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誘拐中?

 結論から言うと、アルテミシアにも箱庭の存在を教えよう、という事になった。

 どうせレイと結婚(告白もまだなのだが、逃れられられるとは思えない為)したら教える事になるだろうし、ユーリのお部屋がすでに箱庭にある以上、お目付け役兼護衛のアルテミシアのお部屋もそのうち生えてくるだろうという結論に達したのだ。

 理由はそれだけではなく、これから先、何かあった時の最高の隠れ家である箱庭の事をユーリ側の誰かにも教えておいた方がいいだろうという話しにもなったのだ。


「叔母上も温泉気に入ってくれるかな」


 ユーリは箱庭にある露天風呂に浸かってからすっかり温泉がお気に入りとなっている。箱庭にある温泉と図書室とコタツはもはや手放せないものとなっていた。


「前にも言ったけど、お肌ツルツルで綺麗になれるんだよ。お気に召さない女性陣はいないと思うけどね」

「だよねぇ。あー、早く箱庭に帰りたいよ」


 2人でとりとめのない会話をしているが、ナリスとユーリの身柄はすでに捕らわれの身だ。

 捕まった、というよりは、ほぼほぼ自分たちから誘拐とされたというか何と言うか、というようなものではあるのだが。


 何があるのかわからないので、先にアルテミシアの箱庭の使用許可を出しておいて、説明を次に来た時にでもしよう、という事で話し合いはまとまり、シメオンは準備の為に一度神都ベテルギウスに戻った。

 そして、ナリスとユーリがクロードに会いに行くために南ギルドに向かっていると、前方から見覚えのある3人組がやってきたのだ。


「ちょうどいいところで会ったな、坊やたち。今度こそ私と一緒に来てもらうぞ」

「あー、さる高貴な方の部下の人たちだ」


 ステータスにフォラスの子爵と出ている貴族の男を先頭に前に立ちはだかった。


「ちょっと聞きたいんだけど、さる高貴な方って女性?」

「ふ、ようやくこちらの言う事を聞く気になったのか。我らの主は女性の方だ。それもわが国でも最も高貴な方だ。どうだ、大人しく来る気になったか?」


 自分の事の様にふんぞり返っている子爵だが、わが国がフォラスである以上、最も高貴な女性=王妃であり、その手下であることは間違いないだろう。

 どうもお貴族様は、民衆など何も出来ないと高をくくっているのか、まぁまぁ情報を垂れ流しにしてくれる。特にフォラスは人族の貴族至上主義者が多くてペラペラとしゃべってくれるので、大変情報が集めやすくてありがたい。


「一緒に行ったら、その女性に会わせてくれるの?」

「お前たちは顔立ちも綺麗だからな。王妃様もお気に召すだろうよ」


 はっきりと王妃様と言ってしまっているのだが、それさえも気付いていないだろう。

 皇宮でイヤというほど、貴族たちのあれやこれやを見て育ってきているユーリとしては、あまりにも簡単すぎるフォラスの貴族に、本当にこれで大丈夫なのか?という疑問が湧いていた。ナリス曰く、そんなもんだって、との事だが、これが自国の貴族だった場合は、情報の垂れ流しは極刑に値すると思っている。ほんの些細な情報から物事はとんでもない方向へといってしまう事もあるので、自分の持つ情報の価値や重要性というものは把握しておかなくてはならないのだ。そして流すにしても、そこに意図を持ってやらなくてはいけない、と授業でユーリは習った。


「この間のようにギルドに逃げ込んだら、今度こそ我ら貴族の力で、ギルドの1つくらいは潰してやる。わかったら、大人しく我らと来い」

「はーい」


 遠足気分で応えたナリスと初めて国外に出るのでちょっとワクワクしてしまっているユーリに緊張感は全くないのだが、フォラスの子爵サマは2人の様子を見る気もないので、そこには気付かない。

 

「ユーリ、ボクがシメオン様にはお知らせしとくね」


 ナリスの影から伝書鳥がひょこっと顔を出し、2人を見て鳥のくせに器用にうなづくとバサッと飛び立った。伝書鳥はまっすぐベテルギウスにいるシメオンの元へと向かって飛んで行くようにしてある。そんなに遠くないので、シメオンの元にはすぐにつくだろう。そして、教皇様から各所に連絡をしておいてもらえれば、余計な捜索隊が結成されることはない。


