【書籍化記念SS】大切な言葉
『戦利品令嬢シェリルは自分を殺す夫を籠絡したい!』
KADOKAWAビーンズ文庫さまより、2025年8月1日発売予定!
さらに、同月末に発売される
『悪役令嬢、セシリア・シルビィは死にたくないので男装することにした。延長戦!』
との連動購入特典もご用意しています!
書籍版では、WEB版とは後半の展開が大きく異なります。
WEBで楽しんでくださった皆さまにも、きっと楽しんでいただけると思います!
本SSは書籍化記念として書き下ろした短編です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
どうぞ、よろしくお願いいたします!
きっかけは、シェリルから送られた一通の手紙――いや、手紙と呼ぶにはあまりにも短いただのメモだった。
『ルーク様へ
お仕事、忙しそうですが、お身体は大丈夫ですか?
最近暑くなってきましたので、気をつけてお仕事頑張ってくださいね。
シェリル』
それが届いたのは、たまたま政務が立て込み、彼女と顔を合わせられない日々が続いていた頃だった。エリックを介して手渡されたその小さなメモがあまりにも可愛くて、返信をしたのが最初のやり取りだった。
そうして、気がつけば一ヶ月以上手紙のやりとりが続いている。
「でも、まさかここまで喜んでくれてるとは思わなかったな」
そう言うルークの目の前にあるのは、シェリルの部屋にある木製の小さな机だった。上段の引き出しの中には、ルークがシェリルに送ったたくさんのメモと、数通の便箋たちが綺麗に整理されて収まっている。
そう、ルークが現在いるのはシェリルの部屋だった。
ここしばらく立て込んでいた仕事が落ち着き、ようやくシェリルに会う時間が取れるということで、彼はこの部屋まで来たのである。しかしながら部屋の中には誰もおらず、部屋を覗くと、わずかに引き出しが開いていた。それに誘われるようにして、ルークはシェリルの部屋の中に入り、そうして、自分が送ったメモの束を見つけたのである。
いけないとわかりつつも、ルークはシェリルの机の中をまじまじと観察する。
整理整頓の行き届いた引き出しの中の中心に、自分の書いたものが皺の伸ばされた状態で綺麗なリボンでまとめられている。しかも、『すごく嬉しかったお手紙!』はさらに別にわけてあるのである。
紙の束の上に置かれている、『すごく嬉しかったお手紙!』という文字をルークは指先でなぞる。
その可愛い文字に、胸がぎゅっとなると同時に、顔がにやけた。
こういう可愛いことをされると、どうしたらいいのかわからなくなる。今すぐ彼女に会いに行って、このことを問い詰めてやりたいような気持ちにもなるし、自分の胸だけにこのことを納めておいて、あとで一人で噛みしめたくもなる。
そんなことを考えている時だった。突然、部屋の扉が開かれる。
ルークがそちらの方へ顔を向けると、そこにはシェリルの姿があった。ドアノブを握っている彼女は、ルークと開け放たれた引き出しを交互に見て、あわわわわ……と一瞬で顔を真っ赤にさせた。
そうして、すぐさまこちらに駆け寄り、ルークと机の間に身体をねじりこませ、引き出しを閉じた。
「な、な、な、なにをしているんですか、ルーク様!」
その慌てようがあまりにも可愛くて、いじめたくなった。
ルークは机に両手をついて、彼女を自分と机の間に閉じ込める。そうして、顔と顔の距離を詰め、色のついた声を出した。
「ねぇ、シェリル。それって俺が送った手紙だよね? 大事に取ってくれてるんだ?」
問い詰められた内容が図星で気恥ずかしかったからか、はたまた単純にルークの顔が近づいてきたからか、彼女の頬は更に赤く染まり、額にはじわりと汗が滲んだ。それを見てルークはさらにシェリルと距離を詰める。
「ねぇ、そんなに嬉しいなら、もっと情熱的な言葉書いてあげようか? シェリルが望むなら、どんなに恥ずかしい愛の言葉でも書いてあげるけど?」
「そ、そういうのはいりません!」
シェリルは両手でルークの胸を押し返すようにした。
その言葉と態度に、ルークは思わず目を瞬かせる。
だって、『書いてほしいです』と頷かれるとは思っていなかったけれど、『いりません』と拒絶されるとも思わなかったからだ。
驚くルークのシャツをシェリルがぎゅっと掴む。そうして、やっぱり恥ずかしそうに視線を逸らした。
「だって、私が見た物は無限書庫に記録されちゃいます」
「それはダメなの?」
「無限書庫に記録されるということは、私の次の神使にも読まれてしまうということですから。……で、出来れば、その、大切な言葉は私だけの物にしておきたいじゃないですか」
ひゅっ、と息を呑んでしまった。
あまりにも可愛いことを言うから、呼吸が止まりそうになる。
シェリルはさらにとどめだといわんばかりに、こちらの方をじっと上目遣いで見つめてきた。
「だから、その、大切な言葉は私に直接言ってください」
そのお願いに今度は心臓が止まりそうになる。
固まってしまったルークをどう取ったのか、シェリルは「ルーク様?」と首をかしげた。
ルークはシェリルから顔を背けながら、自身の顔の赤みを隠すように口元を片手で覆った。
「いや。確かに大切な言葉は直接聞くのがいいと思ってね」




