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92 転生

一応、最終話です

「………いつつ」


決着をつけ終わった美香は、自分でも分かるほどに緊張の糸が切れ、体中の痛みを今更認知した。


「……治す必要は、ない」


どちらにせよ、この後は女神になる必要がある。

目的はみかんを元の世界に送ることだが、これにみかんの意思は関係ない。


「…みかん、いる?」


思ったよりも声が出ないことに驚きつつも、みかんの姿を探す。

だが、その姿はどこにもいない。


まさか、魔法で巻き込んでしまっただろうか。

慌てて辺りを見渡すが、やはりどこにもいない。


(……どこにいったの?)


太刀を、投げ飛ばした鞘に収め、杖替わりにして歩く。

治せば普通に歩けるのだが、このあと使う魔法にどれだけ魔力を有するか分からない以上、魔力を消費することは避けたかった。


日にちをずらせばいいのでは、とも思うが、美香は1日でも早く終わらせてしまいたかったのだ。


「……ジェイナとアーリアは…」


家に戻ってきた美香は、自分の両親だったものの名前を口に出しながら家に入る。


扉を開けて中に入ると、リビングで緊張を張り巡らせながら立っている3人がいた。


「……美香」


「終わったよ、みかん」


「……お疲れ様」


そう言うと、みかんは美香を抱きしめた。


美香は抱きしめ返しながら、ジェイナとアーリアを横目で見る。

2人は、何かを言おうとして躊躇っているように見えた。


(……私が『ミカ』ではなく『美香』として生きていることを、雰囲気で察したかな)


