダメだよ、雪南、ご飯粒を付けて」

 円眞は雪南の口元に付いている米粒を取ってあげた。目前の危機は放っておいてである。


「クロガネ〜」

 先ほどとは比べものにならない地獄の底から湧き立つような響きだ。


 異様な殺気を感じつつ円眞は、恐る恐る振り返った。


 まさしく怒髪天を衝くオーラが一目で知れるゴスロリの少女がいた。黛莉と呼ばれた襲撃者は、円眞へ銃口を向けていた。


「クロガネっ、ここであんたの息の根、止めてやる」

「ちょ、ちょっと、部屋で撃つのはなしだよ。大家さんに迷惑かかることはやめようよ。ね、黛莉さん」


 円眞の説得は火に油を注ぐだけだった。


「うっさい!」

 もはや聞く耳は持たない黛莉だ。重火器のトリガーへ指を当てていた。

 黛莉が逢魔街で名を轟かせるほどの達人でなければ、首と胴体は離れていたかもしれない。ふと囁く本能が、撃つ直前で銃身を提げさせた。


 首元へ盾代わりにした機関銃へ喰い込できたものは、白き戦斧(おの)だった。


「円眞はワタシが殺す。他のヤツに殺させなどしない」


 飛ばした代理人体の後ろで、茶碗と箸を離さない雪南が殺戮者の目で見据えている。

 受け止めた黛莉に怯む様子は見受けられない。むしろ逆だ。ふっと微笑めば逆上の影はみるみる潜んでいく。冷静な顔つきへ替わっていけば、鼻で笑うように応えた。


「奇遇じゃない、あたしもクロガネを殺したい。それは誰にも絶対に譲る気ないから」


 刺さった戦斧ごと黛莉が機関銃を横振りすれば、代理人体である白い女性は吹っ飛ばされた。

 チッと舌打ちする雪南は、まだ箸と茶碗を手にしたままだ。

 不敵な笑みを浮かべた黛莉は、再び機関銃を構えた。戦斧によって銃身は傷ついたはずが、その跡さえ見えない。きれいなままだ。

 雪南も白き代理人体を正面に据えて体勢を立て直した。

 いつ始まってもおかしくない状態は、円眞にすればたまったものではない。


「ふ、二人ともやめようよ。やるならせめて部屋の外にしない?」


 しない! 寸分違わず揃った声が返ってきた。


 円眞にとって最悪の結果となった。訊き方がまずかったな、と反省が浮かんだものの遅きに失している。

 雪南と黛莉の睨み合いは、傍からでも分かるほど極限にまで高まっていく。


 新しく住める場所を探さなきゃダメかな、と独りごちる円眞だ。すっかり諦めの境地へ陥った時だった。


 なにっ、と雪南がもらす。

 あっ、と黛莉が発したタイミングも一緒だ。

 二人は白い糸のようなものに巻かれた。瞬く間に雪南と黛莉は顔だけ出して蚕の繭に閉じ込められたみたいな格好へなっていた。


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