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第五話「虚像を追う足跡」


 秋田の朝は冷たく澄み、旅館の中庭に立つ杉の枝先には、夜露がまだ光っていた。広間に設けられた臨時の捜査本部では、昨夜の議員殺害の調査が続けられている。机の上には携帯端末の解析資料や、目撃証言をまとめたメモが並び、刑事たちの声が低く交錯していた。


 遼真はその場の空気を吸い込みながら、記録の束をめくっていた。鴻池議員が噴水で発見される直前に受けた“非通知の電話”。その発信源はプリペイド式携帯。契約者情報はなく、送信記録も痕跡が削がれていた。だが、完全な無ではない。


 通信記録の中に、ひとつだけ“揺らぎ”があった。発信元の基地局が、仙北市郊外の鉄塔を経由していたのだ。イベント会場や旅館とは明らかに距離があり、現場から離れた地点から掛けられていたことを示していた。


「つまり、犯人は現場に直接いたとは限らない……」

 遼真は呟き、眉を寄せる。

「遠隔で呼び出し、議員を誘導し……現場で待っていた別の者が刺した?」


 その推論に、西園寺一課長が低く答えた。

「可能性はあるな。昨夜、議員が誰かに軽く会釈していたという証言もあった。つまり“呼び出した者”と“実行した者”は別人かもしれない」


 山岸刑事がファイルを広げ、目撃証言を読み上げる。

「夫婦の話では、議員と会釈を交わしたのは四十代半ばの男。中肉中背で、眼鏡をかけていたようだと」


 その瞬間、遼真の脳裏に一つの記憶が閃いた。昨日のイベント会場、控室へ続く廊下の端で、確かにそのような男を見かけた気がする。スタッフに紛れ、表情を硬くして携帯を耳に当てていた姿――。


「……あの人物かもしれない」

 遼真は心の中で呟いた。だがまだ確証はない。


 さらに調査が進み、議員の携帯に残された断片的なデータから、“削除されたメッセージ”のファイル名の一部が復元された。そこには、奇妙なアルファベットの連なりと共に「ZUIHODEN」という文字が残っていた。


「瑞鳳殿……?」

 遼真は思わず声に出した。

「仙台の伊達政宗公の廟所。議員は事件前に、観光でそこを訪れていたはずです」


 西園寺の瞳が鋭く光った。

「つまり――議員が最後に受け取ったメッセージは、観光地の名を暗号のように使っていた。彼を呼び出す“鍵”だったのかもしれん」


 沈黙が広間を包む。

 遼真は胸の奥に冷たいものを感じながらも、言葉を絞り出した。

「議員を呼び出した人物は……単なる知人ではない。彼の行動や訪れた場所を把握していた者だ。つまり――“同行していた関係者”の中に、鍵を握る人間がいる」


 その言葉に、刑事たちの視線が一斉に動いた。


 外の噴水では、朝日を浴びて水がきらめいていた。だがその水面には、まだ昨夜の赤い影が揺らめいているように見えた。

 ――虚像を追う足跡は、確実に真実へと近づきつつある。


 だが同時に、遼真の心には別の疑念も芽生えていた。

(議員を狙った理由は何だ……。単なる私怨ではない。もっと大きな力が背後にあるのでは……)


 その疑念は、やがて彼をさらなる闇へと導いていくことになるのだった。



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