とはいえ、今の美香はこの2人に対する関心は薄い。

みかんを肩を押して離し、部屋へ行こうと言う。


「……部屋って、あの屋根が半分ない部屋?」


「本当はどこでもいいんだけど…」


そう言いながら、美香はチラリと後ろの2人を見る。

視線で察したみかんは、1つ頷き、美香から離れた。


「わかった。それじゃ行こうか」













「それで、話って?」


ベッドに腰掛けたみかんは、どこか期待したような、それでいて察しているような顔で美香に問いかける。


美香は特にその顔に反応はせず、淡々に告げる。


「実は、みかんを元の世界に戻そうと思ってる」


「……そっか」


美香の言葉が予想通りだったのか、みかんは薄く微笑んで言う。


「それじゃ、一緒に学校に通えるね!」


「……」


なるほど、と美香は思った。

みかんが期待したような顔をし、美香が元の世界へと戻すと言った時に微笑んだのも、美香と一緒、と考えているからだ。


ただ、美香はそれを裏切らなければならない。


「みかん。私は戻れない」


「……え?」


みかんの顔が、笑みを浮かべたまま固まった。

それを見て、申し訳ないと多少思う程度には、美香はみかんを好意的に思っているようだ。


美香は、みかんの肩に手を置き、これからのことを言う。


「みかんを元の世界に戻すには、ラノベとかでよくある女神にならなきゃいけない。だから、私がなる」


「そ、そんなのっ…! 戻らなくてもいいから、私はっ…!」


「それはダメ。みかんの気持ちもわかる。けど、これは私が決めたことだから」


それだけ言うと、みかんの返事を待たずに美香はみかんの側から離れ、魔法を部屋で行使する。


魔法名は無い。

考えたところで、後ほど使う予定も無ければ、使う人もいない。


「………ふぅ」


自身の体を上書きし、人間から女神へと昇華する。

その際に、魔力は馬鹿みたいに減っていくが、何とか足りそうだ。


もう少しで上書きが完了する、というところで、突然、美香は喀血した。


「ゴフッ…!?」


だが、魔法を中止する訳にはいかない。

中途半端な上書きをしたまま終われば、どんな状態になるかわからない。


喀血するだけでなく、傷跡からも血が吹き出す。

吹き出した血がみかんにかかるが、みかんはその血を拭うことなく、美香を見続けていた。


「……美香…」


「……」


口の端から血を垂らしつつ、美香は魔法を行使する。


しばらくそれを続けたところで、突然美香の背中から白い羽根が勢いよく生えた。


「……」


そして、美香の周囲に少し大きさが異なる魔法陣か2つ出現した。

体中にあったはずの傷跡も消えており、血の跡も全て無くなっている。


「……美香?」


「これより、あなたを元の世界に戻します」


美香はみかんを無視し、みかんの肩に触れ、その『世界』からみかんと共に消えた。








「……ここは…?」


「ここは…そうですね。どこでもない世界、とでも表しましょうか。正確には私が創った空間ですが」


美香のあまりの変わりように、みかんはただただ驚いている。

それを見て、美香は柔らかく微笑んだ。


「ごめん、こっちの方がそれらしいと思って」


「……もう。いきなり変わったから驚いたよぉ」


美香の雰囲気が元に戻ったことで、みかんは

ほっとしたような顔になる。


ただ、これからお別れなのは変わらないのだが。


「みかん、準備は?」


「……うん、しょうがないよね」


そうは言うが、納得はできていない。

顔がそう語っていることを、みかんは分かっているのだろうか。


美香は、淡々と告げていく。


「向こうに行ったらもちろん、魔法は使えない。身体能力は、オリンピックとかは余裕だけど、かなり落ちると思う。質問は?」


「……持ち物、は?」


「特に干渉はしない。けど、向こうで何かをしようと思うならその時対処する。他は?」


「また、会えるかな?」


「……」


その質問には、美香は即答できなかった。

確かに、会いたくないと言えば嘘になる。

なんだかんだ、美香が高校に入学して初めて出来た友達だ。


「……そのうち、ね」


「! うん!」


結局、美香は希望を与えるようなことを言って、その場をやり過ごした。

その言葉を疑うことなく、みかんは喜んだ。


さて、と美香は息を吐く。


「そろそろ戻すけど…いい?」


「……もう少し一緒にいたい、って言ったら…?」


「……もう少しだけ、だよ」


「やった!」











「昔さ、転んだ時にガードレールに顔面ぶつけちゃってさ…」


「痛くなかったの?」


「痛くなかった! けど血が出て、前歯の上の歯茎が半分無くなっちゃった…」


「……」


みかんの昔話を聞きながら、美香は適当に相槌を打つ。


そろそろ、みかんの魂がここに定着してしまう。


「時間だよ、みかん」


「……そっか。それじゃ、さよなら、だね」


「……うん」


1つ息を吐き、美香は意識を切り替える。


薄く微笑み、右の手のひらを前に突き出す。


「それでは、これより元の世界へと転送します。その際の注意事項は先程お伝えした通りです。……またどこかで会うこともあるかもしれません。それでは、お元気で」


美香がそう言うと、みかんの体を包み込むように光り出す。

その中で、みかんは叫んだ。


「美香! 私、ずっと、忘れないからね!」


そして、みかんの姿はその場から消えた。

みかんは今、元の世界の地球へと戻されている。

残念ながら時間は進行し、戻る場所は招集されたあの広場だが、特に問題はないだろう。

何かあれば、バレないように干渉する。


「……」


ため息を1つし、美香は椅子を創り出して座る。


みかんの最後の言葉が、頭の中で響いていた。










「………」


みかんが帰ってから、何分たっただろうか。

それとも、何時間。

あるいは、何秒。


もしかしたら、時間はたっていないのかもしれない。


「………」


この空間が美香の思っているよりも特殊な空間だったようで、時間の概念が無いようだ。

つまり、美香が、異世界に行くという元の世界でのイベントを無かったことにもできる、という事だ。


ただし、その時に美香自身がどうなるかは不明だ。


消えることはないだろうから、辻褄が合うように世界全体が修正されるのか、それとも平行世界として別れるのか。


「………」


次に考えるのは、幸せ。


美香は異世界へと移動して、幸せだっただろうか。


(いや、幸せだった。間違いなく。ただ、絶望もした)


それだけだ。


と、ここで美香は閃いた。


異世界に来たことで、美香は親に愛され、大切な人ができ、幸せな日々を送った。

であるならば、絶望するイベントを起こさなければ、幸せのまま過ごせたのではないだろうか。


(……もしかしたら、他の、不幸せな人を救えるかもしれない)