「これに乗れ」


 1台の質素な馬車が停まっていて、2人はそれに乗せられた。どっちみち国境を越えようと思っていたのだ。誰と一緒に行っても問題はない。しいて言うなら、ユーリまで人生2度目の誘拐に付き合わさせてしまったことが悔やまれるが、前回と違って今回はナリスと一緒ということもあってか、ユーリは落ち着いている。


「怖くない?」

「うん。ナリスが一緒だし、前と違って理由もわかってるしね。大丈夫だよ」


 2人の乗った馬車は何事もなくアークトゥルスの出入り口の門をくぐり、ごとごとと道を進んで行く。


「ナリスはフォラスの生まれなんだろう?どんな場所か覚えてる?」

「ボクは赤ん坊の時にアークトゥルスに来てるから思い出なんて一切ないんだけど、お父さんたちはたまにフォラスの事を話してくれるよ。フォラスは小さい国だけど、黒の森からのスタンピードと戦ってきた国でもあるんだって。ボクが生まれたラグナ辺境伯家はその最前線で戦ってきたから、王家の信頼も厚かったらしいよ。でも、最近は、王侯貴族の質そのものが落ちて来てるんだってさー」


 その結果、有能な騎士であったレイを引退に追い込み国外に流出させるという状況を作り上げたので、特に故郷だなどとは思わない。むしろナリスの故郷は今やアークトゥルスだ。そこで幼い内から育ってきたのだから、そういう感情を持つ場所はアークトゥルス以外にない。


「ぼくは生まれも育ちもアークトゥルスだし、こんな風になってしまったけれど、レグルスを出るのは初めてだから、少しドキドキしている」

「フォーマルハウト神王国も行ったことないの?」

「うん。10歳の誕生日を迎えるまでには行くことになっているんだけど、まだ、国から外へは出た事がない」

「そっか、たまにレグルスから外に出てるけどけっこう楽しいよ。そのうちダンジョンアタックとか一緒にしようね」


 有名なダンジョンは所在地が他国になっていることも多いので、冒険者はけっこう国境を越えてのお出かけが多い。レイのように子育てのために近場の依頼をこなす者もあれば、遠出してダンジョン攻略等に精を出す者も多いので、ユーリも冒険者として他国に赴くことは出来る。ただし、その場合はさすがに事前にご両親の許可を取らないといけないとは思う。

 今回はちょっと特殊事例として見逃してもらいたい。いくらレグルス皇国とフォラス王国の国力の差がはっきり出ているとはいえ、一応、隣国が国境を閉ざしたのだ。その理由を知りに、もしくは排除に行くのだから、皇子様を巻き込んだ事についてはぜひとも不問にしていただきたい。その代わり、ユーリの安全は絶対に確保するつもりだ。いざとなれば、箱庭に放り込んでレグルスのオウル邸に残っているアマーリエに保護してもらうだけなので問題はない。ユーリ1人を放り込むくらいの穴ならその場で強引に空間を開くこともできる。


「不謹慎かもしれないが、ぼくはナリスとこうして外に出るのが楽しいんだ。ちょっとワクワクしてる」


 バツが悪そうな顔でユーリがナリスを見た。そんなユーリに対してナリスも茶目っ気たっぷりの目で笑って答えた。


「あはは、ボクも楽しいよ。でもちょっとユーリのお父さんとお母さんには手土産持って挨拶にいかないとだねぇ、『息子さんを巻き込んでごめんなさい。でもこれからも巻き込みます』って宣言しに行かないと」

「ふッ。本気?」

「本気、本気。お父さんも肉体言語系の方?」

「んー、どっちかって言うと、精神追い込み系かな?」


 さすがにレグルスの皇帝陛下は肉体で語る方ではなかった。知略で持って追い詰める方のようだ。


「うわ、大丈夫かな。今からご挨拶が心配になってきたよ」


 嫁を貰う挨拶に行くわけではないのだが、ナリスはちょっと天を仰いだ。元の世界の親友は、どれだけ知略に優れていようとも、しょせんはあの時代の男なので、最終的には肉体言語でどうにかする派なのだが、こちらの世界の親友の父は謀略万歳の宮廷を牛耳っている方なので、肉体言語無しの語らいが必要な方のようである。


「ユーリのお友達認定もらえるか不安になってきたよ。ミーシャさんに認めさせる方が楽チンな気がする」


 どこがどうなったのか、同じ父母を持つ皇家の兄妹は、兄が精神追い詰め型で妹がまさかの肉体言語派という、一見、逆な気がしてならない兄妹であるようだった。

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