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34 学院で誕生日会です!

10月20日。

ミカの誕生日だ。


(ついに7歳なのね…)


ミカは、自室でセフィアに起こされずに、珍しく自分で起きる。


そのまま窓から外に出て、日課を始める。


(寝間着のまま訓練するって、どうなのかしらね)


と言っても、それならば着替えればいいだけなのだが、当の本人であるミカが着替えるのを面倒に思っているので、これが解決されることは無い。


『コンバート』している剣を出し、ふり抜く。


『筋力上昇』をかけなくても、剣を振ることは出来るようになってきた。

しかし、そうなると両腕が必要になる。


「……左腕も、完治かしらね」


約5ヶ月かかったミカの左腕の完治。

『リペア』をかかしたことはなかったが、思っていたよりも時間がかかってしまった。


「…このことをお母様が知ったら喜んでくれるかしら」


この世界には、日本にあったメールのような機能を持った魔法はない。

しかし、代わりに伝書鳩のようなものは存在している。


配達が得意な動物がいるのだ。


(動物、というか、亜人種というか)


亜人種。

人間とはまた別の国を形成している人種だ。

ミカがかつて考えていた思考は、当たっていたことになる。


「お嬢様」


「あら、セフィア」


ミカが考え事をしながら剣を振っていると、後ろからセフィアに声をかけられた。


振り返ると、セフィアはいつもよりやけに優しい笑顔で言う。


「お嬢様、朝食の準備が出来ました」


「ええ、ありがとう」


以前、この寮で食べた朝食をセフィアが食べたところ、その出来の悪さに涙を流し、その日以来、こうして朝食はセフィアが直接作り、ミカが食べている。


昼食と夕食はいいのかとミカが聞いたところ、いいのだと言う。


朝食だけは譲れないようだ。


セフィアを抱え、部屋に戻ったミカは、のそのそと起きてきたジェシカと朝食を摂る。

朝食はジェシカの分も作っているのだ。


これは、ミカが望んだことでもある。


(だって、仲のいい人とは一緒にご飯を食べたいじゃない)


ミカとジェシカは2年違うが、仲はいい。

ミカは信頼出来る先輩と見ているようだが、ジェシカはまた違う思いを持っているようだった。


それは、セフィアに近しいものを感じる。

故に、セフィアとジェシカは時にライバル視し、共闘したりする。


ミカは、無意識にミカ自身の虜にしているようだった。


しかし、ジェシカはミカが常に近くにいるからこそここまで依存したのであって、他の生徒もジェシカよりは軽いが多少は依存している。


その大半の理由が『庇護欲』だ。


「……」


「もぐもぐ」


朝食の食べ方にしてもそうだ。


今日の朝食は、パンにスクランブルエッグだが、パンを両手で掴んで一生懸命食べているミカを見れば、守ってあげたくなるというもの。


しかし、実際には守られているのは逆だったりするのだが。


「お嬢様、お茶でございます」


「ありがとう、セフィア」


食べ終わったタイミングで出されたお茶を、ミカは、セフィアから受け取る。


ミカ自身、自分が可愛いことは知っているが、こんなにも周りの人から愛されているなんて知らないだろう。


なので。


今日がミカの誕生日だということをみんなが知っている。

今日は、騒がしい1日になる。












まずは、教室に入った時。


「おはようございます、皆さん」


「ミカ様、お誕生日おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」


「えっ? あ、ありがとう?」


まさか、教室にいるみんなから祝われるとは思っていなかったミカは、嬉しさよりも驚きが勝ってしまい、語尾に『?』がついてしまう。


が、やはり嬉しいものは嬉しい。


お祝いの言葉を告げた生徒は、次々とプレゼントの袋をみかに渡していく。


その中身は、化粧グッズや服など、色々だ。


「ありがとう、みんな…!」


日本にいた時でも、こんな風に祝ってもらったことは無かったミカ。


(お母様やお父様に祝ってもらうのもいいけど、こういうのもいいわね…)


ミカは、素直に感謝していた。











昼食にて。


「ミカさん、おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」


「ミカさん、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


ミカは、すれ違う上級生全員からおめでとうを言ってもらい、その度にお祝い品を貰っていた。


(さすがにこれ以上は持てない…あ、そのための『コンバート』!)


ミカは、持っていたプレゼントを全て『コンバート』し、ジェシカの元へと歩いていく。


その間にも受け取っていたことは言わずともわかるだろう。


「人気者ですわね」


「えへへ…そんなに人気者になった覚えはないんですけど、祝ってもらうのは嬉しいですね」


そう言いながら微笑むミカ。


その笑顔は、まるでさんさんと輝き、暖かい光りを降り注いでいる太陽のよう。


「それじゃあ、いただきましょうか?」


「はい!」


ミカは、ジェシカと一緒に昼食を摂っていく。


それを遠巻きに見ている生徒達。


異様な光景が、食堂に広がっていた。









放課後。


「ミカさん、少しこちらに来て頂ける?」


「わ、わかりました」


いつも通り勉強していたミカは、ジェシカに言われて部屋の外を出た。


そして、ミカはジェシカに手を取られる。


「ジェシカ先輩?」


「少し付き合ってもらいますわ」


そう言い、ジェシカはそのまま進んでいく。


立ち止まっていても引きずられるだけなので、ミカは手を繋いだまま横を歩いていく。


ついたのは、食堂だった。


「ジェシカ先輩、まだ夕食の用意は出来ていないようですけど…」


「もちろんですわ」


そう言い、ジェシカは指を鳴らす。

すると、奥から料理が一気に運ばれてくる。


それを見たミカは、息を漏らすだけだ。


ジェシカは、ミカの手を離し、1番近い椅子を引く。

本来はセフィアの役目だが、今回ばかりはいいだろう。


「さ、お座りくださいな」


「ジェシカ先輩…」


ミカは、言われたまま座る。


すると、料理を運んでいた生徒全員がジェシカの後ろに並び、一斉に口を開く。


『ミカ様、お誕生日おめでとうございます!』


「……」


(あれ、朝あんなに言ってなかったっけ)


感謝の気持ちと同時に、そんなことも考えるミカ。

それだけ、現実感が無いということだ。


ミカは、準備してくれたみんなに、頭を下げて、笑顔で言う。


「みんな、ありがとう、私のために!」


この笑顔を見た生徒達で、『ミカファンクラブ』なるものが出来たことを、ミカが知ったのは卒業後だった。


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