そこからの美香の行動は、早かった。











「……よし」


転生させる人達の世界は、美香がいた世界に絞ることにして、転生させる先は、ミカとして生きた世界にとりあえずは固定する。


慣れるまでは、色んな世界に手を出すべきではないだろう。

転生させる人達の世界は適当でもいいだろうが、転生させる先は絞った方が楽だ。


ついで、転生者に目的を与える。

ただ転生させただけでは、転生者によってはなんの意味もなく、幸せにはなれずに死んでいく可能性がある。


定番の、魔王と呼ばれる存在も新たに創り出し、転生先にいた元の魔王に上書きする。

これで、ある程度はこちらの指示通りに動くようになった。


転生者の世界を観察していると、ようやく対象者を見つけた。


みんなにいじめられ、世界かは否定され、家にひきこもり、親にも期待されずただ死んでいくはずの少年。


「……」


恐らく、彼にはもう、この世界でのチャンスは無いに等しい。

やる気があれば別だが、彼にはもうその気は無い。


「転生、開始」










「あれ…俺、死んだのか…? それとも、夢でも…」


「残念ながら、夢ではありません」


美香の言葉に、魂だけになった男は驚いたような雰囲気を出す。


今の美香であれば、魂だけでも、どんな感情を持っているかは容易に把握出来る。


「あなたは死んでしまいました」


「……そうですか」


「悔しくはありませんか?」


「……え?」


美香の問いに、男は戸惑ったような声を上げた。


美香はただ問いかけるのみだ。


「悔しくは、ありませんか?」


「……悔しい、です」


この男は、かつては親に褒めて欲しくて、友達に、先生に、ただ褒めて欲しくて頑張ったが、認められず、挫折した過去がある。


であれば、必ず食いつくと美香は確信していた。


「あなたには、チャンスを与えましょう」


「チャンス…?」


「あなたを異世界に送ります。そこで、第2の人生を送ってください」


「……は?」


「ただし、ただ生きるのではありません。そこにいる魔王を倒して欲しいのです」


「……あぁ、よくあるラノベの…あれ、でも異世界には科学で行けるように…」


「残念ながら、そちらは私が閉じました」


美香の預かり知らぬところで人間をポンポンと送られては、少々めんどくさいことになる。

今そのことを思い出した美香は、瞬時に科学の力で異世界へと開くゲートを閉じた。


これで、科学では世界が終わるまで異世界にはいけない。


「なるほど……それで、僕には何か力をくれるんですか?」


「こちらから何かを お1つ、お選びください」


そう言い、美香は1冊の本を見えるように広げる。

そのまま手を離し、空間に留める。


魂だけの男がページをめくろうとしたが、手がないために困惑しているようだ。


「念じればめくれます」


「あぁ…どうも」











「これにします」


「……『魔剣 ディスヴァリナ』でよろしいですか?」


「はい、それで」


『魔剣 ディスヴァリナ』。

以前美香が使っていた黒くなった剣をイメージのベースに置き、剣自体に特殊能力と感情を持たせ、ついでに擬人化能力も持たせたものだ。


今でも、『擬人化っているか?』と思わずにはいられないが、持たせた能力、CPUとでも言うべきもののレベルはかなり高く、剣自体の能力も高いため、主人を守ることに関しては心強いだろう。


さて、と美香は次の準備に移る。


「転生する体は、完全にランダムとなりますが、人間であることは間違いありません。魔剣はあなたの前に自然と現れます」


「……なるほど」


「容姿は普通が最低限ですので、心配しなくても大丈夫です」


それだけ言うと、美香はゲートを開く。


このゲートをくぐれば、魂がこれから生命を創り出す予定にある夫婦の元へと飛ばされる。


生まれる予定だった別の赤ちゃんが死ぬわけではない。


「それでは、良い人生を」


そうして、魂はゲートをくぐった。











これで、1人目が終わった。


「……」


疲れはない。

身体的にも、精神的にも。


(幸せになるかどうかの保証は出来ないけど、出来るだけのことはしよう)


それが例え、余計なお世話だと言われても、美香はもう決めた。

幸せにすると。

そのための努力は惜しまないつもりだ。


(かつての私みたいに、笑って暮らしてくれれば…それでいい)


そうして美香は、また魂を呼び出した。

今回のお話で終了です。


ありがとうございました。


次回作もすぐに上がると思いますので、その時にまたお目にかかることが出来たら、またよろしくお願いします!

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